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舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、迎えが来た者は歩いて向かう事になっていた。
「リザ様どうなさいました?」
支度をしに寮へ来たジューンが、鏡で自分の姿を見ているリザに声を掛ける。
「…紫のドレスの方が良かったのかしら?」
「リザ様このドレスを仕立てる時に、そういう『私が殿下の婚約者です!』って主張するようなのは恥ずかしいと言われてましたよね?」
「…言ったわ。言ったし、今もそう思ってる」
リザはクリーム色のドレスを仕立てた。フリルやレースの少ないシンプルな物だ。
「じゃあ何故?」
「何となく…よ」
婚約者の色は、婚約者から贈られるならまだしも、自分でその色を選ぶのは恥ずかしいし、おこがましい気もした。
コンコンとノックの音がして、ロイドが部屋へ入ってきた。
「待たせたか?」
「いえ。ちょうど支度が終わった所です」
ロイドは青いテイルコートだ。金の刺繍が美しい。
殿下は何てカッコいいの。やっぱり横に並ぶのが私じゃ絵にならないわ。
ロイドにエスコートされて会場に入る。するとローズが二人に駆け寄ってきた。
「ロイド殿下!」
かわいい笑顔のローズは、レースがあしらわれた水色のドレスでウエストの大きなリボンは薄い紫色だった。
…紫を差し色に使うなんて。
紫は王族の色なので、普通は避けるのだ。
「ローズ、学園だから良いが、こう言う場所で上位の者に自分から声を掛けるものではない」
ロイドは無表情で言う。
「ごめんなさい。本当の社交界へ出たら気をつけるわ」
首を傾げて笑うローズ。とてもかわいい。
…もしかして、殿下の青い衣装はローズさんの瞳の色?
リザは一歩離れてロイドとローズを見る。
私なんかより、余程パートナーっぽいわ。
「どうした?」
離れたリザに気付いてロイドが声を掛ける。
「いえ…私、お友達の所へ行ってますね」
「…ああ」
リザはロイドとローズから離れてステラとジェイクを探しながら会場を歩く。
途中で振り向くとロイドとローズは生徒会の他のメンバーと合流しているようだった。
ロイド殿下は、ローズさんがドレスに紫を使うのを知っていたのかしら?…知っていて、それを許したの?
「ダンスを」
リザがステラとジェイクを見つけて一緒に居ると、ロイドが近付いて来てリザに手を差し出す。
ファーストダンスは婚約者と。社交界の常識であり、礼儀だ。
「はい」
リザはロイドの手を取って、ホールに出る。
視線感じてそちらを見ると、遠くからこちらを見ているローズと目が合う。
リザと目が合うと、ローズはニッコリと笑った。
「…今日は、表情が硬いな」
ダンスの途中でロイドが言った。
「そうですか?ダンスが久しぶりだからでしょうか」
リザがそう言うと、ロイドは
「そうか」
と短く言う。
やはり会話は続かない。
話を広げた方が良かったのかしら。殿下はダンスは久しぶりですか?…これは違うか。舞踏会が終わったら夏季休暇ですね。殿下はどこか行かれますか?…婚約者をどこかに誘えって遠回しに言っているみたいに取られるかな?
考えている内に曲が終わる。
すると、ローズがまた駆け寄って来た。
「ロイド殿下、私とも踊ってください」
無邪気な様子で言うローズに「ああ」とロイドは答える。
リザは無言で頭を下げてロイドとローズから離れた。
「絵になるわ」
踊っているロイドとローズを眺めてリザは呟く。
「…まあ、そうね」
ステラがため息混じりに言った。
「ステラはジェイクともう一度踊らないの?」
「まだジェイクと結婚するって決めた訳じゃないからね」
「ええ!?ステラ、まだ俺のプロポーズ受けてくれないの?」
ジェイクがステラの肩を掴んで言う。
「当たり前よ。私は優秀なお婿さんを迎えたいの。卒業まではまだまだ優秀なお婿さん候補を募集中よ」
ステラはジェイクの手を払い除けながら言った。
「俺だってそこそこ優秀だと思うけど!?」
「もっと優秀な人が現れたらどうしてくれるのよ」
「ジェイク、そこそこなんて自分で言うくらいなら、もっともっと頑張ってステラを振り向かせる努力をした方が良いわ」
「その通りよ!」
リザが言うと、ステラが大きく頷いた。
舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、迎えが来た者は歩いて向かう事になっていた。
「リザ様どうなさいました?」
支度をしに寮へ来たジューンが、鏡で自分の姿を見ているリザに声を掛ける。
「…紫のドレスの方が良かったのかしら?」
「リザ様このドレスを仕立てる時に、そういう『私が殿下の婚約者です!』って主張するようなのは恥ずかしいと言われてましたよね?」
「…言ったわ。言ったし、今もそう思ってる」
リザはクリーム色のドレスを仕立てた。フリルやレースの少ないシンプルな物だ。
「じゃあ何故?」
「何となく…よ」
婚約者の色は、婚約者から贈られるならまだしも、自分でその色を選ぶのは恥ずかしいし、おこがましい気もした。
コンコンとノックの音がして、ロイドが部屋へ入ってきた。
「待たせたか?」
「いえ。ちょうど支度が終わった所です」
ロイドは青いテイルコートだ。金の刺繍が美しい。
殿下は何てカッコいいの。やっぱり横に並ぶのが私じゃ絵にならないわ。
ロイドにエスコートされて会場に入る。するとローズが二人に駆け寄ってきた。
「ロイド殿下!」
かわいい笑顔のローズは、レースがあしらわれた水色のドレスでウエストの大きなリボンは薄い紫色だった。
…紫を差し色に使うなんて。
紫は王族の色なので、普通は避けるのだ。
「ローズ、学園だから良いが、こう言う場所で上位の者に自分から声を掛けるものではない」
ロイドは無表情で言う。
「ごめんなさい。本当の社交界へ出たら気をつけるわ」
首を傾げて笑うローズ。とてもかわいい。
…もしかして、殿下の青い衣装はローズさんの瞳の色?
リザは一歩離れてロイドとローズを見る。
私なんかより、余程パートナーっぽいわ。
「どうした?」
離れたリザに気付いてロイドが声を掛ける。
「いえ…私、お友達の所へ行ってますね」
「…ああ」
リザはロイドとローズから離れてステラとジェイクを探しながら会場を歩く。
途中で振り向くとロイドとローズは生徒会の他のメンバーと合流しているようだった。
ロイド殿下は、ローズさんがドレスに紫を使うのを知っていたのかしら?…知っていて、それを許したの?
「ダンスを」
リザがステラとジェイクを見つけて一緒に居ると、ロイドが近付いて来てリザに手を差し出す。
ファーストダンスは婚約者と。社交界の常識であり、礼儀だ。
「はい」
リザはロイドの手を取って、ホールに出る。
視線感じてそちらを見ると、遠くからこちらを見ているローズと目が合う。
リザと目が合うと、ローズはニッコリと笑った。
「…今日は、表情が硬いな」
ダンスの途中でロイドが言った。
「そうですか?ダンスが久しぶりだからでしょうか」
リザがそう言うと、ロイドは
「そうか」
と短く言う。
やはり会話は続かない。
話を広げた方が良かったのかしら。殿下はダンスは久しぶりですか?…これは違うか。舞踏会が終わったら夏季休暇ですね。殿下はどこか行かれますか?…婚約者をどこかに誘えって遠回しに言っているみたいに取られるかな?
考えている内に曲が終わる。
すると、ローズがまた駆け寄って来た。
「ロイド殿下、私とも踊ってください」
無邪気な様子で言うローズに「ああ」とロイドは答える。
リザは無言で頭を下げてロイドとローズから離れた。
「絵になるわ」
踊っているロイドとローズを眺めてリザは呟く。
「…まあ、そうね」
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ジェイクがステラの肩を掴んで言う。
「当たり前よ。私は優秀なお婿さんを迎えたいの。卒業まではまだまだ優秀なお婿さん候補を募集中よ」
ステラはジェイクの手を払い除けながら言った。
「俺だってそこそこ優秀だと思うけど!?」
「もっと優秀な人が現れたらどうしてくれるのよ」
「ジェイク、そこそこなんて自分で言うくらいなら、もっともっと頑張ってステラを振り向かせる努力をした方が良いわ」
「その通りよ!」
リザが言うと、ステラが大きく頷いた。
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