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 父と母が流行病で亡くなったのはニーナが四歳の頃で、身寄りのないニーナは初等学校が運営する孤児院へ入る。
 その孤児院の子供たちは将来自立して生活するために初等学校で読み書き計算を習う事ができた。
 そこで優秀な成績を収めたニーナは、十歳で学校のある地方の街の領主であるギブソン男爵家に住み込みの使用人として雇われる事になる。
 子供のいないギブソン男爵夫妻は、学業や運動などに秀でた子供を使用人として雇い、下働きの仕事をさせながらもその子供たちに教育を受けさせていたのだ。
 成長した子供たちはギブソン男爵の本業である旅行業の会社の社員になったり、他の企業に雇われたり、騎士団に入ったりと、何らかの職を手にする事になる。男爵家や他の貴族の家で従僕や下男、侍女などになる者もいる。
 レジスもそのような子供の中の一人で、初等、中等学校での成績が特に優秀だったため、男爵家と旅行会社を継ぐべく、ギブソン夫妻の養子に迎えられたのが一年と半年前。学園の三年生に編入したレジスは一年間学年主席をキープし続けて、今年四年生となった。
 そしてレジスの一つ歳下のニーナも中等学校へと進み、そこで成績が良かったため、レジスと共に男爵家と会社を盛り立てるよう、ギブソン夫妻の養女となり、学園へ編入して来たのだ。

「え、じゃあ、ニーナってレジスさんの妹と言うより…」
 放課後の教室の前後の席に座って向き合うエラが口元に手を当てて言う。
「そう。要するに私が養女になったのは、将来レジスと結婚して、男爵家と会社のために働くためなの」
 週番の日誌を書きながらニーナは頷いた。
「じゃあニーナはレジスさんの婚約者?」
「みたいなものだけど、正式に婚約はしてないわ」
「どうして?」
 首を傾げるエラに、ニーナは口角を上げて言う。
「旦那様…あ、違うわね。お義父とう様って呼ぶのにまだ慣れてなくて。お義父様も、レジスも私も結構打算的なの。つまり、この学園で、男爵家や会社にとってプラスになる相手とのご縁があるかも知れないじゃない?」

 学園は十五歳になる年に入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は幼い頃より家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学ぶ。初等学校で成績の良かった者は更に中等学校へ進学する事もあり、そこでの成績優秀者やお金のある商家の子供などが学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。もちろん王族でも。

 初等学校は国内に数百校、中等学校は十数校あるのに対し、学園は国内唯一。
 つまりこの学園は、国内の貴族の子、豪商や豪農の子や、成績優秀者など、家柄や金銭や勉学に優れた者の集まりで、ここで人脈を作る事も子供を学園へ入れる目的のひとつだ。
 そうした人脈の中から、レジスが「ニーナと結婚するよりも男爵家や会社にとって利のある相手だ」と判断すれば、自らとの婚姻という縁を結ぶ手段を取れるように正式な婚約とはしていない。
 そして同じ事がニーナにも当てはまるのだ。

「利のある相手…リオン殿下とか?」
 エラが机に両手で頬杖をついて上目遣いにニーナを見る。
「え?何でリオン殿下?」
 思い切り眉を顰めたニーナに、エラは首を傾げた。
「この間が初対面とは思えないくらい打ち解けてるから、てっきり惹かれ合っているのかと…」
「いやいやいや、あり得ないから」
 手を横にぶんぶんと振る。
「そう?」
 不思議そうに首を傾げているエラを、ニーナは改めてじっと見た。
 見れば見るほど綺麗でかわいい。
 始業式で倒れた私に救護室まで付き添ってくれたエラと、同じクラスだったのもあって仲良くなったけど…エラって「シンデレラ」だと思うんだよね。
「それにリオン殿下とは少し話しただけで、打ち解けた訳じゃないわ」
「そうなの?」
 ニーナは救護室でリオンと話した時の事を思い出した。


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