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「リンジー、昼食を一緒に摂っても良いかな?」
 昼休み、リンジーがいつものようにユーニスと中庭のベンチに行くと、ケントが立っていて、そう言った。
「ケント?」
 ケントが学園内でリンジーに話し掛けるのは珍しい事だ。
 第二王子であるケントにはまだ婚約者はいない。特定の女生徒と仲が良い処を周りに見せるのは避けている筈なのだが。
「あ。ケント殿下」
 リンジーは片手で口を塞いで言い直す。
 学園ではケントに対していつもように平語で話してはいけないんだったわ。
「お昼を一緒にって、どうされたんですか?」
「リンジーに丁寧に話されると変な感じだな。いやまあ、文字通り昼食を一緒に食べたくて」
「いいですけど…ユーニスも一緒で良いですか?」
「もちろん。ユーニス、久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです。ケント殿下」
 ユーニスはニコッと笑って言う。
 学園でリンジーとケントが話す時は大体ユーニスも一緒だ。やはり学園内であってもむやみに男女が二人きりにならないよう気を配っているのだ。

 ベンチにリンジーを挟んで右にケント、左にユーニスが座る。
 それぞれサンドイッチの入った箱を膝に置いた。

「ケント…殿下も同じサンドイッチを食べるのね。…食べるんですね」
 話しにくそうなリンジーを見て、ケントもユーニスもクスクスと笑う。
「いつもの調子でも俺はかまわんが?」
「身分は問わないって建前の学園内で、王宮より畏まらないといけないって言うのもおかしな話しだとは思うけ…思いますけど、周りの目がある以上は仕方がないわ…仕方ないです」
「それでなくても『黒の貴公子』との婚約で今リンジーは注目の的ですから、今も周りは無関心な様子で、実はこの会話に聞き耳を立てていますよ」
 ユーニスがリンジー越しに小声で言うと、ケントは目線だけで周りを見回した。
 隣のベンチの女生徒二人、向かいのベンチの女生徒たち、向こうの木陰にたむろする男女のグループも、時の人であるリンジーと、そこに現れた王子に興味津々な空気が感じ取れる。
「…なるほど。リンジーも大変だな」
 ケントは苦笑いを浮かべる。

 この後、週に何度かはケントと昼食を共にするようになるリンジーたちだった。

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 放課後、リンジーが図書室で本を読んでいると、目の前に人の気配があり、顔を上げるとヒューイが立っていた。
「ヒューイ?」
 ヒューイは無表情でリンジーの向かい側に座った。
「どうしたの?」
「最近、昼休憩ケントと一緒にいるらしいな」
「え?」
 ヒューイは何でこんなに不機嫌な顔してるのかしら?
 婚約者が他の男と一緒なのが気に食わないとか?いやいや、まさかね。
「もしかして、ケントを狙っているのか?」
「狙って?」
「例の条件だ。確かにケントは第二王子で、俺より身分は高いし、見目も良いし、頭も良い。数少ない俺より条件の良い男だろう」
「…はあ」
 つまり、私が「ヒューイより条件の良い男」としてケントに狙いを定めたんじゃないかと言いたい訳ね。
「別に私の方がケントに近付いてる訳じゃないわ。私とユーニスが中庭に居るとケントがよく来るのよ」
「ケントが?」
「そうよ」
「……」
 ヒューイはテーブルに顎に手を当てて考え込む。

「一年生二年生の頃はそんな事なかったのに…それともケントは元々昼休みを中庭で過ごしていて、最近私たちが中庭に行くようになったから声を掛けて来たのかしら…」
 ケントも私たちを見掛けると声を掛けざるを得なくて?
 それなら私たちは違う中庭に行った方が良いのかな?
「いや、今までケントは食堂派だった」
 眉間に皺を寄せてヒューイが言った。
「そうなの?」
 ケントと同じクラスのヒューイが言うなら間違いないか。
 でも、じゃあ何で?
「…もしかして、ケントはリンジーの『条件』を達成しようと…?」
 ヒューイが何かを思い付いたように言う。

 は?
 ケントが?あの条件を?達成しようと?
「な」
 思わず声を出すリンジーに、ヒューイが眉を顰めたまま視線を向けた。
「そうなのか?」
 目を見開くヒューイ。
 何でそんなムッとした表情を?
 あ、そうか。条件を達成したらヒューイにとって都合の良い婚約者が居なくなっちゃうんだもんね。
「ないない。絶対にないわ」
 リンジーはヒューイに向けて手を横に振る。

 だって、私があの紙に書いたのは…



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