上 下
25 / 84

24

しおりを挟む
24

「お久しぶりです。ルイス様」
 リンジーは目の前の金髪の男性に会釈をした。
「リンジー、久しぶり」
 ルイスと呼ばれた男は金髪を掻き上げながら言う。

 街の噴水のある広場で挨拶を交わす二人を、少し離れたベンチに座って窺い見る男二人がいた。
「声は聞こえないな」
 帽子を深く被ったヒューイが言うと、茶髪の鬘のザインは肩を竦める。
「仕方ないよ。これ以上近付くと気付かれる。それにしてもリンジーかわいい格好しているね」
「…ああ」
 リンジーは薄ピンク色のブラウスに、紺地に白い水玉模様のフレアスカートと云う出立ちだが、ブラウスは前空きのボタンの両側にタックがあり、レースのフリルがあしらわれている。衿も大きく袖口にもフリルがあり、スカートの裾からもフリルが見える。
 あんな格好、俺の前ではした事ない。
 いつもシンプルな服しか着ていないのに。
「変装の一環かな。確かに普段のリンジーとは違うから気付きにくいし、会っても他人の空似かと思うかもね」
「……」
 確かに今のリンジーは貴族令嬢と言うよりちょっと羽振りの良い商家のお嬢さんと言う感じだ。
 ヒューイもオルディス家から尾行つけて来ていなければ街で会っても本人だとは思えなかったかも知れないな、と思う。

「ヒューイ、リンジーたち移動するみたいだよ」
 ザインに耳打ちされてヒューイは改めてリンジーを見る。
 笑顔でルイスと話しながら歩いているリンジー。
 かわいい服を着て他の男に笑い掛けるリンジー。
 …苛々する。
 話しながら歩く二人の後ろを少し離れて着いて行く。
「カフェに入るみたいだね」
 カフェに入ると、奥の席に向かいあって座るリンジーとルイス。
 ヒューイとザインは、二人の近くで観葉植物の影になりリンジーからは見えない席に座った。
「お洋服ありがとうございました」
 リンジーの声が聞こえる。
「どういたしまして。とても似合ってるよ」
 あの服はあの男の趣味か。
 変装要素を含んでいるとは言え、道理でリンジーの好みとはかけ離れてる筈だ。
「本当に頂いて良いんですか?」
 「もちろん」
 観葉植物の葉の間からほんの少しリンジーの表情が見えた。
 はにかむような、嬉しそうな笑顔。
 俺が舞踏会に贈ったドレスと宝飾品は侍女を通じて返して来たのに、その洋服はありがたく頂くのか。
 きっとそう言えば「値段が全然違うじゃないの!」と言われるんだろうが…

 目の前に運ばれて来た紅茶にも気付かず、じっとリンジーを見つめるヒューイを、紅茶のカップを持って眺めるザイン。
「やっぱり手強いな…」
 小声で呟くが、ヒューイには聞こえていないようだ。

 暫くたわいのない話しをした後、ルイスが
「そろそろ時間だ。行こうか」
 と懐中時計を見ながら言った。
「え?」
「仕立屋に予約してるんだ。リンジーに夜会服を見立てて欲しくて」
「私に?」
「陛下の誕生パーティーが冬だろう?それ用に」
 国王の誕生日には王城でパーティーが開催され、国中の貴族が集まる。通常はその家の当主夫妻での参加だが、爵位を譲る前などにはお披露目を兼ねて子息も一緒に参加する場合もあるのだ。
「ルイス様が、陛下の誕生パーティーに出られるんですか?」
 三男だから子爵位を継ぐ訳じゃないのに?
「今年はちょうどその頃長男あに夫婦に子供が生まれるんだ。それで母と長男は不参加。次男はパーティーなどが好きじゃないから俺が母の代わりに参加する事になったんだ」
「ああ…なるほど」
 そう言いながらルイスは立ち上がり、リンジーもルイスに着いて立ち上がる。

 カフェを出ると、ルイスはリンジーと並んで商店街を歩いて行った。
 馬車の通る道路を挟んだ反対側の歩道を歩くヒューイとザイン。
「ヒューイ、あの男はリンジーの相手としてどう?」
 ザインが聞くと、ヒューイは眉を顰めた。
「……」
「少なくとも、ヒューイの方が『良い男』なのは間違いないね」
「ああ」
「そこ即答する処がヒューイらしい」
 ザインはクスクスと笑う。
「だからこそ、俺を見慣れたリンジーがあんな男を好きになるとは思えないんだが」
 至極真顔でヒューイが言った時、リンジーとルイスは商店街の横道に入って行った。
「あんな所に仕立屋があったかな?」
 ザインが首を傾げると、ヒューイは顎に手を当てて考える。
「あるにはあるが…」
 確か、あの店は…



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

処理中です...