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【私のために何もかもを捨てる覚悟】
リンジーはケントの私室で便箋に書いた文字を思い出す。
ケントがこの条件を達成?
ないない。本当ないわ。
「ヒューイ、そんな事言いにわざわざ来たの?」
リンジーはテーブルの上の読み掛けの本を閉じる。
「いや…今日は舞踏会のドレスの相談に来た」
「ドレス?」
「婚約者だからな」
「私に?」
首を傾げるリンジー。
「普通、舞踏会や卒業パーティーのドレスを婚約者に贈るだろう?」
ヒューイの言葉にリンジーは腕を組んで考える。
「うーん、ドレスかぁ。ねえ、舞踏会って出なきゃ駄目かしら?」
「は?」
「私、今まで舞踏会も卒業パーティーも出てないの」
「は?」
ヒューイは呆気に取られた表情でリンジーを見た。
「大丈夫よ。今までは何も言わずにそっと欠席してたけど、無断欠席が露呈した事ないもの。それに今回はちゃんと体調不良って事にするし」
「……」
「ヒューイだって、体調不良で欠席なら私とファーストダンス踊らなくても済むから良いでしょう?」
「婚約者が居れば他の女子とダンスしなくて済むじゃないか」
ああ、そういえば今までの舞踏会や卒業パーティーでは、ヒューイもザインもケントも色んな女生徒からダンスを申し込まれてたんだっけ。
だから私との婚約は女避けの意味もあるんだったわ。
「私が欠席してても『婚約者以外とは踊らないと決めてる』って宣言すれば良くない?」
「……」
「?」
何でヒューイはこんな不機嫌そうな表情なんだろ?
「ドレスは贈る。色や形はリンジーが決めろ」
ヒューイはそう言うと立ち上がった。
「ええ!?」
「俺の婚約者として一曲は踊れ。後は退出しても良い。リンジーがドレスを決めないなら、俺が勝手に適当に決めるぞ?」
テーブルに手を置いて、リンジーに人差し指を向けるヒューイ。
「えー」
「ドレスはピンクでフリルとレースたっぷりだ」
皮肉気に笑うヒューイ。
「!」
フリル、レース、苦手!
ピンクのドレスなんて無理!!
ヒューイは私がそういうの苦手なの知ってて言ってるのよね。本当性格悪い!
「ま、待って。わかった。考える。考えるわよ」
リンジーは思わず手を伸ばしてヒューイの制服の袖を掴んだ。
あ。
パッと手を離す。
「今度の週末にドレスを決めてウチに来い」
ヒューイが口角を上げて言う。
「え?」
「来なければフリルにレースにリボンも追加だ」
リンジーを指差してそう言うと、ヒューイは図書室を出て行った。
-----
学園では、春期の終わり、夏季休暇に入る前に舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。
「リンジー…お前修道女の扮装で舞踏会に出るつもりなのか?」
リンジーが書いたドレスの絵を見て、ヒューイは眉を顰めた。
「え?そう?」
リンジーはソファから半分立ち上がり、向かいに座るヒューイが手に持っている紙を覗き込む。
ハイネックに胸元で切り替えあるシンプルな無地のワンピース…あら、確かに色が黒か紺なら修道服だわ。コレ。
「…ベールがあれば完璧ね」
頷くリンジーに、ヒューイはため息を吐いた。
そして、ペンを持つと、紙をテーブルに置くとリンジーの書いた絵に書き足し始める。
「せめてこことここにレース。ウェストにリボン。スカートの上に同色のシフォンレース」
「え?え?え?」
サラサラと書き足して、リンジーの前に紙を差し出した。
「色は…そうだな、モスグリーンかな。いやもう少し濃い方が良いか…」
ピンクじゃなければ何でも良いんだけど。それにしてもヒューイが私のドレスをこんな真剣に考えてくれるなんて、何だか意外だわ。
「後は靴と装飾品か。リンジー靴と指輪のサイズは?」
「え?新調するの?ダンス一曲のためにもったいないわ。靴は黒のがあるし、装飾品はお母様に借りるし」
「駄目だ。仮にも俺のパートナーだぞ?それなりの物を身に付けてもらわないと、俺とグラフトン家の評判に関わる」
…あ、だからドレスも真剣に考えてくれたのか。
そっか。そりゃあそうよね。
「……」
リンジーは腿の上で両手を握り合わせて俯く。
「あ、いや、リンジーの母上の装飾品がそれなりでないとかではなく…」
俯いたリンジーに少し慌てた様子でヒューイが言う。
慌てるヒューイってのも、なかなか珍しいわね。
まあ、グラフトン家にとってはドレスも靴も宝飾品もほんの端金よね。折角だからありがたく受け取って、婚約解消の時にヒューイに返せばいいか。
【私のために何もかもを捨てる覚悟】
リンジーはケントの私室で便箋に書いた文字を思い出す。
ケントがこの条件を達成?
ないない。本当ないわ。
「ヒューイ、そんな事言いにわざわざ来たの?」
リンジーはテーブルの上の読み掛けの本を閉じる。
「いや…今日は舞踏会のドレスの相談に来た」
「ドレス?」
「婚約者だからな」
「私に?」
首を傾げるリンジー。
「普通、舞踏会や卒業パーティーのドレスを婚約者に贈るだろう?」
ヒューイの言葉にリンジーは腕を組んで考える。
「うーん、ドレスかぁ。ねえ、舞踏会って出なきゃ駄目かしら?」
「は?」
「私、今まで舞踏会も卒業パーティーも出てないの」
「は?」
ヒューイは呆気に取られた表情でリンジーを見た。
「大丈夫よ。今までは何も言わずにそっと欠席してたけど、無断欠席が露呈した事ないもの。それに今回はちゃんと体調不良って事にするし」
「……」
「ヒューイだって、体調不良で欠席なら私とファーストダンス踊らなくても済むから良いでしょう?」
「婚約者が居れば他の女子とダンスしなくて済むじゃないか」
ああ、そういえば今までの舞踏会や卒業パーティーでは、ヒューイもザインもケントも色んな女生徒からダンスを申し込まれてたんだっけ。
だから私との婚約は女避けの意味もあるんだったわ。
「私が欠席してても『婚約者以外とは踊らないと決めてる』って宣言すれば良くない?」
「……」
「?」
何でヒューイはこんな不機嫌そうな表情なんだろ?
「ドレスは贈る。色や形はリンジーが決めろ」
ヒューイはそう言うと立ち上がった。
「ええ!?」
「俺の婚約者として一曲は踊れ。後は退出しても良い。リンジーがドレスを決めないなら、俺が勝手に適当に決めるぞ?」
テーブルに手を置いて、リンジーに人差し指を向けるヒューイ。
「えー」
「ドレスはピンクでフリルとレースたっぷりだ」
皮肉気に笑うヒューイ。
「!」
フリル、レース、苦手!
ピンクのドレスなんて無理!!
ヒューイは私がそういうの苦手なの知ってて言ってるのよね。本当性格悪い!
「ま、待って。わかった。考える。考えるわよ」
リンジーは思わず手を伸ばしてヒューイの制服の袖を掴んだ。
あ。
パッと手を離す。
「今度の週末にドレスを決めてウチに来い」
ヒューイが口角を上げて言う。
「え?」
「来なければフリルにレースにリボンも追加だ」
リンジーを指差してそう言うと、ヒューイは図書室を出て行った。
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学園では、春期の終わり、夏季休暇に入る前に舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。
「リンジー…お前修道女の扮装で舞踏会に出るつもりなのか?」
リンジーが書いたドレスの絵を見て、ヒューイは眉を顰めた。
「え?そう?」
リンジーはソファから半分立ち上がり、向かいに座るヒューイが手に持っている紙を覗き込む。
ハイネックに胸元で切り替えあるシンプルな無地のワンピース…あら、確かに色が黒か紺なら修道服だわ。コレ。
「…ベールがあれば完璧ね」
頷くリンジーに、ヒューイはため息を吐いた。
そして、ペンを持つと、紙をテーブルに置くとリンジーの書いた絵に書き足し始める。
「せめてこことここにレース。ウェストにリボン。スカートの上に同色のシフォンレース」
「え?え?え?」
サラサラと書き足して、リンジーの前に紙を差し出した。
「色は…そうだな、モスグリーンかな。いやもう少し濃い方が良いか…」
ピンクじゃなければ何でも良いんだけど。それにしてもヒューイが私のドレスをこんな真剣に考えてくれるなんて、何だか意外だわ。
「後は靴と装飾品か。リンジー靴と指輪のサイズは?」
「え?新調するの?ダンス一曲のためにもったいないわ。靴は黒のがあるし、装飾品はお母様に借りるし」
「駄目だ。仮にも俺のパートナーだぞ?それなりの物を身に付けてもらわないと、俺とグラフトン家の評判に関わる」
…あ、だからドレスも真剣に考えてくれたのか。
そっか。そりゃあそうよね。
「……」
リンジーは腿の上で両手を握り合わせて俯く。
「あ、いや、リンジーの母上の装飾品がそれなりでないとかではなく…」
俯いたリンジーに少し慌てた様子でヒューイが言う。
慌てるヒューイってのも、なかなか珍しいわね。
まあ、グラフトン家にとってはドレスも靴も宝飾品もほんの端金よね。折角だからありがたく受け取って、婚約解消の時にヒューイに返せばいいか。
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