転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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 全身が押さえつけられたように重い。
 手も足も動かない。頭が痛い。
 リザが薄く目を開けると、苦し気な表情のロイドが見えた。
 いつも無表情なのに、どうしたの?
「…ごめんな」
 声が遠くに聞こえる。
 何を謝ってるの?
 ロイド殿下…泣かないで…
 リザはまた眠りに落ちた。

「ロイドでん…申しわ…ありませんで…た」
 うつ伏せに寝かされたまま、うなされるようにアベルが言う。
 ロイドはアベルのベッドの枕元に跪く。
「俺こそ巻き込んでしまって済まなかった。アベルが助かって本当に良かった…」
「殿下…報告…を」
「聞こう」
 ロイドは頷いた。
 アベルは王宮に運ばれて治療を受けた後、意識を取り戻したが、事情聴取をしようとする者に「ロイド殿下以外には話さない」と言ったという。
 話す相手によれば、自らの命はもとより、ロイドやリザの身にも関わると考えたからだ。
 ロイドは、自身の側から姿を消したアベルも「敵」である可能性を考えていたが、これを聞いてアベルはロイドを裏切っていないと確信し、心底安堵したのだった。
「熱が高い。ゆっくり話せ」

 ロイドの執務室へ向かう途中の廊下で、いきなり後ろから背中を斬りつけられ、シーツのような布で身体を巻かれて連れ去られた。
 斬りつけた者、シーツのような布で巻いた者、少なくとも二人、あるいは廊下に落ちた血の始末のため、三人居たかも知れない。
 馬に乗せられ、一時間くらい走った。他の馬が走る音は聞こえなかった。
 山小屋のような場所で布を解き手足を縛られた。目隠しをされていたが、おそらく馬に乗せて来た男が一人しか居なかった。
 それからまた馬に乗せられ、五分も経たずに高い所から水に投げ込まれ、気を失った。

 アベルはロイドにそう報告し、ロイドが「分かった」と言うと安心したように弱々しく笑った。

-----

 朝になり、ロイドとサイモンはロイドの私室に戻った。
 リザの居る寝室に繋がる個人の応接室だ。
「アベルを襲った者、ロイドを引き止めた侍従、リザ嬢に紅茶を淹れた侍女、更にリザ嬢が倒れても誰も駆け付けなかった事や、アベルをすんなり連れ出せた事を考えれば、かなり広範囲の者たちがこの件に協力しているな」
 サイモンがため息混じりに言う。
「リザを殺害しようとしていたとは知らなくても、騒ぎが起きても見ない、聞かないでいろと、消極的協力は取り付けていたんでしょうね」
「そうだな」
 サイモンは頷くと、言った。
「ロイド、私の憶測を一つ言っても良いか?」
「はい」
「ロイドを引き止めた侍従はフローエ伯爵家の紹介で王宮に勤めている。フローエ伯爵家は縁を辿るとマーシャル公爵家に行き着く」
「マーシャル公爵家に?」
 それはサイモンの婚約者オリーと、その弟で生徒会書記のクリストファーの家だ。
「兄上それは…」
 言いかけたロイドをサイモンが止める。
「まあ聞け。ただの憶測だ」
「…わかりました」
「その侍従にロイドを引き止めさせたボーデン侯爵家は、嫡男がフローエ伯爵の娘を娶っている。茶葉を用意した侍女はリード伯爵家の紹介、ミルクを用意した侍女はフローエ伯爵家とは違う系統でマーシャル公爵家に繋がる」
「……」
「茶葉などの仕入れはドイル商会。もちろん毒を混入した証拠などないが。王宮に勤めるメイドは商家の娘やその関係者が多い。これらの者はドイル商会からの『見ない、聞かない』程度の命令なら簡単に聞くだろう」
「では、アベルを襲った者は…」
「スペンサー家の騎士、または『影』。それと、先程顔を見て気付いたのだか、リザ嬢に紅茶を淹れた侍女はゴヴァンの恋人だ」
「ニューマン先生の?」
「ああ、間違いない」
「兄上は…生徒会の皆が関わっているとお考えなのですね」
 ロイドは自分の両手を握り合わせると、強く握る。
「そうだ。つまり、攻略対象である生徒会の面々を動かすのは…ヒロインであるローズ・エンジェル男爵令嬢だ」
 サイモンはそう言い切ると、ロイドをじっと見つめた。
「おそらく、ローズ・エンジェル男爵令嬢の目的はロイドの婚約者を排除する事。それだけだ」
「それでリザを殺そうと?排除など…まるで物を捨てるように…」
 リザがいなくなればゲームのシナリオ通り俺がローズを選ぶと思っているのか?
「実際、リザ嬢さえ排除できれば、他の誰が死のうと捕まろうとどうなっても構わないと考えているとしか思えん」
 サイモンが眉をひそめて言う。
 だから、アベルも怪我をさせて川へ放り込んだ。死んでしまっても構わないから…

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