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「私は元々ケント殿下の側近でしたけど、ザイン君が学園に入った時に学園の図書室の司書になりました。もちろんザイン君に接触しやすくするための副業です。だからザイン君は私がケント殿下の側近だと言う事は知らないと思いますよ」
 男はリンジーの身体の上に覆いかぶり、リンジーの頭の横に片方の肘をついて話している。
 もう片方の手は、リンジーの背中と床の間に入れて、背中にある小さく縦に並んだワンピースのボタンを丁寧に外していた。
「…な…で…ザイ…」
 嫌なのに身体が動かないし…ぼんやりして頭が回らない…聞きたい事…いっぱいある…のに…
「何でザイン君と知り合いなのか?ですかね?ケント殿下のご友人ですから、もちろん以前より存じ上げておりましたが、個人的に知り合ったのは、ザイン君が学園に入るより前です。妹から紹介されて」
「いもうと?」
「ええ。グラフトン家で侍女をしております」
 …ヒューイの家の…侍女…?
「あ…知ってる…そ…侍女…」
 あの侍女…だ。ヒューイの…あいじん…
「ご存知でしたか。妹がヒューイ・グラフトンに心酔している事…おや、涙が出て来ましたね」
「うー…」
 顔を顰めたリンジーの両目から涙がボロボロと流れる。

「…女が泣くのは鬱陶しくて嫌いなんですが、貴女、今子供みたいで割とかわいく見えます」
 男は薄く笑うと、背中のボタンを外す手を止めて、リンジーの涙に指で触れた。
「ううー…嬉し…ない…」
 顔をくしゃくしゃにしながらリンジーが言うと、男は笑う。
「はは。そうでしょうね」

 泣かれたら面倒くさい。
 気が強い処が好きじゃない。
 ピンクやフリルやリボンは似合わない。

 ヒューイが…そう言った。あの侍女へ…
 私に聞かれない所で言った、あれがヒューイの本音。
 ヒューイは私なんか好きじゃない。

「ゔゔ…」
 更にボロボロと泣き出したリンジーを、男は興味深そうに見た。
「何かが琴線に触れましたか」
「も、や…だあ。帰る…」
 しゃくり上げながら言う。
「わかりました、と言う訳にはいきませんね」
 男はそう言うと、自分の身体でリンジーの身体を押さえながら、背中側で縛ったリンジーの手首の縄を解いた。
 手が…でも、身体に力が入らない…
 私…逃げられない…
 身体を起こし、リンジーの着ているワンピースの襟元に手を掛けた。
「やだ…」
 頭を振ろうとしても緩やかにしか動かない。ただ涙だけが後から後から流れている。
「軽く朦朧とするだけの薬かと思っていましたが、どうやら麻酔のような効果もあるんですね」
 襟元を引き、肩を剥き出しにすると、手首から袖を引き抜く。
 ワンピースの下に着ていたキャミソールが露わになった。

 男がおもむろにリンジーの下唇の咬み傷を摘む。
「いっ」
 ビクンッと身体が揺れた。
「ああ。痛みは感じるんですね。しかし薬を飲んでいない状態ほどではないのかな?」
 手を離すと、止まっていた血がまた滲んで来た。
「あの地方貴族があの時きちんと貴女の純潔を奪ってくれていれば私がこんな面倒な事をしなくて済んだのに、と先程まで思っていたのですが、貴女がこれからもっと泣くんだと思うと、何だか楽しくなってきました」

「…やだ…ヒューイ…」
 リンジーが呟くと、男は眉を上げる。
「結局、貴女もヒューイ・グラフトンを好きなんですか?」
「好きじゃ…」
「『好きじゃない』ですか?なかなか意固地ですね。女の子は素直な方がかわいいんじゃないですか?」
 私には女の子のかわいさはわかりませんけど。と男が小声で言う。
「ゔゔゔ~」
「おっと。ここで更に泣きますか。貴女のツボは予想できなくておもしろ過ぎますね」
 男は顔を顰めて泣くリンジーに一瞬たじろぐが、直ぐにまた口角を上げた。
「私の事、ヒューイ・グラフトンだと思っても良いですよ?」
「…?」
「これから貴女を抱くのは、貴女の婚約者で幼なじみのヒューイです」
 …ヒューイ?
 薄っすらと目を開けると、涙でぼやけたリンジーの視界に男の黒い髪が写る。
 ヒューイ…なの?ううん。そんな筈ない…


 ドキンッ!
 心臓が跳ねた。
 まだリンジーの世界にはヒューイだけ、ヒューイの世界にはリンジーだけだった頃の呼び名。
「あ、表情が変わりましたね」
「ヒューイ…」
「そう。俺だ。リン、好きだよ」
 男はそう言いながらリンジーの頬を手の平で撫でる。
 あったかい手。ヒューイの手。
「ヒューイ…好き…」
 リンジーは頬に触れた熱い手に頬摺りをした。
 






 


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