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 ま、眩しい…!
 玄関ホールに入って来たリオンに、ニーナは思わず目を細める。
「予定より早かったな」
 テオバルトがにこやかに笑ってリオンに言った。
「ああ」
 リオンはテオバルトの横に立っているニーナを見る。
「ニーナ、それはどういう表情だ?」
 薄目を開けて眉間に力を入れたニーナは顔の前に手をかざした。
「…眩しいんです」
 前世でよく言われた台詞にリオンはふっと小さく吹き出す。
「眩しい?」
 明るいが屋外ではない玄関ホールでテオバルトが不思議そうに首を傾げた。

-----

 ガシャンッ!
 エラの義母の部屋の中から何かが割れる音がして、廊下に控えていた侍女が驚いて肩を竦める。
「王家の避暑地って、どういう事よ!?逃げ込んだのは男爵家でしょう!?何でエラが…いつの間にそんな事になってるの!?」
 ゴンッ!カシャンッ!
 義母は怒鳴りながら燭台などを手当たり次第床へと投げた。
 投げる物がなくなると、ふっと息を吐く。
「…まあいいわ。旦那様さえどうにか誤魔化して舞踏会にさえ漕ぎ着ければ……」
 そう呟くと義母は廊下の侍女に部屋の片付けを命じ、寝室へと入って行った。
 
-----

「そもそも何故、ゴールドバーグ公爵夫人はエラ嬢を貶めるような真似をするんだ?」
 別荘のリビングルームで一人用のソファに腰掛けたリオンはエラの事情などの説明を聞いた後、顎に手を当てて言う。
「そうですよね。実の娘ではないという理由だけでは説明が付かないと思います」
 長ソファに座るジェラルドも眉を顰めて言った。
「…私にもわかりません」
 ジェラルドとレジスが座る長椅子の向かいの長椅子に座るエラが口元に手を当てて言う。
 絵本の中ではシンデレラって当たり前のように「継母と二人の義姉に虐められて」いたから、理由って考えた事なかったな。
 ニーナは部屋の隅に立っているマノンの方を見た。
「マノンさんたちにもわからない?」
「ニーナ様、私の今の雇い主はギブソン男爵ですので、私の事は呼び捨てでお呼びください」
 マノンが困ったように言う。
「あ、そうだったわ」
 肩を竦めるニーナ。マノンは頷くと話し出した。
「ゴールドバーグ家の使用人たちにも理由はわかりませんでした」
「そう…」
「ただ…理由になるかどうかはわかりませんが、奥様はエラ様が公爵令嬢であるという事実を否定したいのではないか、と感じた事はあります。エラ様を使用人のように扱ったり、部屋を奪ったり、ドレスを誂えないなどで舞踏会やパーティーへの出席を阻んだり。ドレスに限らず、奥様がいらしてからエラ様のために新たに設られたものが何もないですし…」
「……」
 エラが居た堪れない様子で俯く。
 隣に座っているニーナはエラの腿の上に置かれた手をきゅっと握った。
「マーゴット様やカトリーヌ様には舞踏会や卒業パーティー前にいつも『王子を射止めて来なさい』と仰って、ドレスや宝飾品を新調なさるのに、エラ様には何ひとつ」
「王子」
 マノンの言葉を遮ってリオンが思わず呟く。
「あ…申し訳ありません。奥様が仰るのは所謂『王子様のような男性』という意味かと…」
 マノンが慌てて頭を下げた。
「いや、つい反応してしまってすまない」
 軽く手を上げて言うリオン。
「でもお義姉様、私に『王子妃に選ばれなかったらどう責任を取るつもり?』って言われたわ。それに、お義姉様やお義母様の来月の舞踏会に向けての気合いの入れ方を見ると、本気なのだと私は思います。お義母様が言う『王子』はリオン殿下の事だと」
 エラは俯いたままで言う。
「舞踏会には他の高位貴族令息も出席されますし、そちらとのご縁を考えられているのかと……まさか本気で王子妃に選ばれようと……?」
 マノンが意外そうに言うのを聞いてリオンは眉を寄せた。
「私はそう思うわ」
 エラが頷く。
「確かにゴールドバーグ公爵家なら王子妃…後の王太子妃、王妃を輩出するに相応しい家柄とは思いますが」
 ジェラルドがそう言いながらリオンの方を見た。
「私は義理の妹を虐げるような人間を妃にするつもりはない」
 苦々しい表情でリオンが言うと、ジェラルドはさもありなんと頷いて、テオバルトは苦笑いを浮かべる。
「エラは…」
 エラは王子妃に相応しい家の令嬢だし、もちろん人を虐めたりなんかしないし、かわいくて綺麗で頭も良いし、優しくて気さくで、逆境でもめげない強さもあるし、庶民の気持ちだってわかるし、未来の王妃にピッタリだと思うの。
 ニーナがそう言い掛けた時、リオンと目が合った。
「……」
「?」
 言葉が止まったニーナにリオンが「どうした?」と言いた気に首を傾げる。
 私がここで不自然に主張しなくても、舞踏会へ出さえすれば上手く行く筈。
 だってエラはシンデレラで、リオン殿下は王子様なんだから。
 ニーナは小さく首を横に振った。







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