推しがシンデレラの王子様になっていた件。

ねーさん

文字の大きさ
上 下
16 / 102

15

しおりを挟む
15

「待ちなさいよ!!」
 廊下へ飛び出したニーナは一人の女子生徒の腕を掴んだ。
「離して!」
「…カトリーヌお義姉様」
 身を捩る女子生徒を見ながらエラが呟く。
「やっぱり!をやったのはエラのお義姉様ね!?」
「エラの癖に舞踏会に出ようとコソコソしてるのが悪いのよ!」
 女子生徒カトリーヌはニーナの腕を振りほどくと、エラの前に仁王立ちをした。
「エラの癖にって何!?」
「エラは悲劇の主人公みたいな顔をして、お母様や私たちを見下してるの。自分こそが正当な公爵令嬢で私たちは偽物だって」
 カトリーヌはエラの顔を指差して言う。
「見下してなんて…」
「ほら、今も。これは『何て可哀想な私』って顔よ!」
「見下してるかどうかは別にして、エラが正当な公爵令嬢なのは事実じゃない」
 腕組みをしてニーナが言うと、カトリーヌはキッとニーナを睨んだ。
「うるさい!灰にまみれて寝るような女が公爵令嬢でございなんて顔をして、古くなったドレスを直してまで舞踏会へ出るなんてゴールドバーグ公爵家の恥なのよ!」
 灰にまみれてなんて大袈裟な!それに暖炉の前で寝ざるを得なかったのはあんた達のせいでしょーが!
 ニーナがそう言おうとすると、カトリーヌは踵を返して廊下を走り出す。
「あ、ちょっと!」
 ニーナが手を伸ばそうとするが、カトリーヌはそのまま走り去って、廊下の角を階段の方へと曲がって行った。

「もう!」
 ニーナが憤慨しながら振り向くと、エラがポロポロと涙を溢している。
「エラ!?」
「ごめんなさい…ニーナ。あんなに頑張ってドレス…直してくれたのに…私のせいでニーナのドレスまで…」
 あ~泣き顔も綺麗でかわいい。
 ってそんな場合じゃない!
「エラのせいじゃないわ!」
 ポケットからハンカチを出すとエラの頬に押し当てた。
「だって…ニーナまで舞踏会に出られなくなって…」
「何言ってるの。私もエラも舞踏会には出るわよ」
「…え?でもドレスが…」
「ドレスは直す」
「でも舞踏会まであと三日しか…」
「間に合うわ。ううん。間に合わせるわ」
 ニーナはぎゅっと拳を握る。
 このまま「意地悪な義姉」に負けるなんて嫌。カトリーヌの思い通りになんてならないわ。
「負けないわよ!エラ!」
 ニーナがそう言うと、エラは目を見開いてニーナを見た。
「…うん!」
 エラは大きく頷く。
「とりあえずあと二本、縫い針探すから、待ってて」
「私も探すわ」
 ニーナの後に続いて部屋に入ると、エラもカーペットに膝をつき、目を凝らした。
「…負けない」
 エラは小さく呟く。
「あった!あと一本!」
 ニーナの声に、エラは改めてカーペットに目を向けた。

-----

「それで、俺に『家からレースを持って来い』と言った訳か」
 レジスが呆れたように言う。
「だって取りに帰る時間も惜しいんだもん」
 放課後の空き教室で、何個もくっ付けて広くした机の上に青いドレスを広げてチクチクと縫っているニーナは、教室に入って来たレジスに声だけで答えた。
「レジスさん、お手数お掛けしました」
 エラももう一着の水色のドレスに一心不乱にビーズを縫い付けながら軽く頭を下げる。
「いやまあ…エラさ、まに、お礼を言っていただく事では…」
 レジスは話し辛そうに頭を掻いた。
 ニーナの友人に畏まる事はない。しかしエラは公爵令嬢だ。レジスはエラにどういうスタンスで接すれば良いのかわからないでいる。
「呼び捨てで良いですよ?敬語もいらないですし」
 ビーズの穴に針に通しながらエラが言う。
「いえ、呼び捨てはさすがに…」
 レジスは頭に手を置いて首を傾げた。
「では『エラさん』でいかがでしょう?」
「…じゃあ、それで……本当にいいのか?」

「レジス暇なら手伝ってよ」
 ニーナが顔を上げて言う。
「おい。自分の代わりに生徒会へ手伝いに行けって言ったのはニーナだろ?」
「あ、そうだったわ」
 舞踏会は明後日。生徒会の面々も会場準備に大忙しで、サポートメンバーであるニーナが自分たちのドレスのために休む訳にはいかないため、レジスに代わりに行ってもらうよう頼んであったのだ。
「レースはここに置くからな。ところでどうして教室で作業してるんだ?」
「寮の部屋には侵入されるから」
「ああ…」
 レジスはため息を吐くと、ニーナとエラの必死な顔を交互に見た。
「じゃあ俺は生徒会の方へ行くから」
「うん。よろしくね」
 ニーナは立ち上がってレジスの持って来た包みの結び目を解きながら言い、エラはレジスに視線を向けると小さく会釈をする。
「まあ、負けるなよ」
 レジスはそう言いながら軽く手を上げた。
 エラは手を止めてレジスを見る。
「もちろん」
 ニーナが握り拳をレジスに見せると、レジスは口角を上げて教室を出て行った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...