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「ロード…」
「お前、何乙ゲーのヒロインの名前を呟いてるんだ?」
 大学時代からの友人が、俺の手からリーフレットを取り上げて言う。
「ヒロイン?」
 俺はただ、友人の部屋に置いてあったリーフレットにが載っていたから…
「俺の会社が作った乙女ゲーム…恋愛シュミレーションゲームのチラシだぞ」
「ゲーム?ヒロインって言ったけど、これ男だろ?」
 友人が持つリーフレットの中央に描かれたピンクの髪の人物を指差す。
「お、わかる?でも男だけど結構かわいいだろ?」
 わかるも何も、俺、この男を、知って…

「このゲームアプリ、発売したばっかりなんだよ。何とシリーズ三作目だからこそのR指定アリ!」
「アール…」
「ヒロイン男だから、男がプレイしても結構おもしろいと思うぞ。お前このゲームやる?やるなら一つ教えてやるよ」

 スマホの画面に見慣れたロード
 そして、現れた攻略対象者たち。
「アレン…それに兄上。それから…」
 俺だ。画面に映る紫の髪、紫の瞳の男。これは前世の俺。アランだ。

 俺は前世でこのゲームの世界に居たのか?
 ゲームの登場人物だったから、あんなに強烈にロードに惹かれたのか。設定通りに。
 こんなものので俺はパティを不幸なまま、死なせてしまったのか!?
 理不尽な怒りと虚しさが胸の中に渦巻いた。

「パティ…」
 画面に現れたパトリシアに、目が釘付けになった。
 もっと見たい。パトリシアを。

【あっ…ん…ロード…本当にこれでアランに近付かないでくれるの?】
 パトリシアが、ロードと…
【もちろん。ふふ。目を瞑って、俺をアランだと思っても良いよ?】
 パトリシアの長くて綺麗な脚を掴んでロードが笑う。
【ん…あっ…あ…アラン…ああ、アラン…】
 パトリシアの上気した頬に涙が伝う。
【パティ。かわいいなあ…】
【アラン…好き…】
「っ!」
 思わず電源ボタンを押した。
 黒い画面に「俺」が写る。
 アランとは似ても似つかない今の俺。

 パトリシアを見るにはアランのルートに入らなくてはいけない。でもアランのルートに入れば悪役令嬢のパトリシアがアランと結ばれる事はない。もちろん悪役令嬢である以上、ロードと結ばれる事もない。
 幸せになるパティを見たいのに。

「そう言えば、あいつ、何か言ってたよな…」
 ふとこのゲームの制作会社に勤める友人の言葉を思い出す。
「確か…コンプリートボーナス?だったか?」

「何だ久々に連絡して来たと思ったらコンプリートボーナスって何だっけ?かよ」
「いいだろ。お前んトコのゲームしてやってんだから」
「お買い上げありがとうございます。あのな、ヒロインが、攻略対象者全員、さらに悪役令嬢全員とコンプリートボーナスが発生するんだ。これネットとかにも出回ってない社内秘情報なんだからお前も拡散するなよ」
 本当にコンプリートした奴から口コミで広がるのは構わんけどな。と友人は続ける。
「する?」
「R18ゲームなんだからセックスに決まってるだろ。卒業パーティーまでに全員と、だから結構難易度高いぞ」
「どんなボーナスなんだ?」
「攻略対象者と悪役令嬢が入れ替わる。但し一組だけ」
「…え?」
「例えば、レスターを悪役令嬢にして断罪追放して、ミッチェルを攻略対象者としてヒロインと結婚させる事ができる」

 じゃあコンプリートすれば、アランとパティを入れ替えて、ヒロインとパティが結ばれて、幸せになるのが見れるのか?

 そして、その日の帰り道に事故に遭った。

-----

 何で今度はヒロインに生まれ変わってるんだ?

 フェアリ伯爵家の養子に、と言われた日、俺は前世と、前前世の記憶を取り戻した。

 いや、違う。ヒロインで良かったんだ。
 前前世のアランは薬学には全く興味がなかったし、何もかもが同じではないけど…
 コンプリートすれば、アランとパトリシアを入れ替えて、今度こそパトリシアを幸せにする事ができる。

 なのに。
 悪役令嬢が死ぬなんて展開があって良いのか?

 輸入禁止の薬草を栽培していた事、燃やされたのは想定外とは言え、それが原因で人的被害が出た事。俺もアランもライネルも植えたのはヒプティだと思っていて、実はシミヒプノだったとは知らなかったと警察で言ったが、今は呆然自失状態のライネルが正気に戻ったら「実は知っていた」と本当の事を話してしまうかも知れない。ビビアンを失って俺を恨んでいれば「ロードにシミヒプノを仕入れろと強要された」と、言うかも…
 それに、もしもアランの意識がこのまま戻らなければ…婚約者のパトリシアはどうなる?
 意識が戻ったとしても、王子が法を犯した事に違いはない。そうなればパトリシアは…

「もうコンプリートは百パー無理なのだけは確かだな…」
 だとしたら、俺は、どうする?




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