上 下
20 / 79

19

しおりを挟む
19

「俺を除く攻略対象者全員と、パトリシア、エリザベス、エドワードか」
 アレンがアランの振りをしてパトリシアとお茶を飲みながら言う。
「ロード様が手を、出し…手を出したはちょっと違うけど、そんな感じの方?」
 パトリシアが難しそうに言うと、アレンは小さく吹き出した。
「ふっ。そうだな」
「…おかしかった?」
「うん。でもまあこの場合、適切な言葉がないな」
 クスクスと笑うアレン。
 …私の告白、気にしてないみたいで良かった。
「残るはミッチェル・カークランド、ビビアン・ミルトン、ダニエル・デリンジャー、それにフレデリック兄さんか」
「でもデリンジャー先生はノックス先生とお付き合いしてるから、ロード様には地味に嫌がらせなさってて…とてもそんな雰囲気にはなりそうにないわ」
「嫌がらせ?」
「挙手してないのに当てたり、授業に出てるのに欠席にされたり、試験範囲の通知文書がロード様のだけ間違ってたり、ロード様が居なかった去年や一昨年の話題を授業中に出されたり…」
「…地味だな」
 アレンは少し呆れた様に言う。
「ね?」
 でも派手な嫌がらせは学園で問題になるかも知れないから、先生としては敢えてそうしてるのかもだけど。
「ビビアン様は最近ライネルさんが冷たくなったと言っておられましたけど、原因はロード様じゃなくてアランじゃないかって…」
「アラン?」
「仲が良すぎると」
「…何をしてるんだアランは」
 呆れたように額を押さえるアレン。
「ライネルさんとは学園の花壇に植えた薬草の世話を一緒にしてるって言ってたけど」
「薬草か…」
 何となく「じゃあ仕方ないな」と言う空気になる。

「お兄様は学園生じゃないし、接点がないわよね?」
「ゲームではヒロインが婚約者に近付いた事に対してフレデリック兄さんが立腹し、ヒロインの義父親の領地の課税を厳しくしたり、色々と圧迫するんだ。つまりロードとの直接の接点はなかったが…パトリシアやエリザベス、エドワードに近付いた処を見ると、今後はわからんな」
「ええ!?」
 そう言えばお兄様は王城の文官だけど、貴族の領地管理の統括みたいなお仕事されてるんだったわ。
「お兄様、そんな事をして…大丈夫なの?」
「いや、私情でそんな事をして許される筈なく、この事が原因でフレデリック兄さんは最後に断罪されるんだ」
「それはそうなるわよね…」
「しかし、フレデリック兄さんには、俺が転生者なのも、ゲームの事も、ヒロインが婚約者に近付く事も話してある。だからそんな展開にはならないから安心しろ」
「え?お兄様はその事知ってるの?」
「ああ。ロード・フェアリが兄上に会いに来た後、兄上にフレデリック兄さんにも話しておけと言われて、話したんだ」
「じゃあ…レスター殿下も知って…」
「そうだな」
「そう…」
 そうよね。王太子殿下がヒロインに籠絡されたら大変だもの。
 でも…そっか。私にだけ話してくれたんじゃなかったのね…
「パティ?」
「あ、じゃあお兄様やレスター殿下がロード様に取り込まれる心配はないですね」
 にっこりと笑って言う。

 何だか私、自分がアレン殿下にとって特別な存在なんだといつの間にか勘違いしてたみたい。アレン殿下にとっては、私が幼なじみで弟の婚約者だから、予備知識なくヒロインに引っ掛かっては困るから話してくれただけなのに。
 …特別なんて、恥ずかしい…酷い自惚れだわ。

-----

 お茶会を終えて、二人でアレンの部屋へと向かう。
 アレンの部屋では、アレンに扮したアランが待っているのだ。
「パティ。どうした?」
 パトリシアの隣を歩くアレンが言う。
「え?」
「先程から…静かだ」
「そうかしら?」
 俯いたまま苦笑いを浮かべる。
 アレン殿下と並んで歩く機会なんてそうないのに…自分が恥ずかしくて顔が上げられない。
「俺が、パティを落ち込ませる様な事を言ったのか?」
「ううん。そんな事ない」
 首を横に振る。
「…パティ」
 アレンの手が伸びてきて、パトリシアの手をぎゅっと握った。
「!」
 思わず顔を上げてアレンの方を見る。
「パティ。席替えとクラス替え、どちらが良い?」
 アレンは優しく笑って言う。
「え?」
「もう二度と、あの男をパティに近付けない」
 そう言い切るアレンは、笑顔だが、目が真剣だった。
 幼なじみを心配してくれているのね。
「…せ、席替えで」
 クラス替えなんて大掛かり過ぎる。とりあえず席が離れれば話す機会もなくなるだろうし…
「わかった」

 そのまま、アレンの部屋まで手を繋いだままで歩いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...