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「起きて大丈夫なのか?アレン」
アレンの部屋に入って来たレスターがソファに座るアレンを見て言う。
「ええ。今は息が少し苦しい位で…それにアランが回復しなければ俺はいくら寝ても良くはならないですからね」
アレンは立ち上がると、レスターに礼を取る。
「双子には難儀な面もあるんだな。あれから十日…今日で十一日目か…アレンが良くなって来たと言う事はアランも良くなって来てるのか?」
「おそらく」
レスターがソファに座り、アレンも座る。
「アレン、アランたちは本当にロードの言う様にあれがシミヒプノだと知らなかったと思うか?」
「俺は、アランは知らなかったと思います。何しろアランは正直で顔に出やすいですし、薬学に関しては真摯なので、万一の危険のある物を誰でも近付く事ができる学園の花壇になど植える筈がない」
「そうか…そうだよな」
レスターはホッと息を吐く。
「ただ、シミヒプノ以外にも有害なガスが発生する植物があった様だが…おそらく主産地とは土壌が違うから図譜での解説より強い作用が出ただけだろう。まあこれについては薬学研究所が検証の上で解明してくれるだろう」
「そうですか」
「…アレン」
レスターは膝の上に肘を置き、大きく息を吐いた。
「はい」
「アランは…罪に問われるだろう」
「…はい」
アランは物故者を出した事故、いや事件のあった薬草畑の責任者だ。更に王族が違法植物を入手し、間接的にとは言え国民に危害を与えたのだ、罪に問われるのは必然だろう。
「王籍から…除されるかも知れん」
「…!」
それも、仕方がないのかも知れない。
しかしそうなると、パトリシアは…いや、今俺の私情でパトリシアの行く末を案じている訳にはいかない。
「それも覚悟しておけ」
「はい」
-----
「明日から秋期ですね。アレン殿下行かれるんですか?」
ジェイが言うと、結んでいる長い髪を触りながらアレンは頷く。
「ああ。生徒会長としての仕事もあるし、学園の様子も見たいしな。ただ寮へは入らず暫くは王宮から通おうと思う」
「それが良いです。しかしお身体は大丈夫なんですか?」
「少し息がし辛い程度で、随分楽になった」
「それは良かったです」
髪の束を結わえた紐を少しずらすと、アレンは懐からナイフを取り出す。
「殿下?」
鞘を口に咥えて引き抜くと、髪の毛にナイフを当てた。
「殿下!」
ジェイが少し慌てた様子で言う。
アレンはザクザクと髪を切り、切られた束をテーブルの上に置くと、ナイフを鞘に仕舞った。
「アレン殿下、髪をお切りになりたいなら申し付けてくだされば…」
「自分で切りたかったんだ。ジェイ、整えてくれるか?」
「私は髪を切った事はありませんので…おそらく下手ですよ?」
「構わん」
「アレン殿下、エリザベス様からお見舞いの品が届いております」
ジェイが鋏片手にアレンの髪を整えていると、他の侍従がやって来てそう言った。
「ああ…『心配かけて済まなかった。明日学園で会うのを楽しみにしている』と遣いの者に伝えてくれ」
「畏まりました」
侍従が出て行くと、ジェイは唐突に
「アラン殿下が罪に問われると、パトリシア様はどうなるんですか?」
と言う。
「何だ?急に」
「アレン殿下が敢えて考えない様にしておられるようなので、考えさせて差し上げようかと」
「……」
「考えたいですよね?幼なじみですし」
「…いや、むしろ考えたくない」
憮然とした表情のアレンを見ながらジェイはむしろ楽しそうだ。
「アラン殿下が罪に問われると、パトリシア様との婚約は解消になりますよね?」
「ジェイ」
「パトリシア様に非がある婚約解消ではないですし、侯爵令嬢で、お美しいですし、次のお相手もすぐ見つかるでしょうね」
「ジェイ」
「私も一応伯爵家の息子ですし、候補に入れてもらえないかなあ」
「ジェイ!」
アレンは強く言うと、両手で目元を覆って俯いた。
「…やめてくれ」
「……」
ジェイは二つ歳下のアレンの頭を、弟にする様に撫でた。
「アレン殿下は諦めが良過ぎますよね。ご婚約が決まる前にもっと足掻けば良かったのに…」
「…そうだとしても、もう遅い」
「私がその頃アレン殿下の側に居りましたら何としてでもご婚約を拒否なさるよう進言いたしましたのに…」
ジェイがアレンに付いたのは婚約が決まった後だったのだ。
「本当だな。もっと早くジェイを側に置いておけば良かった」
アレンは苦く笑った。
「お怒りになるのを覚悟して言いますが」
アレンの髪を撫でながらジェイが言う。
「何だ?」
「パトリシア様を側妃になさってはいかがですか?」
「ジェイ…」
アレンは振り向いてジェイを睨む。
ジェイは両手を顔の横に上げた。
「…唯一でないなど、パトリシアにもエリザベスにも失礼だ」
「そう仰るとは思っていました」
「起きて大丈夫なのか?アレン」
アレンの部屋に入って来たレスターがソファに座るアレンを見て言う。
「ええ。今は息が少し苦しい位で…それにアランが回復しなければ俺はいくら寝ても良くはならないですからね」
アレンは立ち上がると、レスターに礼を取る。
「双子には難儀な面もあるんだな。あれから十日…今日で十一日目か…アレンが良くなって来たと言う事はアランも良くなって来てるのか?」
「おそらく」
レスターがソファに座り、アレンも座る。
「アレン、アランたちは本当にロードの言う様にあれがシミヒプノだと知らなかったと思うか?」
「俺は、アランは知らなかったと思います。何しろアランは正直で顔に出やすいですし、薬学に関しては真摯なので、万一の危険のある物を誰でも近付く事ができる学園の花壇になど植える筈がない」
「そうか…そうだよな」
レスターはホッと息を吐く。
「ただ、シミヒプノ以外にも有害なガスが発生する植物があった様だが…おそらく主産地とは土壌が違うから図譜での解説より強い作用が出ただけだろう。まあこれについては薬学研究所が検証の上で解明してくれるだろう」
「そうですか」
「…アレン」
レスターは膝の上に肘を置き、大きく息を吐いた。
「はい」
「アランは…罪に問われるだろう」
「…はい」
アランは物故者を出した事故、いや事件のあった薬草畑の責任者だ。更に王族が違法植物を入手し、間接的にとは言え国民に危害を与えたのだ、罪に問われるのは必然だろう。
「王籍から…除されるかも知れん」
「…!」
それも、仕方がないのかも知れない。
しかしそうなると、パトリシアは…いや、今俺の私情でパトリシアの行く末を案じている訳にはいかない。
「それも覚悟しておけ」
「はい」
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「明日から秋期ですね。アレン殿下行かれるんですか?」
ジェイが言うと、結んでいる長い髪を触りながらアレンは頷く。
「ああ。生徒会長としての仕事もあるし、学園の様子も見たいしな。ただ寮へは入らず暫くは王宮から通おうと思う」
「それが良いです。しかしお身体は大丈夫なんですか?」
「少し息がし辛い程度で、随分楽になった」
「それは良かったです」
髪の束を結わえた紐を少しずらすと、アレンは懐からナイフを取り出す。
「殿下?」
鞘を口に咥えて引き抜くと、髪の毛にナイフを当てた。
「殿下!」
ジェイが少し慌てた様子で言う。
アレンはザクザクと髪を切り、切られた束をテーブルの上に置くと、ナイフを鞘に仕舞った。
「アレン殿下、髪をお切りになりたいなら申し付けてくだされば…」
「自分で切りたかったんだ。ジェイ、整えてくれるか?」
「私は髪を切った事はありませんので…おそらく下手ですよ?」
「構わん」
「アレン殿下、エリザベス様からお見舞いの品が届いております」
ジェイが鋏片手にアレンの髪を整えていると、他の侍従がやって来てそう言った。
「ああ…『心配かけて済まなかった。明日学園で会うのを楽しみにしている』と遣いの者に伝えてくれ」
「畏まりました」
侍従が出て行くと、ジェイは唐突に
「アラン殿下が罪に問われると、パトリシア様はどうなるんですか?」
と言う。
「何だ?急に」
「アレン殿下が敢えて考えない様にしておられるようなので、考えさせて差し上げようかと」
「……」
「考えたいですよね?幼なじみですし」
「…いや、むしろ考えたくない」
憮然とした表情のアレンを見ながらジェイはむしろ楽しそうだ。
「アラン殿下が罪に問われると、パトリシア様との婚約は解消になりますよね?」
「ジェイ」
「パトリシア様に非がある婚約解消ではないですし、侯爵令嬢で、お美しいですし、次のお相手もすぐ見つかるでしょうね」
「ジェイ」
「私も一応伯爵家の息子ですし、候補に入れてもらえないかなあ」
「ジェイ!」
アレンは強く言うと、両手で目元を覆って俯いた。
「…やめてくれ」
「……」
ジェイは二つ歳下のアレンの頭を、弟にする様に撫でた。
「アレン殿下は諦めが良過ぎますよね。ご婚約が決まる前にもっと足掻けば良かったのに…」
「…そうだとしても、もう遅い」
「私がその頃アレン殿下の側に居りましたら何としてでもご婚約を拒否なさるよう進言いたしましたのに…」
ジェイがアレンに付いたのは婚約が決まった後だったのだ。
「本当だな。もっと早くジェイを側に置いておけば良かった」
アレンは苦く笑った。
「お怒りになるのを覚悟して言いますが」
アレンの髪を撫でながらジェイが言う。
「何だ?」
「パトリシア様を側妃になさってはいかがですか?」
「ジェイ…」
アレンは振り向いてジェイを睨む。
ジェイは両手を顔の横に上げた。
「…唯一でないなど、パトリシアにもエリザベスにも失礼だ」
「そう仰るとは思っていました」
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