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 いよいよ明日は学園の舞踏会。
 生徒会役員とサポートメンバー全員が生徒会室へ集まり、これから明日の役割や担当を確認するミーティングが行われる。
「あの、私、明日の舞踏会で、リオン殿下とのダンスを希望する生徒の列に並んでも良いですか?」
 ニーナがジェラルドを見ながら言うと、ジェラルドは嫌そうな表情ながらも
「それはご自由に」
 と言った。
 応接セットの長ソファに副会長、書記、会計が座り、向かい側にテオバルト、四年女子のサポートメンバー、三年男子のサポートメンバーが座っている。三年女子サポートメンバーであるニーナ、それに二年生と一年生のサポートメンバーはソファの周りに立っていた。
 リオンは生徒会長の机に着き、その机の前にジェラルドが立っている。
 リオンは少し驚いた表情で、テオバルトはニヤニヤしながらニーナを見ていた。
「特別扱いを要求するのではなく、一般生徒と共に並ぶのなら私がとやかく言う事ではないでしょう。ただ、かなりの列になるでしょうから舞踏会が終わるまでに順番が来るかどうかは知りません」
 淡々と言うジェラルド。
「なるほど…リオン殿下と踊るのは無理そうですね…」
 サポートメンバーは舞踏会の開会式や閉会式の手伝いもあるし、早く並ぶの無理だもんね…
 ニーナは明らかにシュンとした表情で頷く。
「ギブソンさんは明日から夏期休暇なのに出て来て手伝ってくださるんだから、一曲くらい踊ってあげては?」
 会計の女子生徒がリオンの方を向いて言うと、ジェラルドが眉を顰めた。
「それは」
「それは駄目です」
 ジェラルドが言葉を発するのと同時にニーナが言う。
 その場の全員がニーナに注目した。
「それは抜け駆けです。殿下推しの女子生徒たちに対する裏切りですよ!チケットが取れなければ潔くイベントは諦める。それがイル…リオン殿下推しとしての私の矜持です」
「おし…?」
「チケット?」
 キッパリと言い切るニーナに、会計の女子生徒とジェラルドが不思議そうに言い、リオンは俯いて頭を抱える。他の皆んなもポカンとしてニーナを見ていた。
「あ」
 しまった。
「…ニーナ」
 自分の口元を押さえるニーナを顔を上げたリオンが諌めるように睨む。
 ニーナは声を出さずに「ごめんなさい」と言いながら肩を竦めた。

「つまり、ニーナちゃんは並んでいる列の先頭へ割り込むような狡い真似はしないと言いたいのかな?」
 そうテオバルトが言うと、ニーナは「そうです。そうです」と何度も頷く。
 …ん?「ニーナちゃん」?
 テオバルト様に名前呼び、初めてされたような?
「テオ?」
 リオンがテオバルトを訝し気に見る。テオバルトはニーナを見ながらニコリと笑った。
「『ギブソンさん』だとレジスとどちらを呼んでいるのかわからないからね。リオンもそう思うからニーナちゃんとレジスをファーストネームで呼んでいるんだろう?」
「ああ、まあ…」
 歯切れ悪くリオンが言う。
 ジェラルドがリオンを横目で見ながら「コホン」と咳払いをした。
「私は『ギブソンくん』と『ギブソンさん』で充分呼び分けられると思いますがね。まあテオバルトがギブソンさんをどう呼ぼうと構いませんので、そろそろ明日の打ち合わせを始めましょう」

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 寮の自分の部屋で、ニーナはソファから立ち上がるとドレスの両肩を持って高く掲げた。
「できた…!」
 ドレス二着分、斜めに切られたスカート部分にレースを縫い付けて、元々そういうデザインだったかのように仕上げる作業が舞踏会の前日の夜中にようやく完了した。
 生徒会室での打ち合わせの後、寮に戻り、少し前まではエラも一緒にここで作業していたが、さすがに夜遅くになったので自室に戻らせて、ニーナは必死で針を動かしていたのだ。
 徹夜になるかと思ったけど、何とか少しは寝られそうだわ。
 寝室の壁にドレスを二着掛けると、ニーナはベッドに潜り込む。
 エラがこのドレスを着ると本当にお姫様みたいだろうなあ…サイズ調整で試着した時も「うわー」って感じだったし、早くちゃんと着たトコ見たい。
 それにしても、明日のドレスはこれで良いとして、お妃選びの舞踏会にエラが着るドレスはどうしたらいいんだろ。肝心要のガラスの靴は?馬車は?

 …まあ、とりあえず、明日に備えて今は寝よう。



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