幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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「あ」
 机の引き出しに懐かしい封筒を見つけて、リンジーは思わず手を止めた。
「どうした?」
 ソファに座ったヒューイが、机の方へと振り向く。
「これ」
 リンジーは封筒を両手で顔の前へ掲げた。
「ああ」
 ソファから立ち上がり、リンジーの傍へと歩み寄ると、ヒューイはその封筒を手に取る。
 王家の封筒に、ケントの印璽の蝋封。
 婚約解消の条件を書いた便箋を入れた、あの封筒だ。

「まだ持ってたのね。もう六年?七年経つかしら?」
「戒めだからな。たまに眺めているんだ」
「そうなの?」
「リンが本気で俺から離れようとした証拠の様なものだからな。これを見るとリンを滅茶苦茶に抱きしめて口付けたくなる」
「…え?」
 口角を上げてリンジーを見るヒューイ。
「リンはここにいる、俺のリンだと確認したくなるんだ」
「もう七年経つし、結婚もしたのに?」
 リンジーは目を見開いてヒューイを見上げた。

 あれから七年、今現在ヒューイは二十四歳、もうすぐ誕生日のリンジーは二十三歳だ。
 オルディス家の領地の復興がひと段落し、新たに設置した製鉄所が軌道に乗った今年の春に二人は結婚式を挙げた。
「結婚してまだ半年だ。まだ実感できん」
「ええ~?」
 七年前からずっと私はヒューイの隣にいるし、私はヒュ…ヒューイのものなのになあ。
「製鉄所が軌道に乗り、アンジーが卒業して執務に慣れるまでは…と最初から考えていたとは言え、早くリンと結婚したくて堪らなかったからな」
「まあ…確かに長かったけど…結局、ケントとユーニスの方が先に結婚したし」

 ケントは学園を卒業するとすぐに王位継承権を放棄する手続きをし、臣籍降下し、公爵位を賜った。
 そしてその二年後、二十一歳の時にユーニスと結婚し、グラフトン公爵家の王都屋敷の近くに屋敷を構えた。現在は王城へ出仕し、兄である王太子の補佐官を勤めている。

 ザインは学園卒業後、薬学研究所へ入り、今は外国へ留学中だ。そしてそこで恋人ができたらしい。
 その国には国外追放となったケントの側近兼司書の男がいるとかいないとか…ザインは留学先の事を詳しくは語らないので、ザインの恋人がその男なのかどうかは定かではないのだが。

「リン」
 ヒューイは封筒を机の上に置くとリンジーを抱きしめる。
「ヒューイ、私、ケントとユーニスにカードを書くつもりで引き出しを開けたのよ?」
「ああ。ユーニスが懐妊したからお祝いの手紙だろう?」
「そうよ。だから…」
 臣籍降下したとはいえ、第二王子であるケントとユーニスの子供が男児ならば王位継承権が発生する。それもあり、子をもうける事を躊躇していた二人が決意したのだ。リンジーとしては一刻も早くお祝いの言葉を贈りたい。
 ええと、だから「リンを滅茶苦茶に抱きしめて口付けたくなる」を実行してる場合じゃないって言うか…

「幼なじみとは良いものだよな?リン」
 リンジーを抱きしめながらヒューイが言った。
 確かに私、ヒューイやケントやザインと幼なじみで良かったと思ってるけど、急に何?
「そうね?」
「そこでだ」
 ヒューイはリンジーの顎に手をやり、上を向かせると唇を重ねる。
「ん…何?」
「ケントとユーニスの子と同じ歳の幼なじみ、良いと思わないか?」
 重ねた唇を少し離し、ヒューイはニヤリと笑った。
 それって…

 チュッ。
 小さな音を立てて、ヒューイは何度もリンジーにキスを落とす。
「…ヒュー、ちょっ、まだお昼、よ」
「今日は休日で、俺たちは新婚だ。何の問題もない」
「な…」
「リン、俺たちと同じ、同じ歳の幼なじみ、良いと思わないか?」
 リンジーの両頬を押さえて、額にキスしながらもう一度ヒューイが言うと、リンジーは頬を赤く染めてヒューイを見上げた。
「……思う」
 リンジーが小さな声で呟くと、ヒューイの手の平に触れるリンジーの頬がますます熱くなる。
 ヒューイは嬉しそうに笑うと、リンジーを抱き上げた。



        ー 了 ー





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