6 / 41
5
しおりを挟む
5
「嬉しい?」
ニーナが不思議そうに言うと、エラはニコニコして頷く。
「私のために怒ってくれるお友達がいるのが嬉しいの。それに、お義母様が来る前の私だったらニーナとお友達になれてなかったし、そういう意味ではお義母様やお義姉様にも感謝しちゃうわ」
そうか。エラが正真正銘の公爵令嬢のままなら、私みたいな庶民あがりの男爵令嬢と会話をするのだって考えられなかった筈。
いくら学園の中では身分は関係ない、皆平等だって掲げられてたとしても、そんなのは所詮建前だもん。
「あと、掃除や洗濯もできるようになったし、お使いで街に出るのも新鮮で楽しいわ。お金を使ったのも買い物を言い付けられた時が初めてだったし」
エラは明るい口調で言った。
お金を使った…って、あ、そうか。公爵令嬢が街で自分のお財布から小銭出したりとかしないもんね。令嬢の買い物って、屋敷に仕立て屋が来てドレスを頼んだり、宝石商が来て「じゃあこれとこれ」って選んだりが普通だから…
「エラ、お義母様やお義姉様の事、恨んだりしてないの?」
ニーナの質問に、エラは笑いながら首を傾げる。
「…まあ、正直に言えば、好きではないわね」
──あ。良かった。
ここでエラが例えば「恨んでない」とか「お義母様の気持ちもわかる」とか言ったら、それはもう良い人すぎて私の感覚じゃついていけないもん。
「学園生の間は寮生活で、あまり家にいなくてもいいから助かるけど、長期休暇は少し苦痛なの。私が掃除や洗濯をさせられるのはまだいいけど、それで我が家の使用人たちに気を使わせるのが…」
「ああ…」
使用人たちが庇ってくれるっても、お義母様の手前大っぴらには庇えないもんね。
表立ってお義母様に刃向かって、もし辞めさせられたりしたらエラを庇ってあげる事もできなくなっちゃうし。ジレンマだわ。
「そういえば、エラやお義姉様たちは、婚約とかってしてないの?」
ニーナがそう言うと、話が飛んだと思ったエラがきょとんして頷いた。
「してないわ?」
「ほら、上位貴族ってまだ子供の内に婚約が整ってたりするじゃない?だからもしエラが婚約してるなら『婚家に慣れるため』とか理由を付けて相手の家で暮らすとか…何か家を出る方法があるのかな~と思って」
考えてみたら、シンデレラって王子のお妃様探しの舞踏会で見初められて結婚するんだから、婚約者がいたらそんな舞踏会に出る訳なかったわ。お義姉様たちも舞踏会に出るんだから婚約してないって事よね。
「ああ…そうね。お父様が…妻を亡くして、その娘の私の結婚なんてその頃には考えられなかったみたいで…それで再婚したらお義姉様たちの方が年長だから先に縁談を整えなくては、とは思いつつ、仕事で国内にいないからなかなか…というような感じみたい」
頬に人差し指を当てて、首を傾げるエラ。
はあ、かわいい。
「一応、あと二年くらいでお父様のお仕事も落ち着くらしいわ。私が学園を卒業する頃?だからその頃には上のお義姉様から決まっていくんじゃないかしら?」
「そっかぁ。お義姉様たちって何歳と何歳なの?」
「上のマーゴットお義姉様が十九歳になったばかり、下のカトリーヌお義姉様が今十七歳、四年生だから今度十八歳ね」
一つ歳上と、二つ歳上か。
「思ったより歳が近いのね。それじゃあ上のお義姉様も去年まで学園にいたんでしょ?寮ではどうなの?家にいる時みたいに何か言い付けられたりしないの?」
「一年生の最初は同じ棟だったからちょっと…でもさすがに他の生徒や寮母さんたちが見かねて学園に掛け合ってくれて、すぐに私だけ違う棟に移動になったから、あれからは寮では平和よ」
「そう。良かった…」
「お父様としては歳が近い方が仲良くできると思ったみたいなんだけどね」
エラは苦笑いを浮かべた。
「ああ…」
エラのお父様、再婚したのもエラのためなんだろうに、何もかも裏目で残念すぎる。
しかし、上のお義姉様は十九歳でまだ婚約が決まってないのか…庶民なら何ともなくても上位貴族だと売れ残り扱いされそうで焦ったりしないのかな?
下のお義姉様も四年生ならそろそろ焦りそう。
あ、そうか。だから王子のお妃探しの舞踏会に張り切って着飾って参加するのか。王子と結婚できたら一発逆転満塁サヨナラホームランみたいなもんだもん。
でも、その舞踏会で王子に見初められるのはエラ。
エラと王子様が結ばれる。
……って、あれ?この「王子様」って、もしかしてリオン殿下?
「嬉しい?」
ニーナが不思議そうに言うと、エラはニコニコして頷く。
「私のために怒ってくれるお友達がいるのが嬉しいの。それに、お義母様が来る前の私だったらニーナとお友達になれてなかったし、そういう意味ではお義母様やお義姉様にも感謝しちゃうわ」
そうか。エラが正真正銘の公爵令嬢のままなら、私みたいな庶民あがりの男爵令嬢と会話をするのだって考えられなかった筈。
いくら学園の中では身分は関係ない、皆平等だって掲げられてたとしても、そんなのは所詮建前だもん。
「あと、掃除や洗濯もできるようになったし、お使いで街に出るのも新鮮で楽しいわ。お金を使ったのも買い物を言い付けられた時が初めてだったし」
エラは明るい口調で言った。
お金を使った…って、あ、そうか。公爵令嬢が街で自分のお財布から小銭出したりとかしないもんね。令嬢の買い物って、屋敷に仕立て屋が来てドレスを頼んだり、宝石商が来て「じゃあこれとこれ」って選んだりが普通だから…
「エラ、お義母様やお義姉様の事、恨んだりしてないの?」
ニーナの質問に、エラは笑いながら首を傾げる。
「…まあ、正直に言えば、好きではないわね」
──あ。良かった。
ここでエラが例えば「恨んでない」とか「お義母様の気持ちもわかる」とか言ったら、それはもう良い人すぎて私の感覚じゃついていけないもん。
「学園生の間は寮生活で、あまり家にいなくてもいいから助かるけど、長期休暇は少し苦痛なの。私が掃除や洗濯をさせられるのはまだいいけど、それで我が家の使用人たちに気を使わせるのが…」
「ああ…」
使用人たちが庇ってくれるっても、お義母様の手前大っぴらには庇えないもんね。
表立ってお義母様に刃向かって、もし辞めさせられたりしたらエラを庇ってあげる事もできなくなっちゃうし。ジレンマだわ。
「そういえば、エラやお義姉様たちは、婚約とかってしてないの?」
ニーナがそう言うと、話が飛んだと思ったエラがきょとんして頷いた。
「してないわ?」
「ほら、上位貴族ってまだ子供の内に婚約が整ってたりするじゃない?だからもしエラが婚約してるなら『婚家に慣れるため』とか理由を付けて相手の家で暮らすとか…何か家を出る方法があるのかな~と思って」
考えてみたら、シンデレラって王子のお妃様探しの舞踏会で見初められて結婚するんだから、婚約者がいたらそんな舞踏会に出る訳なかったわ。お義姉様たちも舞踏会に出るんだから婚約してないって事よね。
「ああ…そうね。お父様が…妻を亡くして、その娘の私の結婚なんてその頃には考えられなかったみたいで…それで再婚したらお義姉様たちの方が年長だから先に縁談を整えなくては、とは思いつつ、仕事で国内にいないからなかなか…というような感じみたい」
頬に人差し指を当てて、首を傾げるエラ。
はあ、かわいい。
「一応、あと二年くらいでお父様のお仕事も落ち着くらしいわ。私が学園を卒業する頃?だからその頃には上のお義姉様から決まっていくんじゃないかしら?」
「そっかぁ。お義姉様たちって何歳と何歳なの?」
「上のマーゴットお義姉様が十九歳になったばかり、下のカトリーヌお義姉様が今十七歳、四年生だから今度十八歳ね」
一つ歳上と、二つ歳上か。
「思ったより歳が近いのね。それじゃあ上のお義姉様も去年まで学園にいたんでしょ?寮ではどうなの?家にいる時みたいに何か言い付けられたりしないの?」
「一年生の最初は同じ棟だったからちょっと…でもさすがに他の生徒や寮母さんたちが見かねて学園に掛け合ってくれて、すぐに私だけ違う棟に移動になったから、あれからは寮では平和よ」
「そう。良かった…」
「お父様としては歳が近い方が仲良くできると思ったみたいなんだけどね」
エラは苦笑いを浮かべた。
「ああ…」
エラのお父様、再婚したのもエラのためなんだろうに、何もかも裏目で残念すぎる。
しかし、上のお義姉様は十九歳でまだ婚約が決まってないのか…庶民なら何ともなくても上位貴族だと売れ残り扱いされそうで焦ったりしないのかな?
下のお義姉様も四年生ならそろそろ焦りそう。
あ、そうか。だから王子のお妃探しの舞踏会に張り切って着飾って参加するのか。王子と結婚できたら一発逆転満塁サヨナラホームランみたいなもんだもん。
でも、その舞踏会で王子に見初められるのはエラ。
エラと王子様が結ばれる。
……って、あれ?この「王子様」って、もしかしてリオン殿下?
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる