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あーカッコいい!
こんな近くで夜会服のリオン殿下を見られるなんて、私、サポートメンバーで良かった。
講堂の舞台の上で、リオンが開会式の挨拶をしている様子を舞台袖のカーテンの陰からニーナが見ていた。
黒の夜会服はレジスと似てるけど、舞台の上でこんなに映えるのは前世でステージ慣れしてるせいかな。それとも王子だからかな?
髪型もいつもと違って新鮮…
うっとりとリオンを見るニーナに、後ろからテオバルトが声を掛ける。
テオバルトはウェーブした明るい金色の髪を後ろで結び、榛色の瞳が柔らかい印象を与える美男子だ。
「ニーナちゃん」
「何でしょう?」
リオンから目を逸らさずにニーナは言う。
「開会式の後、ダンスが始まるだろ?」
「はい」
「ニーナちゃんはダンスが始まったら講堂の壁際へ椅子を並べる係だよね?」
「はい」
生徒たちが休憩をしたり軽食を摂ったりする時に座るための椅子を、舞台から見て左側の壁際に並べるのが三年生サポートメンバーの担当なのだ。
ちなみに右側と出入口側の担当は一年生と二年生のサポートメンバーだ。
あの椅子、貴族の方々も座る椅子だから結構ゴテゴテしてて重いんだよね。パイプ椅子なら楽なのにな。
「その役、レジスくんに代わってもらうよう頼んであるから、ニーナちゃんはリオンと踊っておいでよ」
「…え?」
思わずテオバルトの方へ振り向くと、テオバルトはニコニコしてニーナを見ていた。
「昨日会計の子が言っただろ?」
「でも特別扱いはダメだってオウエン様も仰られましたし、私の矜持にも反します」
「あれから考え直したんだ。特別扱いではなく、これは慰労と報酬だよ。ジェラルドもそれで良いって」
えー?ジェラルド様が良いって言うかなあ?
あ!もしかして、レジスに急に手伝うよう言ったのって、このため?
「ただ、さすがにファーストダンスは色々よろしくない誤解を招くから、その後にね」
「でも…」
「あ、リオン」
!!
テオバルトがニーナの後ろを見ながら言う。
勢い良くニーナが振り向くと、挨拶を終えて舞台袖へ捌けて来たリオンが立っていた。
「なっ…」
ヘナヘナと床に座り込むと、ニーナはガクンと手をついて項垂れる。
「ニーナ!?どうした?」
「ニーナちゃん!?」
驚くリオンとテオバルト。
「…生MC…聴きそびれた…」
ニーナはガックリと項垂れたまま呟いた。
-----
「あれは『挨拶』であって『MC』じゃないだろ?」
舞台の側にある控室に置かれたソファに座るリオンが呆れたように言うと、リオンの後ろに立っているニーナは唇を尖らせる。
今は学園長の挨拶中で、控室にはリオンとニーナしかいない。
「だって、前世ぶりに莉音が舞台上で喋ってるの見たんですもん。始業式は顔見てすぐ倒れたからよく見てないし…」
「それにしても、ニーナは思った事を口に出し過ぎじゃないか?このままじゃ『変人』のレッテル間違いなしだぞ?」
うう…確かに。
つい口からでちゃうの、気を付けないと。
「…気を付けます」
「ああ」
開け放してある控室の扉からジェラルドが入って来て、ニーナとリオンを見て眉を顰めた。
「あの、オウエン様、リオン殿下と私がダンスするのを許してくださったとテオバルト様が仰いましたけど、本当でしょうか?」
ニーナが言うと、ジェラルドは眉を顰めたままでニーナを見ると、ため息を吐く。
「…考えてみれば、ギブソンさんが殿下と踊れる機会は今日の舞踏会しかないですから。卒業パーティーにはリオン殿下はご婚約されていて、他の女生徒とは踊られない可能性もありますし。まあこれはご婚約者様次第ですが」
「あ…」
そうか。
次の春にはリオン殿下は学園を卒業。そして、明日からの夏期休暇の終わりにお妃様選びの舞踏会があるんだから、その卒業パーティーの時にはリオン殿下はもう婚約してるんだわ…
「……」
リオンは黙ってジェラルドを見ていた。
「貴女が自分への特別扱いを良しとする質ならば絶対に許可しない処ですが、そうではないようですし」
「ありがとうございます」
ニーナはジェラルドへ頭を下げる。
「ただ、偶然なのでしょうが、こうしてリオン殿下と二人きりになるのは…」
「ジェラルド。ニーナは私の『友人』だ。扉を開けた講堂の控室に、僅かな時間に友人と二人だけになるのが逐一咎められる程の事か?」
低く落ち着いた声で言うリオン。
ジェラルドが少し目を見開いた。
「リオン殿下、私は殿下のためを思って…」
見開いた目を眇めて言う。
「わかっている」
頷いてリオンは言った。
「私の汚名を雪ぐためにジェラルドが尽力し続けてくれている事は良くわかっている。ただ、ニーナだけが悪い訳ではないのだから、ニーナを責めるのはやめてくれ」
ジェラルドをじっと見る。
「…わかりました」
ジェラルドは俯いて言うと、ニーナの方へ身体を向けて頭を下げた。
あーカッコいい!
こんな近くで夜会服のリオン殿下を見られるなんて、私、サポートメンバーで良かった。
講堂の舞台の上で、リオンが開会式の挨拶をしている様子を舞台袖のカーテンの陰からニーナが見ていた。
黒の夜会服はレジスと似てるけど、舞台の上でこんなに映えるのは前世でステージ慣れしてるせいかな。それとも王子だからかな?
髪型もいつもと違って新鮮…
うっとりとリオンを見るニーナに、後ろからテオバルトが声を掛ける。
テオバルトはウェーブした明るい金色の髪を後ろで結び、榛色の瞳が柔らかい印象を与える美男子だ。
「ニーナちゃん」
「何でしょう?」
リオンから目を逸らさずにニーナは言う。
「開会式の後、ダンスが始まるだろ?」
「はい」
「ニーナちゃんはダンスが始まったら講堂の壁際へ椅子を並べる係だよね?」
「はい」
生徒たちが休憩をしたり軽食を摂ったりする時に座るための椅子を、舞台から見て左側の壁際に並べるのが三年生サポートメンバーの担当なのだ。
ちなみに右側と出入口側の担当は一年生と二年生のサポートメンバーだ。
あの椅子、貴族の方々も座る椅子だから結構ゴテゴテしてて重いんだよね。パイプ椅子なら楽なのにな。
「その役、レジスくんに代わってもらうよう頼んであるから、ニーナちゃんはリオンと踊っておいでよ」
「…え?」
思わずテオバルトの方へ振り向くと、テオバルトはニコニコしてニーナを見ていた。
「昨日会計の子が言っただろ?」
「でも特別扱いはダメだってオウエン様も仰られましたし、私の矜持にも反します」
「あれから考え直したんだ。特別扱いではなく、これは慰労と報酬だよ。ジェラルドもそれで良いって」
えー?ジェラルド様が良いって言うかなあ?
あ!もしかして、レジスに急に手伝うよう言ったのって、このため?
「ただ、さすがにファーストダンスは色々よろしくない誤解を招くから、その後にね」
「でも…」
「あ、リオン」
!!
テオバルトがニーナの後ろを見ながら言う。
勢い良くニーナが振り向くと、挨拶を終えて舞台袖へ捌けて来たリオンが立っていた。
「なっ…」
ヘナヘナと床に座り込むと、ニーナはガクンと手をついて項垂れる。
「ニーナ!?どうした?」
「ニーナちゃん!?」
驚くリオンとテオバルト。
「…生MC…聴きそびれた…」
ニーナはガックリと項垂れたまま呟いた。
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「あれは『挨拶』であって『MC』じゃないだろ?」
舞台の側にある控室に置かれたソファに座るリオンが呆れたように言うと、リオンの後ろに立っているニーナは唇を尖らせる。
今は学園長の挨拶中で、控室にはリオンとニーナしかいない。
「だって、前世ぶりに莉音が舞台上で喋ってるの見たんですもん。始業式は顔見てすぐ倒れたからよく見てないし…」
「それにしても、ニーナは思った事を口に出し過ぎじゃないか?このままじゃ『変人』のレッテル間違いなしだぞ?」
うう…確かに。
つい口からでちゃうの、気を付けないと。
「…気を付けます」
「ああ」
開け放してある控室の扉からジェラルドが入って来て、ニーナとリオンを見て眉を顰めた。
「あの、オウエン様、リオン殿下と私がダンスするのを許してくださったとテオバルト様が仰いましたけど、本当でしょうか?」
ニーナが言うと、ジェラルドは眉を顰めたままでニーナを見ると、ため息を吐く。
「…考えてみれば、ギブソンさんが殿下と踊れる機会は今日の舞踏会しかないですから。卒業パーティーにはリオン殿下はご婚約されていて、他の女生徒とは踊られない可能性もありますし。まあこれはご婚約者様次第ですが」
「あ…」
そうか。
次の春にはリオン殿下は学園を卒業。そして、明日からの夏期休暇の終わりにお妃様選びの舞踏会があるんだから、その卒業パーティーの時にはリオン殿下はもう婚約してるんだわ…
「……」
リオンは黙ってジェラルドを見ていた。
「貴女が自分への特別扱いを良しとする質ならば絶対に許可しない処ですが、そうではないようですし」
「ありがとうございます」
ニーナはジェラルドへ頭を下げる。
「ただ、偶然なのでしょうが、こうしてリオン殿下と二人きりになるのは…」
「ジェラルド。ニーナは私の『友人』だ。扉を開けた講堂の控室に、僅かな時間に友人と二人だけになるのが逐一咎められる程の事か?」
低く落ち着いた声で言うリオン。
ジェラルドが少し目を見開いた。
「リオン殿下、私は殿下のためを思って…」
見開いた目を眇めて言う。
「わかっている」
頷いてリオンは言った。
「私の汚名を雪ぐためにジェラルドが尽力し続けてくれている事は良くわかっている。ただ、ニーナだけが悪い訳ではないのだから、ニーナを責めるのはやめてくれ」
ジェラルドをじっと見る。
「…わかりました」
ジェラルドは俯いて言うと、ニーナの方へ身体を向けて頭を下げた。
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