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パラパラパラ、パチンッ。
生徒会室のソファで、ニーナは左手に持ったお札の束を右手の指で捲りながら数え、最後の一枚を指でパチンと弾いた。
「これが花屋さんへの支払い分ですね」
数えたお札を封筒に入れ、テーブルの上に置くと、ニーナの向かいに座っていた会計の女子生徒が感心したように言う。
「すごいわねぇ」
「学園に入る前にはギブソントラベル社の経理部門で手伝いをしていたので慣れてるんです」
「そうなのね。私は学園に入ってから初めて『お金』に触ったのよ」
そっか、会計さんも貴族令嬢だもんね。自分でお金を払ったりするような買い物ってした事なかったのね。
学園には食堂も購買部もあるし、放課後とか休みとかに街へ行く事もあるからさすがにお金を使う機会があるけど。
「初めては何を買ったんですか?」
ニーナはテーブルの上の手持ち金庫の中からまたお札を手に持つと、パラパラと数え出した。
「ふふふ。お友達と街でアイスクリームを食べたの。お金を払うのも、歩きながら何かを食べたのも初めてで緊張したわ」
「初食べ歩きですか。はい、これが仕出し屋さんの分です」
封筒をテーブルに置くと、ニーナの手にそっと男性の手が重なる。
「テオバルト様、邪魔です」
「つれないなあ。相変わらず」
いつの間にか隣に座っていたテオバルトが重ねて来た手の下から自分の手を外すと、ニーナはテーブルの上の請求書を持った。
「あとはこのお菓子屋さんで終わりですね。さすが有名店だけあって美味しいけどお高い…」
請求書の数字を睨んで眉を顰める。
「ニーナちゃん、そのお菓子結構食べてたよね?」
テオバルトが笑いながら言うと、ニーナは大きく頷いた。
「だって、お高いけど美味しいんですから。って、見てたんですか?」
お菓子も料理も葡萄ジュースさえも舞踏会で出される物は全部高級だもん。庶民が自分で買うにはお高いから、みんなも結構ここぞとばかりに食べてたし。
「そりゃあ交際を申し込んだ相手だから気になって見ていたんだよ?」
ニッコリ笑ってニーナを見る。
「変なトコ見ないでください」
「変な処じゃないよ。お菓子が好きなんだなーって微笑ましいじゃない」
ニーナが無愛想に言うと、テオバルトはますます笑顔になった。
「私、支払いに行って来ます」
ニーナがお金を入れた封筒を持とうとすると、テオバルトがサッと手を出してその封筒を取る。
「大金を持って街へ出るのは危ないよ。俺が行って来るから、ニーナちゃん帰らずに待ってて」
そう言ってウインクするとテオバルトは生徒会室を出て行った。
「ニーナさん、ここ一週間毎日テオバルト様に交際を迫られてるわね」
会計の女子生徒がクスクスと笑いながら言う。
「もう会計の私たち以外は大した仕事もないのにテオバルト様毎日出て来られて…ニーナさんのお陰で今日で舞踏会の後処理も終わりだし、そろそろ承諾して差し上げたら?」
「えー…」
ニーナは首を傾げた。
確かに舞踏会から一週間、テオバルト様は毎日学園へ来て私に「恋人になって」「交際して」って言ってるけど…
「リオン殿下にまだ婚約者がいらっしゃらないから、親しい間柄のテオバルト様やジェラルド様もまだ婚約なさってないし、誰憚る事もないじゃない。あ、それともやっぱりニーナさんはリオン殿下が良いのかしら?」
「え?」
「学園生の間は身分違いの交際も良くあるけれど、さすがに王子は無理かも知れないわよ」
「え?」
「それとも交際だけなら無理でもないのかしら?でも婚約なさったら無理よね?王子だし」
「え?」
怪訝そうな表情のニーナに、会計の女子生徒は顎に指を当てて首を傾げる。
「リオン殿下をお好きだからテオバルト様との交際を承諾しないのではないの?」
「…は?」
この場合の「好き」は、推しとしてじゃない「好き」よね?
「あ、ジェラルド様」
生徒会室の扉が開いて、ジェラルドが入って来た。
「今日で精算作業も終わりと聞いたので」
「ええ。ニーナさんのお陰でとても早く終える事ができました」
「それは良かった。ギブソンさんありがとうございました」
ジェラルドがニーナに向かって軽く頭を下げる。
ソファから立ち上がってニーナも会釈をした。
「お役に立てて光栄です」
ニーナが顔を上げると、ジェラルドの後ろの扉からリオンが入って来るのが見えた。
「!」
わ。一週間ぶりのリオン殿下だわ。
会計さんが変な事言うから何か変に意識しちゃいそう。
「ニーナ」
リオンと目が合う。
ドッキン!
ニーナの心臓が大きく脈打った。
パラパラパラ、パチンッ。
生徒会室のソファで、ニーナは左手に持ったお札の束を右手の指で捲りながら数え、最後の一枚を指でパチンと弾いた。
「これが花屋さんへの支払い分ですね」
数えたお札を封筒に入れ、テーブルの上に置くと、ニーナの向かいに座っていた会計の女子生徒が感心したように言う。
「すごいわねぇ」
「学園に入る前にはギブソントラベル社の経理部門で手伝いをしていたので慣れてるんです」
「そうなのね。私は学園に入ってから初めて『お金』に触ったのよ」
そっか、会計さんも貴族令嬢だもんね。自分でお金を払ったりするような買い物ってした事なかったのね。
学園には食堂も購買部もあるし、放課後とか休みとかに街へ行く事もあるからさすがにお金を使う機会があるけど。
「初めては何を買ったんですか?」
ニーナはテーブルの上の手持ち金庫の中からまたお札を手に持つと、パラパラと数え出した。
「ふふふ。お友達と街でアイスクリームを食べたの。お金を払うのも、歩きながら何かを食べたのも初めてで緊張したわ」
「初食べ歩きですか。はい、これが仕出し屋さんの分です」
封筒をテーブルに置くと、ニーナの手にそっと男性の手が重なる。
「テオバルト様、邪魔です」
「つれないなあ。相変わらず」
いつの間にか隣に座っていたテオバルトが重ねて来た手の下から自分の手を外すと、ニーナはテーブルの上の請求書を持った。
「あとはこのお菓子屋さんで終わりですね。さすが有名店だけあって美味しいけどお高い…」
請求書の数字を睨んで眉を顰める。
「ニーナちゃん、そのお菓子結構食べてたよね?」
テオバルトが笑いながら言うと、ニーナは大きく頷いた。
「だって、お高いけど美味しいんですから。って、見てたんですか?」
お菓子も料理も葡萄ジュースさえも舞踏会で出される物は全部高級だもん。庶民が自分で買うにはお高いから、みんなも結構ここぞとばかりに食べてたし。
「そりゃあ交際を申し込んだ相手だから気になって見ていたんだよ?」
ニッコリ笑ってニーナを見る。
「変なトコ見ないでください」
「変な処じゃないよ。お菓子が好きなんだなーって微笑ましいじゃない」
ニーナが無愛想に言うと、テオバルトはますます笑顔になった。
「私、支払いに行って来ます」
ニーナがお金を入れた封筒を持とうとすると、テオバルトがサッと手を出してその封筒を取る。
「大金を持って街へ出るのは危ないよ。俺が行って来るから、ニーナちゃん帰らずに待ってて」
そう言ってウインクするとテオバルトは生徒会室を出て行った。
「ニーナさん、ここ一週間毎日テオバルト様に交際を迫られてるわね」
会計の女子生徒がクスクスと笑いながら言う。
「もう会計の私たち以外は大した仕事もないのにテオバルト様毎日出て来られて…ニーナさんのお陰で今日で舞踏会の後処理も終わりだし、そろそろ承諾して差し上げたら?」
「えー…」
ニーナは首を傾げた。
確かに舞踏会から一週間、テオバルト様は毎日学園へ来て私に「恋人になって」「交際して」って言ってるけど…
「リオン殿下にまだ婚約者がいらっしゃらないから、親しい間柄のテオバルト様やジェラルド様もまだ婚約なさってないし、誰憚る事もないじゃない。あ、それともやっぱりニーナさんはリオン殿下が良いのかしら?」
「え?」
「学園生の間は身分違いの交際も良くあるけれど、さすがに王子は無理かも知れないわよ」
「え?」
「それとも交際だけなら無理でもないのかしら?でも婚約なさったら無理よね?王子だし」
「え?」
怪訝そうな表情のニーナに、会計の女子生徒は顎に指を当てて首を傾げる。
「リオン殿下をお好きだからテオバルト様との交際を承諾しないのではないの?」
「…は?」
この場合の「好き」は、推しとしてじゃない「好き」よね?
「あ、ジェラルド様」
生徒会室の扉が開いて、ジェラルドが入って来た。
「今日で精算作業も終わりと聞いたので」
「ええ。ニーナさんのお陰でとても早く終える事ができました」
「それは良かった。ギブソンさんありがとうございました」
ジェラルドがニーナに向かって軽く頭を下げる。
ソファから立ち上がってニーナも会釈をした。
「お役に立てて光栄です」
ニーナが顔を上げると、ジェラルドの後ろの扉からリオンが入って来るのが見えた。
「!」
わ。一週間ぶりのリオン殿下だわ。
会計さんが変な事言うから何か変に意識しちゃいそう。
「ニーナ」
リオンと目が合う。
ドッキン!
ニーナの心臓が大きく脈打った。
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