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「やっぱり!」
 寮のリンジーの部屋へやって来たユーニスは、ケントがリンジーの家の領地へ来て言った事を聞き、ポンッと手を叩きながら言った。
「やっぱり!?」
 紅茶のカップをユーニスの前に置きながら、リンジーは驚きの声を上げる。
「やっぱりって何?ユーニス、もしかしてケントが私を…」
 す、好きだって、って自分の口から出すのが恥ずかしい。
「…あの…す……だって、気付いてたの?」
 結局口に出せなくてゴニョゴニョと濁して言ったリンジーに向かって、ユーニスは頷いた。
「うん」
「な、何で?」
「視線とか、態度とか?こういうのって当事者はなかなか気付かないものじゃない?」
「視線…態度…」
 どんな視線で、どんな態度なの?
「後は、ヒューイ様が中庭に来られた事があったじゃない?誕生パーティーに来てくれってリンジーに言いに。あの時のケント殿下とヒューイ様の対決を見て、そうなのかな?って」

 ああ、でも確かにあの時は何か火花散ってたし、私の事取り合ってるみたいだなって思ったけど…
「あの時は、ケント殿下もだけど、ヒューイ様もリンジーの事好きなのかと思ったんだけど」
 カップを持ちながらその時の事を思い出すように視線を上に向けるユーニス。
「…それは見る目ないわあ。ユーニス」
 だって、ヒューイにとっては、私がヒューイを好きでも好きじゃなくてもどっちでも良いのよ?
 私と婚約したのも、ただザインと付き合い続けるのに都合の良い「妻」が欲しいから。それだけだもの。
「そう?」
 ユーニスは納得いかない風に首を傾げた。
「でも誕生パーティーでリンジーが倒れた時、凄い勢いで抱き上げて『リンしっかりしろ』『早く医者を』って、何と言うか狼狽えるまではいかないけど、かなり動揺してたみたいだったけど」
「そうなの?」
 あのヒューイが、私の事で動揺?
 いやあ、そんなヒューイ想像できないなあ。
「そうよ。凄い速さでリンジーを連れて行って、お医者様に診てもらうまで会場に戻って来られなかったもの」
「そう…」
 私に何かあったら、また都合の良い女を探さなきゃいけないから、それが面倒で、かな?
 ヒューイは公爵家の嫡男だから、どうしても結婚して後継ぎをもうけなきゃいけないんだものね。

「リンジーって、昔は『リン』って呼ばれてたの?それとも今も二人きりの時にはそう呼ばれてるの?」
 目を輝かせてユーニスが言う。
 古今東西、女の子は恋の話が大好物なのだ。
 そう言えば、あんまり覚えてないけど、あの時「リン」って呼ばれたんだっけ。
「昔よ。ケントがグラフトン家に預けられた頃、そう呼ばれてたの。まだ幼児の頃だから短い方が呼びやすかったんじゃない?」
「ケント殿下が預けられてたのって何歳の頃?」
「四歳から七歳」
「四歳かあ。じゃあ呼びやすかっただけなのかなあ」
 恋の話に発展しなくて、残念そうなユーニス。

 ケントがグラフトン家に預けられたのは、ケントが三歳になる頃、現在の王太子であるケントの兄が病に倒れた事に起因する。
 兄王子の病は重篤で、一時は生命も危ぶまれた。
 第一王子派は「病が治れば当然第一王子が立太子するものだ」と言い、対して「身体状態に不安のある王子に王位継承権を与えるのはいかがなものか」と言う第二王子派の貴族たち。
 そして第一王子の病に回復の兆しはなく、第一王子派と第二王子派の貴族たちの対立は激しくなり、ある時、第一王子派の一貴族から、第二王子へ刺客が放たれる。
「第一王子の王位継承を確実にするには、第二王子がいなくなれば良い」
 短絡的で利己的な主張により、命を狙われた第二王子ケント。王宮内では安全確保が難しいと判断され、四歳になったケントは中立派の中でも一番家格の高いグラフトン公爵家に預けられる事となったのだ。
 そして、第一王子の病が回復し、ケントが王宮へと戻る七歳までヒューイと兄弟のように一緒に暮らしていた。

 ヒューイのお父様とお母様も、ケントを王子として敬うだけじゃなく、本当にヒューイと同じように叱ったり褒めたり抱きしめたりして分け隔てなく接してらっしゃった。
 だから私もケントと気の置けない幼なじみと言う関係になれたんだわ。


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