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「嬉しい?」
 ニーナが不思議そうに言うと、エラはニコニコして頷く。
「私のために怒ってくれるお友達がいるのが嬉しいの。それに、お義母様が来る前の私だったらニーナとお友達になれてなかったし、そういう意味ではお義母様やお義姉様にも感謝しちゃうわ」
 そうか。エラが正真正銘の公爵令嬢のままなら、私みたいな庶民あがりの男爵令嬢と会話をするのだって考えられなかった筈。
 いくら学園の中では身分は関係ない、皆平等だって掲げられてたとしても、そんなのは所詮建前だもん。
「あと、掃除や洗濯もできるようになったし、お使いで街に出るのも新鮮で楽しいわ。お金を使ったのも買い物を言い付けられた時が初めてだったし」
 エラは明るい口調で言った。
 お金を使った…って、あ、そうか。公爵令嬢が街で自分のお財布から小銭出したりとかしないもんね。令嬢の買い物って、屋敷に仕立て屋が来てドレスを頼んだり、宝石商が来て「じゃあこれとこれ」って選んだりが普通だから…
「エラ、お義母様やお義姉様の事、恨んだりしてないの?」
 ニーナの質問に、エラは笑いながら首を傾げる。
「…まあ、正直に言えば、好きではないわね」
 ──あ。良かった。
 ここでエラが例えば「恨んでない」とか「お義母様の気持ちもわかる」とか言ったら、それはもう良い人すぎて私の感覚じゃついていけないもん。

「学園生の間は寮生活で、あまり家にいなくてもいいから助かるけど、長期休暇は少し苦痛なの。私が掃除や洗濯をさせられるのはまだいいけど、それで我が家の使用人たちに気を使わせるのが…」
「ああ…」
 使用人たちが庇ってくれるっても、お義母様の手前大っぴらには庇えないもんね。
 表立ってお義母様に刃向かって、もし辞めさせられたりしたらエラを庇ってあげる事もできなくなっちゃうし。ジレンマだわ。

「そういえば、エラやお義姉様たちは、婚約とかってしてないの?」
 ニーナがそう言うと、話が飛んだと思ったエラがきょとんして頷いた。
「してないわ?」
「ほら、上位貴族ってまだ子供の内に婚約が整ってたりするじゃない?だからもしエラが婚約してるなら『婚家に慣れるため』とか理由を付けて相手の家で暮らすとか…何か家を出る方法があるのかな~と思って」
 考えてみたら、シンデレラって王子のお妃様探しの舞踏会で見初められて結婚するんだから、婚約者がいたらそんな舞踏会に出る訳なかったわ。お義姉様たちも舞踏会に出るんだから婚約してないって事よね。
「ああ…そうね。お父様が…妻を亡くして、その娘の私の結婚なんてその頃には考えられなかったみたいで…それで再婚したらお義姉様たちの方が年長だから先に縁談を整えなくては、とは思いつつ、仕事で国内にいないからなかなか…というような感じみたい」
 頬に人差し指を当てて、首を傾げるエラ。
 はあ、かわいい。
「一応、あと二年くらいでお父様のお仕事も落ち着くらしいわ。私が学園を卒業する頃?だからその頃には上のお義姉様から決まっていくんじゃないかしら?」
「そっかぁ。お義姉様たちって何歳と何歳なの?」
「上のマーゴットお義姉様が十九歳になったばかり、下のカトリーヌお義姉様が今十七歳、四年生だから今度十八歳ね」
 一つ歳上と、二つ歳上か。
「思ったより歳が近いのね。それじゃあ上のお義姉様も去年まで学園にいたんでしょ?寮ではどうなの?家にいる時みたいに何か言い付けられたりしないの?」
「一年生の最初は同じ棟だったからちょっと…でもさすがに他の生徒や寮母さんたちが見かねて学園に掛け合ってくれて、すぐに私だけ違う棟に移動になったから、あれからは寮では平和よ」
「そう。良かった…」
「お父様としては歳が近い方が仲良くできると思ったみたいなんだけどね」
 エラは苦笑いを浮かべた。
「ああ…」
 エラのお父様、再婚したのもエラのためなんだろうに、何もかも裏目で残念すぎる。
 しかし、上のお義姉様は十九歳でまだ婚約が決まってないのか…庶民なら何ともなくても上位貴族だと売れ残り扱いされそうで焦ったりしないのかな?
 下のお義姉様も四年生ならそろそろ焦りそう。
 あ、そうか。だから王子のお妃探しの舞踏会に張り切って着飾って参加するのか。王子と結婚できたら一発逆転満塁サヨナラホームランみたいなもんだもん。

 でも、その舞踏会で王子に見初められるのはエラ。
 エラと王子様が結ばれる。

 ……って、あれ?この「王子様」って、もしかしてリオン殿下?



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