70 / 84
69
しおりを挟む
69
講堂と校舎との間の庭にあるベンチに並んで座ったリンジーとヒューイ。
ヒューイはリンジーを抱き寄せると、自分の胸にリンジーの頭を押し付けるようにして抱きしめた。
「こうすれば、顔が見えないから話しやすいか?」
し…心臓が痛いくらいに脈打って、息も苦しいし、これ、余計に話し辛いんだけど…
まあ顔を見られながらよりは多少いいかも知れないけど。
「最近ずっと『リン』って呼ぶのね」
いきなり核心に触れる勇気がなくて、関係ない事言っちゃったわ。
でもこれも気になってたと言えば気になってた事だけど。
かなり小さい頃には「リン」と呼ばれてたけど、いつからか「リンジー」になってて、婚約してから時々そう呼ばれる事があって、薬物を盛られた時からはずっと「リン」って呼ばれてる気がする。
呼ばれ方なんて気にならないけど、ヒューイの方は何か意味があってそう呼ぶのかは気になるわ。
「そうだな」
「何か意味があるの?」
ヒューイの胸に頬を着けて言う。
ヒューイの心臓の鼓動が伝わって来て…暖かくて、すごくドキドキするのに、何だか安心する。
「上手く言えないんだが『リンジー』は『皆んなの』だが『リン』は『俺の』だと言う感覚がある」
「え?」
「そもそも、リンジーと呼び始めたのはケントと初めて会った日だ。リンは覚えていないか?」
「そうだった?」
「ケントはよその家に預けられた初日で緊張もしていたんだろうが、そこが逆に王子然として落ち着いているように見えた。それに、端正な顔立ちだろう?俺と同じように『リン』と呼ばれたら、リンがケントを好きになる気がして…取られてしまうと思った。だからケントにはリンジーと呼ぶように言い、それからは俺もずっとリンジーと呼んでいたんだ」
「……」
取られるって…
そういえば、ケントもそんなような事言ってたわ。
「ケントもザインもユーニスも、リンの両親も、俺の父母も皆んなリンジーと呼ぶ。リンと呼べるのは俺だけだ」
「……」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「…好き」
その言葉がするりと口から出た。
「リン?」
ヒューイが抱きしめた腕を緩めようとするので、リンジーは今まで脇腹に添えていた手を慌てて背中へ回す。
顔を見られるのは恥ずかしい!
背中に回した手に力を入れて、ヒューイの胸に額を強く押し付けた。
「そ…そのまま、聞いて」
「わかった」
改めて、リンジーをぎゅうっと抱きしめる。
「あのね…この間、あの侍女に首を絞められたじゃない?」
「ああ」
「息ができなくて、声も出なくて、苦しくて…心の中で『助けて』って叫んでた」
「ああ」
ヒューイの手が優しくリンジーの背中を撫でた。
「『助けて、ヒューイ』って…私ヒューイを呼んだの。心の中で」
「…リン」
「死ぬかもと思ったら…私、ヒューイに傍にいて欲しいって…」
ヒューイはそっとリンジーを抱きしめた腕を緩めると、リンジーの頬に両手を添えて上を向かせる。
頬を赤くして、少し潤んだ瞳でリンジーはヒューイを見た。
「好き…」
少し震える声でリンジーが言う。
「ヒューイが好き…ずっと、ずっと好きだった」
ゆっくりと顔が近付き、唇が重なった。
数秒で唇を離すと、ヒューイはまたリンジーを抱きしめる。
ヒューイの肩に顎を乗せたリンジーの頬を涙が伝った。
ちゃんと、言えた。
明日の日に、私が、ヒューイが、元気で生きてる確証なんてないんだから、ちゃんと言わなきゃ。来年の卒業パーティーまでなんて待ってられないわ。
でもやっぱりきっかけは欲しくて…卒業パーティーにエスコートしてもらう今日は、絶対にヒューイに私の気持ちを伝えるんだって、素直に言うんだって、そう決めてたから、ちゃんと言えて良かった…
「リン…好きだ。遠回りしてすまなかった」
抱きしめられる力の強さでヒューイの気持ちを感じられて、リンジーは首を小さく横に振る。
「ううん…」
きっと私が素直になるには必要な行程だったんだわ。全部。
「リン、俺と結婚してくれ」
「…うん」
リンジーが頷くと、ヒューイはリンジーにもう一度キスをした。
今度は少し長くて…
「ちょっ!ここ、外よ!」
リンジーは真っ赤になってヒューイの顎を押して顔を離す。
学園の講堂と校舎の間の庭。人影はないとは言え、講堂では卒業パーティーの真っ最中。
さすがに、し…した!入れるのはやり過ぎでしょ!?
「誰も見ていない。いや見られてもかまわん」
至極真面目にヒューイは言う。
「かまう!私はかまうから!」
首まで真っ赤になってヒューイから身体を離そうとするリンジーを、ヒューイは笑ってまた抱きしめた。
講堂と校舎との間の庭にあるベンチに並んで座ったリンジーとヒューイ。
ヒューイはリンジーを抱き寄せると、自分の胸にリンジーの頭を押し付けるようにして抱きしめた。
「こうすれば、顔が見えないから話しやすいか?」
し…心臓が痛いくらいに脈打って、息も苦しいし、これ、余計に話し辛いんだけど…
まあ顔を見られながらよりは多少いいかも知れないけど。
「最近ずっと『リン』って呼ぶのね」
いきなり核心に触れる勇気がなくて、関係ない事言っちゃったわ。
でもこれも気になってたと言えば気になってた事だけど。
かなり小さい頃には「リン」と呼ばれてたけど、いつからか「リンジー」になってて、婚約してから時々そう呼ばれる事があって、薬物を盛られた時からはずっと「リン」って呼ばれてる気がする。
呼ばれ方なんて気にならないけど、ヒューイの方は何か意味があってそう呼ぶのかは気になるわ。
「そうだな」
「何か意味があるの?」
ヒューイの胸に頬を着けて言う。
ヒューイの心臓の鼓動が伝わって来て…暖かくて、すごくドキドキするのに、何だか安心する。
「上手く言えないんだが『リンジー』は『皆んなの』だが『リン』は『俺の』だと言う感覚がある」
「え?」
「そもそも、リンジーと呼び始めたのはケントと初めて会った日だ。リンは覚えていないか?」
「そうだった?」
「ケントはよその家に預けられた初日で緊張もしていたんだろうが、そこが逆に王子然として落ち着いているように見えた。それに、端正な顔立ちだろう?俺と同じように『リン』と呼ばれたら、リンがケントを好きになる気がして…取られてしまうと思った。だからケントにはリンジーと呼ぶように言い、それからは俺もずっとリンジーと呼んでいたんだ」
「……」
取られるって…
そういえば、ケントもそんなような事言ってたわ。
「ケントもザインもユーニスも、リンの両親も、俺の父母も皆んなリンジーと呼ぶ。リンと呼べるのは俺だけだ」
「……」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「…好き」
その言葉がするりと口から出た。
「リン?」
ヒューイが抱きしめた腕を緩めようとするので、リンジーは今まで脇腹に添えていた手を慌てて背中へ回す。
顔を見られるのは恥ずかしい!
背中に回した手に力を入れて、ヒューイの胸に額を強く押し付けた。
「そ…そのまま、聞いて」
「わかった」
改めて、リンジーをぎゅうっと抱きしめる。
「あのね…この間、あの侍女に首を絞められたじゃない?」
「ああ」
「息ができなくて、声も出なくて、苦しくて…心の中で『助けて』って叫んでた」
「ああ」
ヒューイの手が優しくリンジーの背中を撫でた。
「『助けて、ヒューイ』って…私ヒューイを呼んだの。心の中で」
「…リン」
「死ぬかもと思ったら…私、ヒューイに傍にいて欲しいって…」
ヒューイはそっとリンジーを抱きしめた腕を緩めると、リンジーの頬に両手を添えて上を向かせる。
頬を赤くして、少し潤んだ瞳でリンジーはヒューイを見た。
「好き…」
少し震える声でリンジーが言う。
「ヒューイが好き…ずっと、ずっと好きだった」
ゆっくりと顔が近付き、唇が重なった。
数秒で唇を離すと、ヒューイはまたリンジーを抱きしめる。
ヒューイの肩に顎を乗せたリンジーの頬を涙が伝った。
ちゃんと、言えた。
明日の日に、私が、ヒューイが、元気で生きてる確証なんてないんだから、ちゃんと言わなきゃ。来年の卒業パーティーまでなんて待ってられないわ。
でもやっぱりきっかけは欲しくて…卒業パーティーにエスコートしてもらう今日は、絶対にヒューイに私の気持ちを伝えるんだって、素直に言うんだって、そう決めてたから、ちゃんと言えて良かった…
「リン…好きだ。遠回りしてすまなかった」
抱きしめられる力の強さでヒューイの気持ちを感じられて、リンジーは首を小さく横に振る。
「ううん…」
きっと私が素直になるには必要な行程だったんだわ。全部。
「リン、俺と結婚してくれ」
「…うん」
リンジーが頷くと、ヒューイはリンジーにもう一度キスをした。
今度は少し長くて…
「ちょっ!ここ、外よ!」
リンジーは真っ赤になってヒューイの顎を押して顔を離す。
学園の講堂と校舎の間の庭。人影はないとは言え、講堂では卒業パーティーの真っ最中。
さすがに、し…した!入れるのはやり過ぎでしょ!?
「誰も見ていない。いや見られてもかまわん」
至極真面目にヒューイは言う。
「かまう!私はかまうから!」
首まで真っ赤になってヒューイから身体を離そうとするリンジーを、ヒューイは笑ってまた抱きしめた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる