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 喉が乾く。
「…みず……」

「リン、目が覚めたか?」
 目を開けると、ヒューイの顔が見えた。
「…ヒューイ?」
 喋ると喉がチリチリと痛む。
「喉が軽く火傷をしたような状態なんだ。あまり喋らない方が良い。水だな?」
 あ、そうか。ヒューイの部屋で紅茶を飲んで…
 つまり、何か、紅茶に入ってたのね。
「ヒューイ…は…」
「ん?」
 ヒューイはベッドの側に置いた椅子から立ち上がると、サイドテーブルの水差しからコップに水を注いで、リンジーの手に持たせ、サイドテーブルの上に置いてあったメモ用紙とペンを手に取った。
 こくんと水を飲むと、ピリピリとした痛みが走る。
「痛いのか?」
 心配そうなヒューイに、リンジーは首を横に振った。

 メモ用紙とペンを渡されたので、そこに文字を書きながら、こんな短期間に二回も筆談が必要になるなんてね。とリンジーは思う。
【ヒューイは紅茶飲まなかったの?】
「ああ。俺は飲んでいない」
 そっか。良かった。
「リン、ごめんな」
「?」
【何?】
「命に関わるような物ではなかったとは言え、リンに毒を盛るような者がいる我が家ところにリンを置いておけなかった。奸物に心当たりはあるんだ。俺がきちんと対処するからリンは心配するな」
 そういえば、ここ、私の部屋だわ。
【心当たりって】
 リンジーは小さく息を飲んで続きを書く。
【ヒューイの愛人?】
「なっ!?」
 椅子から立ち上がるヒューイ。
 ああ、やっぱりそうなのね。
「リン、あの侍女を知っているのか?いや、その前に愛人とは何だ?」
「…んー」
 リンジーは慌てるヒューイを見ながら唸る。
 あの侍女に結婚してからも愛人としてヒューイに侍るのを認めろって言われた。って書くの長いわね。
【愛人だって言ってた】
「違う!あの女はそういう相手ではないんだ」
 そういう相手ではないって…でも関係なのには間違いないのよね?
 って書くのも長いし、何より、あんなにかわいい人とそういう関係な事、ヒューイの口からは聞きたくないな…
「……」
 俯くリンジーの両肩をヒューイが掴む。
「リン、俺が好きなのはリンだ。あの女はとうに俺の傍から遠ざけているし、今後関わりを持つつもりもない。クソッ!あの女…やはりもっと早くに辞めさせておくべきだった」
 本当に?
 あの侍女の人の言い方だと現在進行形だったけど、多分今ヒューイは私に嘘は吐かないんじゃないかと思うし…

【お兄さんに薬をもらったのかな?】
 少し話題を逸らすためにリンジーがそう書くと、ヒューイは眉を顰めた。
「兄?」
「?」
 あれ?
【側近兼司書の人の妹】
「は…?」
 心底意外そうな顔だわ。ヒューイはあの二人が兄妹だと知らなかったのね。
「…あの女があの男の妹?」
「ん」
 リンジーが頷くと、ヒューイは顎に手を当てて考え込む。

【妹にザインを紹介されたって言ってた】
 ヒューイはリンジーがそう書いた紙を見て眉を顰めた。
「…あの女があの男にザインを紹介したのか」
「ん」
「あの男が第二王子派だから、ケントの友人であるザインに?」
「…ん」
 それもあるけど、あの人も同性が恋愛対象みたいだし、黒髪がヒューイに似ていたから、ザインがヒューイにのめり込み過ぎないように…とか、あわよくばザインがお兄さんに乗り換えれば…とか考えてたんじゃないかしら?
 それとも、ザインがヒューイを繋ぎ止めるのにお兄さんが協力するのを見越して?
 もしかして、最初からお兄さんへザインに協力するように頼んであったのかも知れないわ。あの侍女ひと「ザイン様はいいんです。男性同士なら子供もできないし、結婚もできないし」って言ってたし、ヒューイがザインと付き合っていた方が都合が良かったのかも知れない。
「ザインはあの二人が兄妹だと知っていたんだろうか?」
 紹介された時聞いていてもおかしくないけど、どうだろう?
 わからない、という風に首を傾げるリンジー。

「…ザインは…俺に飲ませる薬の見返りとしてあの男に身体を差し出していたんだ」
 少し俯いてヒューイが言う。
「え?」
 思わず声が出て、ヒューイは驚いた顔のリンジーに微笑んだ。
「あの男からリンを助け出した後、まだリンの目が覚めない間に泣きながらそう話してくれた。ザインが俺の事を本当に恋慕っていた事は疑わないが…やはり裏切られた思いがある」
 それは…無理もないけど…

「そのせいか、薬の効果が切れたせいかわからないが、今はザインに対して以前のような恋情は沸かない」
「……」
「リン」
 ヒューイが真っ直ぐにリンジーを見た。
 ドキンッ。
「…な…に?」
「俺は例えばリンが婚約解消したいと言って、他の誰かと結婚したとしても、俺が他の誰かと結婚したとしても、俺はずっとリンが好きだ」
 だからそれは刷り込みでしょう?
 そう、紙に書こうとしたが、リンジーの手は動かなかった。



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