37 / 84
36
しおりを挟む
36
放課後の図書室へザインがやって来ると、本棚の間に居た黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男が嬉しそうに微笑んだ。
「やあザイン君」
ザインはキョロキョロと周りをみまわす。何人かの生徒が見えた。
「司書の控室へ行きましょうか」
男がザインの手を取り、耳元に顔を近付けて小声で言う。
「…その前に本を返して、新しいのを借りて行く」
ザインが男の手を外しながら言うと、男は笑って本棚から一冊の本を取ると、ザインに渡した。
借りていた本を返却し、男に渡された本を借りる手続きをすると、男はザインを図書室の奥にある司書の控室へと促した。
ザインと控室に入ると、男は後ろ手でドアに鍵を掛ける。
控室には一組のテーブルと椅子、一つのソファとローテーブルがある。二人いる学園の司書が休憩や仮眠を取る場所なのだ。
ザインはソファに座ると、今借りたばかりの本をテーブルに置く。表紙を捲ると、赤い色の薬包が挟んであった。
「…これが?」
赤い薬包を手に取るとしげしげと眺める。
「そう。ザイン君ご所望の品です」
男はそう言うと、ザインの隣に座った。
男の手がザインの太腿に触れる。
「くれぐれも量には気をつけて」
「わかった」
「しかし、こうまでしないと繋ぎ止められないなら、その関係はもう破綻しているんじゃないですか?」
太腿をゆっくりと撫でながらザインの耳元で言う。
「うるさい」
ザインが憮然として言うと、男は笑った。
「まあそのおかげで私は美しいザイン君を抱けるんだから、役得ですけどね」
ザインの肩に手を回し、耳に息を吹き掛けるように言うと、太腿を撫でていた手を脇腹から胸へと這わせ、シャツのボタンを外す。
「…ん」
目を閉じて小さく身震いするザインに、男はニンマリと笑った。
「耳、弱いんですよね。ザイン君はかわいいなあ」
-----
「ユーニス、私…学園を辞めるかも知れないわ」
夜、ユーニスの部屋を訪れたリンジーは神妙な面持ちで言った。
「え?」
ユーニスは驚いてリンジーを見る。
「…ヒューイとの婚約がなくなれば経済的に学園に通うのは無理だと思うの。お父様は『何とかする』って言うけど、そのお金は私よりアンジーに掛けて欲しいし…」
確かに学園を卒業していないと良い縁談は来ないって言うけど、どちらにせよグラフトン公爵家から婚約破棄された私に、良い縁談なんて来る筈もないし。
それに今までの援助が丸々借金になるんだし、これからの援助もなくなる。私のせいで領地の復旧も遅れてしまうし、そんな中、私がぬくぬくと学園生活を送るのは違うと思うのよね。
「辞めて、リンジーはどうするの?」
「領地へ行って働くわ」
「……」
ユーニスは何も言えずに眉を顰める。
「ただヒューイが何も言って来ないから、今の処、我が家としてもどうにも動きようがないのよね」
リンジーは敢えて明るい口調で言うと肩を竦めた。
「あれから全くヒューイ様と会ってないの?」
「うん。全く」
あれからは一か月と少し経っている。
ヒューイともだけど、ザインともケントとも、学園で遠くから見かける事はあるけど、話しはしてないなあ。
ヒューイからは家にも個人的にも連絡はないし。
この間のザインの誕生日にはカードだけ贈っておいたけど、ザインからも特に何もないし…もうすぐケントの誕生日だけど…ザインにカードだけなら、ケントにもカードだけにするべきよね。
「こちらから『婚約破棄はまだか』って言うのも何だかおかしいし、待つしかないんだけど」
「そうね…でも婚約破棄されたらリンジーが学園を辞めちゃうなんて…何だが淋しいわ」
眉を下げてユーニスが言う。
「ありがと。そういえば、私とヒューイの婚約がなくなったら、ユーニスとザインの婚約はどうなるのかしら?
ユーニスとザインの婚約の話は「互いを知り合う期間も設けよう」と言う事で、まだ本決まりにはなっていないのだ。
「ヒューイ様がリンジーと結婚しないなら、ザイン様が私と結婚する意味もなくなるから、この話は流れるんじゃないかしら?」
ケロリとした様子でユーニスは言った。
「ユーニスは…ザインの事…好ましく思ってたり、しないの?」
もしそうなら、私の婚約破棄とユーニスの婚約話が一蓮托生なの、申し訳ない気持ちになるけど…
「格別好ましく思ってはいないわ。格別嫌いでもないけれど」
ユーニスは首を傾げて言う。
「そうなの?」
「うん。ザイン様からも特に積極的に私と結婚したいって感じは受けないし、私の婚約の事はリンジーが気に病む事はないわよ。それに『白の貴公子』なんて私には不釣り合いだから、この話しが流れたらむしろホッとするもの」
あっけらかんと言うユーニスに、リンジーは心の中で安堵のため息を吐いた。
放課後の図書室へザインがやって来ると、本棚の間に居た黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男が嬉しそうに微笑んだ。
「やあザイン君」
ザインはキョロキョロと周りをみまわす。何人かの生徒が見えた。
「司書の控室へ行きましょうか」
男がザインの手を取り、耳元に顔を近付けて小声で言う。
「…その前に本を返して、新しいのを借りて行く」
ザインが男の手を外しながら言うと、男は笑って本棚から一冊の本を取ると、ザインに渡した。
借りていた本を返却し、男に渡された本を借りる手続きをすると、男はザインを図書室の奥にある司書の控室へと促した。
ザインと控室に入ると、男は後ろ手でドアに鍵を掛ける。
控室には一組のテーブルと椅子、一つのソファとローテーブルがある。二人いる学園の司書が休憩や仮眠を取る場所なのだ。
ザインはソファに座ると、今借りたばかりの本をテーブルに置く。表紙を捲ると、赤い色の薬包が挟んであった。
「…これが?」
赤い薬包を手に取るとしげしげと眺める。
「そう。ザイン君ご所望の品です」
男はそう言うと、ザインの隣に座った。
男の手がザインの太腿に触れる。
「くれぐれも量には気をつけて」
「わかった」
「しかし、こうまでしないと繋ぎ止められないなら、その関係はもう破綻しているんじゃないですか?」
太腿をゆっくりと撫でながらザインの耳元で言う。
「うるさい」
ザインが憮然として言うと、男は笑った。
「まあそのおかげで私は美しいザイン君を抱けるんだから、役得ですけどね」
ザインの肩に手を回し、耳に息を吹き掛けるように言うと、太腿を撫でていた手を脇腹から胸へと這わせ、シャツのボタンを外す。
「…ん」
目を閉じて小さく身震いするザインに、男はニンマリと笑った。
「耳、弱いんですよね。ザイン君はかわいいなあ」
-----
「ユーニス、私…学園を辞めるかも知れないわ」
夜、ユーニスの部屋を訪れたリンジーは神妙な面持ちで言った。
「え?」
ユーニスは驚いてリンジーを見る。
「…ヒューイとの婚約がなくなれば経済的に学園に通うのは無理だと思うの。お父様は『何とかする』って言うけど、そのお金は私よりアンジーに掛けて欲しいし…」
確かに学園を卒業していないと良い縁談は来ないって言うけど、どちらにせよグラフトン公爵家から婚約破棄された私に、良い縁談なんて来る筈もないし。
それに今までの援助が丸々借金になるんだし、これからの援助もなくなる。私のせいで領地の復旧も遅れてしまうし、そんな中、私がぬくぬくと学園生活を送るのは違うと思うのよね。
「辞めて、リンジーはどうするの?」
「領地へ行って働くわ」
「……」
ユーニスは何も言えずに眉を顰める。
「ただヒューイが何も言って来ないから、今の処、我が家としてもどうにも動きようがないのよね」
リンジーは敢えて明るい口調で言うと肩を竦めた。
「あれから全くヒューイ様と会ってないの?」
「うん。全く」
あれからは一か月と少し経っている。
ヒューイともだけど、ザインともケントとも、学園で遠くから見かける事はあるけど、話しはしてないなあ。
ヒューイからは家にも個人的にも連絡はないし。
この間のザインの誕生日にはカードだけ贈っておいたけど、ザインからも特に何もないし…もうすぐケントの誕生日だけど…ザインにカードだけなら、ケントにもカードだけにするべきよね。
「こちらから『婚約破棄はまだか』って言うのも何だかおかしいし、待つしかないんだけど」
「そうね…でも婚約破棄されたらリンジーが学園を辞めちゃうなんて…何だが淋しいわ」
眉を下げてユーニスが言う。
「ありがと。そういえば、私とヒューイの婚約がなくなったら、ユーニスとザインの婚約はどうなるのかしら?
ユーニスとザインの婚約の話は「互いを知り合う期間も設けよう」と言う事で、まだ本決まりにはなっていないのだ。
「ヒューイ様がリンジーと結婚しないなら、ザイン様が私と結婚する意味もなくなるから、この話は流れるんじゃないかしら?」
ケロリとした様子でユーニスは言った。
「ユーニスは…ザインの事…好ましく思ってたり、しないの?」
もしそうなら、私の婚約破棄とユーニスの婚約話が一蓮托生なの、申し訳ない気持ちになるけど…
「格別好ましく思ってはいないわ。格別嫌いでもないけれど」
ユーニスは首を傾げて言う。
「そうなの?」
「うん。ザイン様からも特に積極的に私と結婚したいって感じは受けないし、私の婚約の事はリンジーが気に病む事はないわよ。それに『白の貴公子』なんて私には不釣り合いだから、この話しが流れたらむしろホッとするもの」
あっけらかんと言うユーニスに、リンジーは心の中で安堵のため息を吐いた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる