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「どうして私はオウエン様と踊ってるんでしょうか…?」
 ステップを踏みながらニーナが言うと、ニーナと組んでダンスをしているジェラルドが無表情でニーナを見下ろした。
「ただの順番です。リオン殿下は今会計の方と踊られています。この後は四年生のサポートメンバー、その次がギブソンさんです。ギブソンさんは次はテオバルトと踊っていただきます」
「なるほど…いきなりリオン殿下と私だと慰労と報酬だとしても不釣り合いですもんね」
 うんうんと頷くニーナ。
「貴女は、察しが良いのか悪いのか…」
 ジェラルドはため息のように息を吐きながら言う。
「変ですかね?私」
「かなり」
「それは…すみません」
 俯くニーナをジェラルドはじっと見た。

「…何故リオン殿下は知り合って二、三カ月の貴女に『友人』と呼ぶほどの親しみを持たれているのでしょうか」
 ジェラルドが言う。
「あー…」
 これ、レジスにも前に同じような事を聞かれたけど…答えようがないのよね。
「何故かは、私にはよく…」
 首を捻るニーナに、ジェラルドは眉を顰めた。
「私は六歳の頃からリオン殿下の側に付いていますが、リオン殿下が自分から『友人』だと言われたのは貴女が初めてなんです」
「そうなんですか?」
 確かにリオン殿下はジェラルド様には閉じた感じだけど、側近でお目付け役でもあったんだろうからそれも仕方ない部分もあって「友人」とは違うのはわかるけど…じゃあテオバルト様は?「テオ」って愛称で呼んでるし、親しいんじゃないの?
「貴女が女性でなければ…例えばギブソンくんを『友人』と言われるなら何の問題もないのですけど」
「そうですね」
 それはその通り。
 私が男なら、リオン殿下と「友達」になっても問題ないし、二人きりにならないようにとか気を使わずに話もできたのになあ。
「……」
 ジェラルドが訝し気な表情でニーナを見る。
「?」
 それに気付いたニーナは首を傾げてジェラルドを見上げた。
「貴女は…リオン殿下の愛人になりたいのではないのですか?」
「あぃ!?」
 愛人!?
「あわよくば側妃に、とか」
 側妃!?
「いえいえいえいえ」
 ニーナはブンブンと勢い良く首を横に振る。
「それでは貴女と殿下の間には純粋な『友情』しかないと?」
「……」
 リオン殿下は私ので、友情とは違う。
 私はガチ恋勢じゃないし、同担拒否でもない。
 でもそれは遠い存在の莉音に対してで、リアルに知り合ってしまったリオン殿下に対しても同じなんだろうか…?
「『友情』しかない訳ではないのですね」
「……」
 ジェラルドの言葉にニーナは無言で首を横に振る。
「私は、貴女とリオン殿下の間にあるのが『友情』だろうと『愛情』だろうと構わないんです。ただリオン殿下に貼られた不名誉な付票を剥すには、何としても然るべき令嬢と婚姻を結んでいただかなくてはなりません。その妨げになるような行動は慎んでいただきたいだけなんです」
 ジェラルドは淡々とそう言った。

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 ニーナは四年生のサポートメンバーと踊っているリオンを横目で見る。
 黒の夜会服で着飾った令嬢と踊るリオンは、前世でテレビやスマホやパソコンの画面越しに観た莉音と同じように、別世界の人に見えた。
 でもリオン殿下はそこにいて、次は私と踊る。
 踊るって事は手と手が触れて、私の手をリオン殿下の肩に、リオン殿下が私の背中に手を……
「ニーナちゃん?」
 名前を呼ばれてハッとして、今現在ニーナとダンスをしている相手、テオバルトを見る。
 テオバルトはニッコリと笑った。
「リオンばかり見ているけど、今ニーナちゃんのパートナーは俺だよ?」
「ご、ごめんなさい」
「うん」
 ニコニコしながらニーナを見る。
「ジェラルドに言われた事、気にしてるのかな?」
「え?」
「ジェラルドは、リオンがニーナちゃんを『友人』って言った事にショックを受けたんだよ。あいつ自分でリオンとは友人にならないと決めた癖にな」
 ニーナはニコニコ笑うテオバルトを見上げる。
「あの…テオバルト様はリオン殿下の友人…ではないんですか?」
 テオバルトは片眉を上げた。
「俺とリオンは親戚だよ。だから『友人』とは違うな」
「親戚…」
「俺の父親の妹、つまり叔母が王弟殿下と結婚しているんだ。だから血は繋がっていないけど従兄弟」
「従兄弟」
「そう。ねえニーナちゃん」
「はい…ひゃっ!」
 ぐいっとテオバルトはニーナの背中に回した手に力を入れてニーナを引き寄せる。
 まるでニーナを抱きしめているかのように身体を密着させるテオバルト。

 そのニーナとテオバルトを四年生のサポートメンバーと踊っているリオンが目を見張りながら見ていた。

「なっ!?テオバルト様?」
 ニーナはテオバルトの肩を押して身体を離そうとする。
「ニーナちゃん、俺の恋人になってよ」
 ニーナの背中の手に力を入れながらテオバルトは耳元で言った。



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