23 / 84
22
しおりを挟む
22
「やっぱり!」
寮のリンジーの部屋へやって来たユーニスは、ケントがリンジーの家の領地へ来て言った事を聞き、ポンッと手を叩きながら言った。
「やっぱり!?」
紅茶のカップをユーニスの前に置きながら、リンジーは驚きの声を上げる。
「やっぱりって何?ユーニス、もしかしてケントが私を…」
す、好きだって、って自分の口から出すのが恥ずかしい。
「…あの…す……だって、気付いてたの?」
結局口に出せなくてゴニョゴニョと濁して言ったリンジーに向かって、ユーニスは頷いた。
「うん」
「な、何で?」
「視線とか、態度とか?こういうのって当事者はなかなか気付かないものじゃない?」
「視線…態度…」
どんな視線で、どんな態度なの?
「後は、ヒューイ様が中庭に来られた事があったじゃない?誕生パーティーに来てくれってリンジーに言いに。あの時のケント殿下とヒューイ様の対決を見て、そうなのかな?って」
ああ、でも確かにあの時は何か火花散ってたし、私の事取り合ってるみたいだなって思ったけど…
「あの時は、ケント殿下もだけど、ヒューイ様もリンジーの事好きなのかと思ったんだけど」
カップを持ちながらその時の事を思い出すように視線を上に向けるユーニス。
「…それは見る目ないわあ。ユーニス」
だって、ヒューイにとっては、私がヒューイを好きでも好きじゃなくてもどっちでも良いのよ?
私と婚約したのも、ただザインと付き合い続けるのに都合の良い「妻」が欲しいから。それだけだもの。
「そう?」
ユーニスは納得いかない風に首を傾げた。
「でも誕生パーティーでリンジーが倒れた時、凄い勢いで抱き上げて『リンしっかりしろ』『早く医者を』って、何と言うか狼狽えるまではいかないけど、かなり動揺してたみたいだったけど」
「そうなの?」
あのヒューイが、私の事で動揺?
いやあ、そんなヒューイ想像できないなあ。
「そうよ。凄い速さでリンジーを連れて行って、お医者様に診てもらうまで会場に戻って来られなかったもの」
「そう…」
私に何かあったら、また都合の良い女を探さなきゃいけないから、それが面倒で、かな?
ヒューイは公爵家の嫡男だから、どうしても結婚して後継ぎをもうけなきゃいけないんだものね。
「リンジーって、昔は『リン』って呼ばれてたの?それとも今も二人きりの時にはそう呼ばれてるの?」
目を輝かせてユーニスが言う。
古今東西、女の子は恋の話が大好物なのだ。
そう言えば、あんまり覚えてないけど、あの時「リン」って呼ばれたんだっけ。
「昔よ。ケントがグラフトン家に預けられた頃、そう呼ばれてたの。まだ幼児の頃だから短い方が呼びやすかったんじゃない?」
「ケント殿下が預けられてたのって何歳の頃?」
「四歳から七歳」
「四歳かあ。じゃあ呼びやすかっただけなのかなあ」
恋の話に発展しなくて、残念そうなユーニス。
ケントがグラフトン家に預けられたのは、ケントが三歳になる頃、現在の王太子であるケントの兄が病に倒れた事に起因する。
兄王子の病は重篤で、一時は生命も危ぶまれた。
第一王子派は「病が治れば当然第一王子が立太子するものだ」と言い、対して「身体状態に不安のある王子に王位継承権を与えるのはいかがなものか」と言う第二王子派の貴族たち。
そして第一王子の病に回復の兆しはなく、第一王子派と第二王子派の貴族たちの対立は激しくなり、ある時、第一王子派の一貴族から、第二王子へ刺客が放たれる。
「第一王子の王位継承を確実にするには、第二王子がいなくなれば良い」
短絡的で利己的な主張により、命を狙われた第二王子ケント。王宮内では安全確保が難しいと判断され、四歳になったケントは中立派の中でも一番家格の高いグラフトン公爵家に預けられる事となったのだ。
そして、第一王子の病が回復し、ケントが王宮へと戻る七歳までヒューイと兄弟のように一緒に暮らしていた。
ヒューイのお父様とお母様も、ケントを王子として敬うだけじゃなく、本当にヒューイと同じように叱ったり褒めたり抱きしめたりして分け隔てなく接してらっしゃった。
だから私もケントと気の置けない幼なじみと言う関係になれたんだわ。
「やっぱり!」
寮のリンジーの部屋へやって来たユーニスは、ケントがリンジーの家の領地へ来て言った事を聞き、ポンッと手を叩きながら言った。
「やっぱり!?」
紅茶のカップをユーニスの前に置きながら、リンジーは驚きの声を上げる。
「やっぱりって何?ユーニス、もしかしてケントが私を…」
す、好きだって、って自分の口から出すのが恥ずかしい。
「…あの…す……だって、気付いてたの?」
結局口に出せなくてゴニョゴニョと濁して言ったリンジーに向かって、ユーニスは頷いた。
「うん」
「な、何で?」
「視線とか、態度とか?こういうのって当事者はなかなか気付かないものじゃない?」
「視線…態度…」
どんな視線で、どんな態度なの?
「後は、ヒューイ様が中庭に来られた事があったじゃない?誕生パーティーに来てくれってリンジーに言いに。あの時のケント殿下とヒューイ様の対決を見て、そうなのかな?って」
ああ、でも確かにあの時は何か火花散ってたし、私の事取り合ってるみたいだなって思ったけど…
「あの時は、ケント殿下もだけど、ヒューイ様もリンジーの事好きなのかと思ったんだけど」
カップを持ちながらその時の事を思い出すように視線を上に向けるユーニス。
「…それは見る目ないわあ。ユーニス」
だって、ヒューイにとっては、私がヒューイを好きでも好きじゃなくてもどっちでも良いのよ?
私と婚約したのも、ただザインと付き合い続けるのに都合の良い「妻」が欲しいから。それだけだもの。
「そう?」
ユーニスは納得いかない風に首を傾げた。
「でも誕生パーティーでリンジーが倒れた時、凄い勢いで抱き上げて『リンしっかりしろ』『早く医者を』って、何と言うか狼狽えるまではいかないけど、かなり動揺してたみたいだったけど」
「そうなの?」
あのヒューイが、私の事で動揺?
いやあ、そんなヒューイ想像できないなあ。
「そうよ。凄い速さでリンジーを連れて行って、お医者様に診てもらうまで会場に戻って来られなかったもの」
「そう…」
私に何かあったら、また都合の良い女を探さなきゃいけないから、それが面倒で、かな?
ヒューイは公爵家の嫡男だから、どうしても結婚して後継ぎをもうけなきゃいけないんだものね。
「リンジーって、昔は『リン』って呼ばれてたの?それとも今も二人きりの時にはそう呼ばれてるの?」
目を輝かせてユーニスが言う。
古今東西、女の子は恋の話が大好物なのだ。
そう言えば、あんまり覚えてないけど、あの時「リン」って呼ばれたんだっけ。
「昔よ。ケントがグラフトン家に預けられた頃、そう呼ばれてたの。まだ幼児の頃だから短い方が呼びやすかったんじゃない?」
「ケント殿下が預けられてたのって何歳の頃?」
「四歳から七歳」
「四歳かあ。じゃあ呼びやすかっただけなのかなあ」
恋の話に発展しなくて、残念そうなユーニス。
ケントがグラフトン家に預けられたのは、ケントが三歳になる頃、現在の王太子であるケントの兄が病に倒れた事に起因する。
兄王子の病は重篤で、一時は生命も危ぶまれた。
第一王子派は「病が治れば当然第一王子が立太子するものだ」と言い、対して「身体状態に不安のある王子に王位継承権を与えるのはいかがなものか」と言う第二王子派の貴族たち。
そして第一王子の病に回復の兆しはなく、第一王子派と第二王子派の貴族たちの対立は激しくなり、ある時、第一王子派の一貴族から、第二王子へ刺客が放たれる。
「第一王子の王位継承を確実にするには、第二王子がいなくなれば良い」
短絡的で利己的な主張により、命を狙われた第二王子ケント。王宮内では安全確保が難しいと判断され、四歳になったケントは中立派の中でも一番家格の高いグラフトン公爵家に預けられる事となったのだ。
そして、第一王子の病が回復し、ケントが王宮へと戻る七歳までヒューイと兄弟のように一緒に暮らしていた。
ヒューイのお父様とお母様も、ケントを王子として敬うだけじゃなく、本当にヒューイと同じように叱ったり褒めたり抱きしめたりして分け隔てなく接してらっしゃった。
だから私もケントと気の置けない幼なじみと言う関係になれたんだわ。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
転生令嬢と王子の恋人
ねーさん
恋愛
ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件
って、どこのラノベのタイトルなの!?
第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。
麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?
もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う
ねーさん
恋愛
運命が狂った瞬間は…あの舞踏会での王太子殿下の婚約破棄宣言。
罪を犯し、家を取り潰され、王都から追放された元侯爵令嬢オリビアは、辺境の親類の子爵家の養女となった。
嫌々参加した辺境伯主催の夜会で大商家の息子に絡まれてしまったオリビアを助けてくれたダグラスは言った。
「お会いしたかった。元侯爵令嬢殿」
ダグラスは、オリビアの犯した罪を知っていて、更に頼みたい事があると言うが…
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる