9 / 41
8
しおりを挟む
8
「ぶ…舞踏会!」
思わず声を上げるニーナ。
招待状には学園の夏期休暇の終わり頃の日時が書かれている。今から四カ月後だ。
後は、一家につき一名の保護者の付き添いが許可されている事や、ドレスコードなどが書かれていた。
この舞踏会で王子はシンデレラと出会う。
「伯爵家、侯爵家、公爵家の十五歳から二十歳までの結婚していない令嬢に招待状が送られているみたい。ニーナの家には…」
エラは少し申し訳なさそうな表現を浮かべるが、ニーナはブンブンと首を横に振った。
「王子と結婚なんて、吊り合うのは公爵、侯爵家まででしょ?今回はそれでも裾野を広げるための伯爵家よ。ウチみたいな男爵家が招待される訳ないわ。で、エラはどんなドレスで出るの?」
興奮して言うニーナに、エラは苦笑いを返す。
「私は、出ないわ」
「え?」
「この招待状も、家に届いていたのをお義母様が隠していたのよ。私と仲が良い侍女がこっそり偽の封筒と入れ替えて私に渡してくれたの」
「あ…」
エラ宛の招待状を隠すという事は、エラの義母はエラを舞踏会に出席させるつもりはないという事。
そうだ。
シンデレラの童話でも舞踏会に出るのは意地悪な継母と意地悪な姉たち。舞踏会に出られなくて泣いているシンデレラにガボチャの馬車とネズミの馬と、ドレスと宝石とガラスの靴を与えてくれたのは、魔法使いだったわ。
………ん?
「魔法使い!?」
「ニーナ?」
素っ頓狂な声を上げたニーナを、エラは驚いて見た。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて…」
「考え事に魔法使いが出て来るの?」
クスクス笑うエラ。
魔法使いなんてこの世界には存在しない。
でもエラは舞踏会に出なくちゃ。
だって、エラはこんなにもかわいくて、綺麗で、ピカピカ輝いてるもん。私みたいな平民上がりのにわか令嬢とも仲良くしてくれるくらい器も大きいし、使用人みたいな扱いされて、虐げられる者や使われる者の気持ちを理解できるし、何よりそれでメゲてない処が良い。明るくて優しくて芯が強くて、王子の…ううん、国王の妃にピッタリだと思う。
うん。やっぱり、光り輝くリオン殿下の隣に並び立つのはエラしかいないわ。
-----
「『乱心王子』なんてかわいいモンで、実際大人たちはコソコソと、しかしちゃんと俺に聞こえるように『気が触れた』『狂ってる』と話していたからな」
生徒会室の応接ソファに座ったリオンはうんざりしながらソファにもたれた。
「聞こえるようになんて、五歳の子に酷すぎる」
ニーナは憤慨しながらリオンの前に紅茶のカップを置く。
「しかしまあ…王太子に遅くからようやくできた一人息子が理解し難い事を喚き出したらそう言いたくなるのもわからんでもない」
「でも…やっぱり酷い」
カップを手に取るリオン。
ニーナはテーブルの横に立ってカップを乗せていたトレイを胸に抱えた。
「五歳の俺に口に出して良い事と出さない方が良い事の区別は難しかった。ニーナは気を付けろよ」
「はい…あ」
この間エラの前で「魔法使い」って言っちゃったっけ。
「何かあったのか?」
リオンが眉間に皺を寄せてニーナを見上げる。
「いえ、あの、エラにちょっと…でもエラは笑って流してくれましたから」
慌てて言うと、リオンは小さく息を吐いた。
「なら良いが…気を付けろよ。本当に」
うわ。リオン殿下、ほんとに私の事を心配してくれてるんだ。
嬉しい…
コンコン。
扉がノックされ、リオンの側近であり、生徒会副会長のジェラルド・オウエンが入って来る。
ジェラルドは紺色の髪に青の瞳、神経質そうな面持ちの侯爵家の次男だ。
ソファに座っているリオンと、その傍に立っているニーナを見てジェラルドは眉を顰めた。
「また貴女ですか。ギブソンさん」
ジェラルド様は私とリオン殿下が二人きりでいるといつも眉を顰めて睨んで来るのよね。
まあそれなりの年齢の男性がそれなりの年齢の女性と二人きりになるなんて貴族社会では御法度なんだけど。ここが学園の中で、更に生徒会室だから何となくお目溢しされてるだけなのは私にもわかってる。
でもなあ…
「偶々だ。ジェラルド」
リオンが言う。
「偶々が多すぎます」
不服そうに言うと、ジェラルドはニーナを睨みながらリオンの向かい側に座った。
「ジェラルド様にもお茶を…」
「結構です。それにギブソンさんに名前で呼ばれる筋合いはありません」
「…失礼いたしました。オウエン様」
ニーナは頭を下げて生徒会室から繋がっている給湯室へ行こうと歩き出す。
「リオン殿下、今は大事な時期なのですから誤解を招くような行動はおやめください」
「わかっている」
ジェラルドの冷淡な声と、更に硬質なリオンの声。
あ、閉じた。
背中に聞こえる声を聞いて、ニーナはそう思った。
「ぶ…舞踏会!」
思わず声を上げるニーナ。
招待状には学園の夏期休暇の終わり頃の日時が書かれている。今から四カ月後だ。
後は、一家につき一名の保護者の付き添いが許可されている事や、ドレスコードなどが書かれていた。
この舞踏会で王子はシンデレラと出会う。
「伯爵家、侯爵家、公爵家の十五歳から二十歳までの結婚していない令嬢に招待状が送られているみたい。ニーナの家には…」
エラは少し申し訳なさそうな表現を浮かべるが、ニーナはブンブンと首を横に振った。
「王子と結婚なんて、吊り合うのは公爵、侯爵家まででしょ?今回はそれでも裾野を広げるための伯爵家よ。ウチみたいな男爵家が招待される訳ないわ。で、エラはどんなドレスで出るの?」
興奮して言うニーナに、エラは苦笑いを返す。
「私は、出ないわ」
「え?」
「この招待状も、家に届いていたのをお義母様が隠していたのよ。私と仲が良い侍女がこっそり偽の封筒と入れ替えて私に渡してくれたの」
「あ…」
エラ宛の招待状を隠すという事は、エラの義母はエラを舞踏会に出席させるつもりはないという事。
そうだ。
シンデレラの童話でも舞踏会に出るのは意地悪な継母と意地悪な姉たち。舞踏会に出られなくて泣いているシンデレラにガボチャの馬車とネズミの馬と、ドレスと宝石とガラスの靴を与えてくれたのは、魔法使いだったわ。
………ん?
「魔法使い!?」
「ニーナ?」
素っ頓狂な声を上げたニーナを、エラは驚いて見た。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて…」
「考え事に魔法使いが出て来るの?」
クスクス笑うエラ。
魔法使いなんてこの世界には存在しない。
でもエラは舞踏会に出なくちゃ。
だって、エラはこんなにもかわいくて、綺麗で、ピカピカ輝いてるもん。私みたいな平民上がりのにわか令嬢とも仲良くしてくれるくらい器も大きいし、使用人みたいな扱いされて、虐げられる者や使われる者の気持ちを理解できるし、何よりそれでメゲてない処が良い。明るくて優しくて芯が強くて、王子の…ううん、国王の妃にピッタリだと思う。
うん。やっぱり、光り輝くリオン殿下の隣に並び立つのはエラしかいないわ。
-----
「『乱心王子』なんてかわいいモンで、実際大人たちはコソコソと、しかしちゃんと俺に聞こえるように『気が触れた』『狂ってる』と話していたからな」
生徒会室の応接ソファに座ったリオンはうんざりしながらソファにもたれた。
「聞こえるようになんて、五歳の子に酷すぎる」
ニーナは憤慨しながらリオンの前に紅茶のカップを置く。
「しかしまあ…王太子に遅くからようやくできた一人息子が理解し難い事を喚き出したらそう言いたくなるのもわからんでもない」
「でも…やっぱり酷い」
カップを手に取るリオン。
ニーナはテーブルの横に立ってカップを乗せていたトレイを胸に抱えた。
「五歳の俺に口に出して良い事と出さない方が良い事の区別は難しかった。ニーナは気を付けろよ」
「はい…あ」
この間エラの前で「魔法使い」って言っちゃったっけ。
「何かあったのか?」
リオンが眉間に皺を寄せてニーナを見上げる。
「いえ、あの、エラにちょっと…でもエラは笑って流してくれましたから」
慌てて言うと、リオンは小さく息を吐いた。
「なら良いが…気を付けろよ。本当に」
うわ。リオン殿下、ほんとに私の事を心配してくれてるんだ。
嬉しい…
コンコン。
扉がノックされ、リオンの側近であり、生徒会副会長のジェラルド・オウエンが入って来る。
ジェラルドは紺色の髪に青の瞳、神経質そうな面持ちの侯爵家の次男だ。
ソファに座っているリオンと、その傍に立っているニーナを見てジェラルドは眉を顰めた。
「また貴女ですか。ギブソンさん」
ジェラルド様は私とリオン殿下が二人きりでいるといつも眉を顰めて睨んで来るのよね。
まあそれなりの年齢の男性がそれなりの年齢の女性と二人きりになるなんて貴族社会では御法度なんだけど。ここが学園の中で、更に生徒会室だから何となくお目溢しされてるだけなのは私にもわかってる。
でもなあ…
「偶々だ。ジェラルド」
リオンが言う。
「偶々が多すぎます」
不服そうに言うと、ジェラルドはニーナを睨みながらリオンの向かい側に座った。
「ジェラルド様にもお茶を…」
「結構です。それにギブソンさんに名前で呼ばれる筋合いはありません」
「…失礼いたしました。オウエン様」
ニーナは頭を下げて生徒会室から繋がっている給湯室へ行こうと歩き出す。
「リオン殿下、今は大事な時期なのですから誤解を招くような行動はおやめください」
「わかっている」
ジェラルドの冷淡な声と、更に硬質なリオンの声。
あ、閉じた。
背中に聞こえる声を聞いて、ニーナはそう思った。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる