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「ケント殿下は…ヒューイ様と共に行かれなくて宜しかったのですか?」
 馬で先駆けて行ったヒューイたちから「やはりリンジーは図書室の屋根裏部屋に拘束されているようだ」と知らせを受け、後を追って馬車で移動しながらユーニスは向かい側に座るケントに言った。
「リンジーの事はヒューイに任せておけば大丈夫だ」
「そう…ですけど…」
「ああ、俺がリンジーを好きだからか?」
「あ。は、はい。まあ…端的に言えば…そうです」
 ユーニスは少し気不味そうに上目遣いでケントを見る。
「そう言い辛そうにする事はない。俺はリンジーを好きだが、ヒューイにはそれ以上の情がある。それにヒューイは俺と出会うより前からリンジーをずっと好きだった。そうだろう?ザイン」
 ケントはユーニスの隣に座るザインに視線をやる。
 青褪めた顔で座っているザインは、その言葉に小さく頷いた。
「え?でも…」
 確かにヒューイ様は、リンジーがケント殿下と親しくするのは嫌みたいだったけど…それは仮にも婚約者だからだと思ってたけど、実は嫉妬だったの?
 でもヒューイ様はザイン様と…
 でもでも、それはケント殿下の前で言ってはいけないわよね?
 ユーニスがぐるぐると考えながらザインを見ると、ザインは小さな声で言った。

「ユーニス…気を使わせてごめん」
「え?」
 ザインは俯いていた顔を上げ、ケントとユーニスを見る。
「きちんと、俺の口から言うよ。俺は同性愛者で、ヒューイと恋人として付き合っていたんだ」
「……」
 ケントは表情を変えず、黙ってザインを見つめている。
「え?付き合ってって…」
 過去形?
 でもザイン様の部屋にヒューイ様がいて、さっきもキスしてたのに?
「…俺がヒューイを好きになって、ヒューイが俺を好きになってくれて恋人になった。そこに嘘は一つもないんだ。それだけは…信じて欲しい」
 苦しそうな表情でザインはユーニスを見ながら言い、そしてケントの方を見た。
「…信じてください」
 ケントはふっと息を吐いて頷く。
「ああ」
 頷いたケントを見て、ザインは安心したような表情を浮かべた。

「リンジーはヒューイにとっては『傍にいて当たり前』の存在で、だからこそ成長過程の大人に反発したり異性を意識したりする時期に、リンジーを少し疎ましく思った。そしてその頃リンジーもヒューイから離れた。俺はその時、好機だと思ったのです」
「ザイン様は、ヒューイ様から好意を持たれている自信があったんですか?」
 ユーニスがそう言うと、ザインは少し首を傾げる。
「…自信とは違うけど、俺の見た目がヒューイの好みなのは知っていたかな。それとヒューイの侍女が後押しをしてくれて…」
「侍女?」
 ユーニスが言うと、ザインは頷く。

 ヒューイの侍女がザインがヒューイの元を訪れる度にそっと声を掛けて来て「ヒューイ様はいつもザイン様の事を話しておられるし『リンジーよりザインの方が綺麗だ』と仰っています」「ヒューイ様はきっとザイン様をお好きですよ」「好きなら告げた方が良いと思います」と焚き付けて来ていたとザインは言った。

 主家の嫡男が同性と付き合うのを勧める侍女…?
 そんな侍女がいるの?むしろ普通は止めないかしら?
 ユーニスがそう考えていると、馬車が止まった。

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 学園の図書室の側に馬車が止まり、ユーニスは馬車の窓から外を見る。
 外には騎士が待機していて、邪魔にならないようにユーニスたちは馬車から降りていないのだ。
「あそこに屋根裏部屋があるの?」
 ユーニスが図書室の屋根の方を指差すと、ユーニスの後ろから窓を覗いてザインは頷いた。
「元々は物置でほぼ使われていなかったらしい。今は…あの人が休憩や…たまに泊まったり…」
「あの人ってケント殿下の側近で、司書で、第二王子派の、リンジーを攫った、あの人?」
 歯切れの悪いザインに、畳み掛けるようにユーニスは言う。
「…そう」

「あの人とザイン様ってどういう関係なの?」
「ど…」
 ユーニスの質問に、ザインは言葉に詰まった。
 ケントは黙って二人の遣り取りを聞いている。
「ザイン様はあの人がケント殿下の側近なのは知らなかったんでしょう?」
 こくこくと頷くザイン。
「図書室で知り合ったの?」
 ふるふると首を横に振るザイン。
「じゃあどこで…」
「…ヒューイの侍女の…紹介で…」
 ザインは小声でそう言う。
「侍女って、あの侍女と同じ侍女?」
「そう。俺は…」
 そして、ザインは意を決して言った。

「俺はあの人から薬をもらってヒューイに飲ませていたんだ」



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