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「ものすごく注目を浴びていますけど…大丈夫ですか?」
レジスが自身の隣に立つエラに小声で声を掛けた。
舞踏会の開会式、リオンの挨拶の後、壇上では学園長が挨拶をしている。
「え?」
エラは「何の事?」と言うかのように周りを見回す。
と、今までチラチラとエラを見ていた生徒たちはサッと視線を逸らした。
スラリとした長身にドレスを纏ったエラは本当に綺麗で、男子生徒だけではなく、女子生徒からも注目されている。
「…あー、ええと、ものすごく睨んでる人がいますけど、大丈夫ですか?」
エラが周りを見ると皆視線を逸らすので、エラはあまり注目を浴びている自覚がなさそうだ。
レジスはそう察すると、目を逸らす生徒たちの中でただ一人エラを見続ける──睨み付けている人物を視線で示した。
その先に居るのはカトリーヌ。
ウェーブした赤毛をハーフアップにし、珊瑚色のドレスを着たカトリーヌはその表情も相まってメラメラと燃える炎のように見える。
「…確かにものすごく睨まれていますね」
頭を動かさず、カトリーヌを確認したエラは小声で言った。
「あの人がニーナの部屋へ侵入してドレスを裂いた『お義姉様』ですよね?クラスが違うし、よく知らないですけど、俺と同級生の」
視線を壇上へと向けてレジスも小声で言う。
「…はい」
エラも同じく視線は舞台の方へ向けたままだ。
血が繋がっていないとはいえ姉妹なのに、人前であんなにあからさまに憎しみの籠った目で見るなんて…あの人、どれだけエラさんを嫌ってるんだ?
「明日から夏期休暇ですけど、大丈夫なんですか?」
今日舞踏会が終わったらそのまま、明日ゆっくりと、家の都合などで二、三日後に、と、それぞれ人によって様々ではあるが、夏期休暇には皆寮を出て家に戻る。
レジスはカトリーヌと同じ家に帰るエラを心配しているのだ。
「大丈夫…ではないかも知れませんね」
エラはふふっと笑った。
「笑って言う事じゃ…」
心配そうにエラに視線を向けるレジス。
「笑ったぞ」
「美しい…」
「普通にしてても綺麗だけど、笑うとかわいいな」
周りの男子生徒たちが小声で囁く声がレジスに届く。
ああ…確かに笑うとかわいい感じになるな。
「ニーナがドレスを直してくれたり、邪魔をされても諦めなかったりしたのを見て、私…今まで舞踏会や卒業パーティーを欠席していたのは逃げていたんだなって思ったんです」
エラはレジスの方に顔を向けるとニコッと微笑んだ。
「逃げていた?」
「ええ。ドレスもないし、仕方ないわと。こうしてお義姉様に睨まれるのも怖かったですし」
「それは当然でしょう」
「でも、ニーナが『家で何かあったらいつでも逃げて来て』と言ってくれて…だから私、同じ逃げるならニーナの所へ逃げようかなって」
微笑みながら言うエラ。
「なるほど」
レジスが頷くと、エラは視線を床へと下げた。
「ニーナは凄いですよね」
「先程もそう言われましたね。負けないと言って、実際に負けないと」
「はい。あの…合言葉だと言われましたけど、それは二人の特別な物なのですか…?」
エラは少し視線を上げて横目でレジスを見る。
「二人?俺とニーナですか?」
レジスが目を見開いてエラを見た。
「はい」
「いいえ。合言葉なのは二人じゃなく孤児院の、です」
「…え?」
「俺とニーナのいた孤児院出身者、皆の合言葉のような物なんです。座右の銘と言う程大仰ではないので」
「みんなの…そうなんですか…」
エラは安堵したような表情でレジスを見上げる。
「?」
レジスは首を傾げながら眼鏡を押し上げた。
「…レジスさん」
「はい」
「あの、三年くらい前に…」
エラが言い掛けた時、学園長の挨拶が終わる。
学園長が舞台袖に下がると、テオバルトが舞台の真ん中へ進んで来た。
「あ、テオバルト様が出てきたって事は開会式は終わりだな。すみませんエラさん、俺、手伝いに行かなきゃ」
「あ、はい」
カトリーヌの方をチラッと見るレジス。
カトリーヌはエラの方ではなく舞台の方を見ていた。
「とりあえず、何かあったらニーナの所へ逃げてください。ギブソン家には俺もいますし」
レジスはそう言うと、片手を上げてエラに挨拶をする。
「…っ!はい」
一瞬息を飲んだ後、エラは頷いた。
エラの返事を聞いて、レジスは舞台袖の方へと歩き出す。
テオバルトが開会式の終了を宣言すると、まもなく講堂には音楽が流れ始めた。
「ものすごく注目を浴びていますけど…大丈夫ですか?」
レジスが自身の隣に立つエラに小声で声を掛けた。
舞踏会の開会式、リオンの挨拶の後、壇上では学園長が挨拶をしている。
「え?」
エラは「何の事?」と言うかのように周りを見回す。
と、今までチラチラとエラを見ていた生徒たちはサッと視線を逸らした。
スラリとした長身にドレスを纏ったエラは本当に綺麗で、男子生徒だけではなく、女子生徒からも注目されている。
「…あー、ええと、ものすごく睨んでる人がいますけど、大丈夫ですか?」
エラが周りを見ると皆視線を逸らすので、エラはあまり注目を浴びている自覚がなさそうだ。
レジスはそう察すると、目を逸らす生徒たちの中でただ一人エラを見続ける──睨み付けている人物を視線で示した。
その先に居るのはカトリーヌ。
ウェーブした赤毛をハーフアップにし、珊瑚色のドレスを着たカトリーヌはその表情も相まってメラメラと燃える炎のように見える。
「…確かにものすごく睨まれていますね」
頭を動かさず、カトリーヌを確認したエラは小声で言った。
「あの人がニーナの部屋へ侵入してドレスを裂いた『お義姉様』ですよね?クラスが違うし、よく知らないですけど、俺と同級生の」
視線を壇上へと向けてレジスも小声で言う。
「…はい」
エラも同じく視線は舞台の方へ向けたままだ。
血が繋がっていないとはいえ姉妹なのに、人前であんなにあからさまに憎しみの籠った目で見るなんて…あの人、どれだけエラさんを嫌ってるんだ?
「明日から夏期休暇ですけど、大丈夫なんですか?」
今日舞踏会が終わったらそのまま、明日ゆっくりと、家の都合などで二、三日後に、と、それぞれ人によって様々ではあるが、夏期休暇には皆寮を出て家に戻る。
レジスはカトリーヌと同じ家に帰るエラを心配しているのだ。
「大丈夫…ではないかも知れませんね」
エラはふふっと笑った。
「笑って言う事じゃ…」
心配そうにエラに視線を向けるレジス。
「笑ったぞ」
「美しい…」
「普通にしてても綺麗だけど、笑うとかわいいな」
周りの男子生徒たちが小声で囁く声がレジスに届く。
ああ…確かに笑うとかわいい感じになるな。
「ニーナがドレスを直してくれたり、邪魔をされても諦めなかったりしたのを見て、私…今まで舞踏会や卒業パーティーを欠席していたのは逃げていたんだなって思ったんです」
エラはレジスの方に顔を向けるとニコッと微笑んだ。
「逃げていた?」
「ええ。ドレスもないし、仕方ないわと。こうしてお義姉様に睨まれるのも怖かったですし」
「それは当然でしょう」
「でも、ニーナが『家で何かあったらいつでも逃げて来て』と言ってくれて…だから私、同じ逃げるならニーナの所へ逃げようかなって」
微笑みながら言うエラ。
「なるほど」
レジスが頷くと、エラは視線を床へと下げた。
「ニーナは凄いですよね」
「先程もそう言われましたね。負けないと言って、実際に負けないと」
「はい。あの…合言葉だと言われましたけど、それは二人の特別な物なのですか…?」
エラは少し視線を上げて横目でレジスを見る。
「二人?俺とニーナですか?」
レジスが目を見開いてエラを見た。
「はい」
「いいえ。合言葉なのは二人じゃなく孤児院の、です」
「…え?」
「俺とニーナのいた孤児院出身者、皆の合言葉のような物なんです。座右の銘と言う程大仰ではないので」
「みんなの…そうなんですか…」
エラは安堵したような表情でレジスを見上げる。
「?」
レジスは首を傾げながら眼鏡を押し上げた。
「…レジスさん」
「はい」
「あの、三年くらい前に…」
エラが言い掛けた時、学園長の挨拶が終わる。
学園長が舞台袖に下がると、テオバルトが舞台の真ん中へ進んで来た。
「あ、テオバルト様が出てきたって事は開会式は終わりだな。すみませんエラさん、俺、手伝いに行かなきゃ」
「あ、はい」
カトリーヌの方をチラッと見るレジス。
カトリーヌはエラの方ではなく舞台の方を見ていた。
「とりあえず、何かあったらニーナの所へ逃げてください。ギブソン家には俺もいますし」
レジスはそう言うと、片手を上げてエラに挨拶をする。
「…っ!はい」
一瞬息を飲んだ後、エラは頷いた。
エラの返事を聞いて、レジスは舞台袖の方へと歩き出す。
テオバルトが開会式の終了を宣言すると、まもなく講堂には音楽が流れ始めた。
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