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ユーニスは自分と踊っているザインを眺める。
長い銀の髪を束ねて、上が白、下が深緑の夜会服、ポケットチーフは緑色。
緑はヒューイ様の色…よね?
「ユーニス、このまま俺と婚約して、将来結婚してくれないかな?」
不意にザインが口を開いた。
「え?」
「まだお見合い話は失くなった訳じゃないよね?だから…」
「待って。ザイン様、それって最初に計画していたように私と偽装結婚したいって事ですか?」
「…そう…だね。でも最初とは少し違う」
困ったように眉を寄せるザイン。
何がどう最初と違うのかはわからないけど、偽装結婚は偽装結婚なのよね?
「でもザイン様は…」
ヒューイ様を好きなんでしょう?
「ヒューイの事なら、もう諦めは付いてるよ」
ユーニスの言いたい事を察して、ザインが言う。
「でも…」
ユーニスが緑のポケットチーフに視線をやると、ザインはそれに気が付いて少し笑った。
「衣装を決めた時にはまだ未練があった。それは認めるけど、今はもうないんだ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
ヒューイ様をもう諦めてるとしても、ザイン様が好きになるのは男の人なのよね?
「でも、その…ザイン様は同性の方を…」
「そう。確かに俺は同性愛者だけど、ユーニスならって思ったんだよ」
「私なら?」
「うん。ユーニスとなら…その…後継ぎを作る事が…できるんじゃないかと」
ザインは視線を泳がせながら、言い難そうに言う。
それって、つまり、私となら、そういう、こここ行為が、できるって事…
「えええ!?」
ボンッと顔に血が昇って頬が熱くなった。
「で、でも『じゃないか』って不確実ですよね!?」
「そうだね。まだ確信はないんだけど…ただユーニスに他の縁談が来ると困るから言っておこうかと」
確実でもないし、私の事を恋愛的な意味で好きになった訳でもない。けど、私ならもしかしてって希望があるから結婚したいって事?
「…怒った?」
ザインがユーニスの顔を覗き込む。
女生徒に囲まれたケントが、フロアのザインとユーニスの方をチラッと見て、赤くなったユーニスに顔を近付けるザインに気付いた。
「怒ってはいませんけど、ちょっとザイン様に都合良すぎる気がします」
少し顔を背けるユーニス。
「そうだよね」
ザインは苦笑いを浮かべた。
「私、偽装結婚はするつもりありませんし、夫が同性の愛人を作るのを認めるつもりもありませんよ?」
「うん。わかっている」
「ザイン様との結婚は、ザイン様が私の事を恋愛対象として見る事ができるようなら考えてみなくもないですけど…」
顎を引いて、ザインを上目遣いで見上げる。
「そうか。考えてみなくもない、という事は、俺がユーニスを恋愛対象として見る事ができたとしても、それで無条件に俺と婚約してくれる訳じゃなく、それからユーニスの方が俺と結婚できるかどうかを考える、という意味で合ってるかな?」
「はい。合っています」
「じゃあもう少し時間をもらっても良いかな?」
「時間?」
「うん。俺がユーニスに恋ができるか、見極める時間」
恋ってできるかどうか考えて、それでできるものでもないと思うんだけど…でも別に私も結婚したい相手がいる訳でもないし、それでザイン様が納得するなら、まあ良いか。
「良いですけど…いつまで?」
「そうだなあ。長い期間を掛ければわかると言う物でもないだろうし、三か月くらい…春期が終わるまで。どうかな?」
「わかりました」
春期の終わりは舞踏会だし、ザイン様のパートナーとして出るかどうかって感じかな?
「じゃあよろしくね」
「はい」
ちょうど曲が終わったので、ユーニスがザインから離れようとすると、ザインはユーニスの背中に回していた手をグイッと引き、ユーニスの頬に軽くキスをする。
キャーッ!
と女生徒たちから声が上がり、ケントが目を見開いてユーニスとザインを見ていた。
「な、何ですか!?」
ユーニスは真っ赤になって頬を押さえてザインを見る。ザインはにっこりと笑って「挨拶だよ」と言った。
ユーニスは自分と踊っているザインを眺める。
長い銀の髪を束ねて、上が白、下が深緑の夜会服、ポケットチーフは緑色。
緑はヒューイ様の色…よね?
「ユーニス、このまま俺と婚約して、将来結婚してくれないかな?」
不意にザインが口を開いた。
「え?」
「まだお見合い話は失くなった訳じゃないよね?だから…」
「待って。ザイン様、それって最初に計画していたように私と偽装結婚したいって事ですか?」
「…そう…だね。でも最初とは少し違う」
困ったように眉を寄せるザイン。
何がどう最初と違うのかはわからないけど、偽装結婚は偽装結婚なのよね?
「でもザイン様は…」
ヒューイ様を好きなんでしょう?
「ヒューイの事なら、もう諦めは付いてるよ」
ユーニスの言いたい事を察して、ザインが言う。
「でも…」
ユーニスが緑のポケットチーフに視線をやると、ザインはそれに気が付いて少し笑った。
「衣装を決めた時にはまだ未練があった。それは認めるけど、今はもうないんだ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
ヒューイ様をもう諦めてるとしても、ザイン様が好きになるのは男の人なのよね?
「でも、その…ザイン様は同性の方を…」
「そう。確かに俺は同性愛者だけど、ユーニスならって思ったんだよ」
「私なら?」
「うん。ユーニスとなら…その…後継ぎを作る事が…できるんじゃないかと」
ザインは視線を泳がせながら、言い難そうに言う。
それって、つまり、私となら、そういう、こここ行為が、できるって事…
「えええ!?」
ボンッと顔に血が昇って頬が熱くなった。
「で、でも『じゃないか』って不確実ですよね!?」
「そうだね。まだ確信はないんだけど…ただユーニスに他の縁談が来ると困るから言っておこうかと」
確実でもないし、私の事を恋愛的な意味で好きになった訳でもない。けど、私ならもしかしてって希望があるから結婚したいって事?
「…怒った?」
ザインがユーニスの顔を覗き込む。
女生徒に囲まれたケントが、フロアのザインとユーニスの方をチラッと見て、赤くなったユーニスに顔を近付けるザインに気付いた。
「怒ってはいませんけど、ちょっとザイン様に都合良すぎる気がします」
少し顔を背けるユーニス。
「そうだよね」
ザインは苦笑いを浮かべた。
「私、偽装結婚はするつもりありませんし、夫が同性の愛人を作るのを認めるつもりもありませんよ?」
「うん。わかっている」
「ザイン様との結婚は、ザイン様が私の事を恋愛対象として見る事ができるようなら考えてみなくもないですけど…」
顎を引いて、ザインを上目遣いで見上げる。
「そうか。考えてみなくもない、という事は、俺がユーニスを恋愛対象として見る事ができたとしても、それで無条件に俺と婚約してくれる訳じゃなく、それからユーニスの方が俺と結婚できるかどうかを考える、という意味で合ってるかな?」
「はい。合っています」
「じゃあもう少し時間をもらっても良いかな?」
「時間?」
「うん。俺がユーニスに恋ができるか、見極める時間」
恋ってできるかどうか考えて、それでできるものでもないと思うんだけど…でも別に私も結婚したい相手がいる訳でもないし、それでザイン様が納得するなら、まあ良いか。
「良いですけど…いつまで?」
「そうだなあ。長い期間を掛ければわかると言う物でもないだろうし、三か月くらい…春期が終わるまで。どうかな?」
「わかりました」
春期の終わりは舞踏会だし、ザイン様のパートナーとして出るかどうかって感じかな?
「じゃあよろしくね」
「はい」
ちょうど曲が終わったので、ユーニスがザインから離れようとすると、ザインはユーニスの背中に回していた手をグイッと引き、ユーニスの頬に軽くキスをする。
キャーッ!
と女生徒たちから声が上がり、ケントが目を見開いてユーニスとザインを見ていた。
「な、何ですか!?」
ユーニスは真っ赤になって頬を押さえてザインを見る。ザインはにっこりと笑って「挨拶だよ」と言った。
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