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莉音りおんだ…!」

 壇上に立つ紫の髪の男性を見た途端、前世の記憶が頭の中で渦巻く。
「…??……???…?」
 様々な情景が頭に溢れて混乱したニーナは思わずその場にしゃがみ込んだ。
 な、何コレ。
 女子高生って何?スマホ??パソコン???
 推し?バイト?ライブ?同担?推し活?
「ギブソン様?どうなさいました?」
 女生徒の一人がニーナに声を掛ける。
 あ、クラスメイトの公爵令嬢だ。
 初めて話し掛けられた。何か、何か答えなきゃ…
「莉音が…」
 ニーナが呟くように言うと、声を掛けた女生徒の後ろからもう一人の女生徒が現れた。
「まあ!第一王子を呼び捨てに!?不敬だわ!」
 第一王子…?
 何の事?彼はB-rightの莉音よ。
 …ううん。違うわ。彼は学園の生徒会長よ。
 あれ?生徒会長は第一王子なんだったっけ?
「さすがに付け焼き刃で貴族令嬢ぶるのは無理なのねぇ」
「お勉強がお出来になってもこういう処に庶民性って出てしまうのかしら?」
「ゴールドバーグ様もこの方に声をお掛けになるだなんて随分お優しいこと」
「あらあ、ゴールドバーグ様も最近は公爵令嬢とは名ばかりらしいわよ」
「ああ~名ばかり公爵令嬢がエセ男爵令嬢に声を掛けたのね。ある意味お仲間ですものねぇ」
 …あああ、イヤミくさい言い方!
 って言うか正真正銘嫌味か。
 頭の上から聞こえる女生徒たちの声に、ニーナは思わず立ち上がった。
「な、何よ」
 女生徒の一人が少し怯みながらニーナを見る。
 何かを言おうと口を開き掛けた時、壇上から声が降って来た。

「そこの三年生たち。静かに」

 怒っているようにも見える表情の壇上の生徒会長。

 あの切れ長の目、筋の通った鼻、形のいい唇、バイオレットの髪、そして、この声。
 莉音だ。やっぱり。
 B-rightの莉音。私の推し。
 …あ、でも待って。
 どうして莉音がここに?
 私……私は、高橋新菜。十七歳の高校二年生。
 バイトに遅れそうになって急いで自転車を漕いでたら、道路に落ちてた小石にハンドルを取られてけて、そこに車が──…
 って事故で、前世で、死んだって事を、今思い出した処で。
 ここでの私はニーナ・ギブソン。
 男爵家の養女になったばかりの元庶民で、学園へも三年生に編入したばかり…今日の始業式が初登校。
 嫌味を言っていた女生徒たちがこそこそと話す声が耳に入る。
「リオン殿下に怒られたわ」
「ああでもあの冷たい瞳が堪らないのよ」
 ニーナは改めて壇上の男性を見る。
 挨拶を始めた男性は、見れば見るほどニーナが前世で推していた「B-rightの莉音」そのもので。
 私が、生まれ変わって?転生して?今ここにいるのは、前世で死んだからで。…と、いう事は、この壇上の男性が、莉音が転生したとしたら、莉音が、前世で、死んだって事になる…よね?
 莉音が……
 すぅっと、ニーナの血の気が引いた。
「ギブソン様!」
 倒れそうになったニーナを、先ほどニーナに声を掛けた女生徒が支えようとした、が、支えきれずに二人共が床に倒れる。

 ザワッ。
 倒れた二人の周りから騒めきが起こった。
「痛…」
 女生徒は起き上がるが、女生徒の膝の上に倒れているニーナは完全に気を失っているようだ。
「大丈夫ですか?ギブソン様」
 ゆさゆさとニーナを揺さぶるが、反応はない。
「あの、誰か救護室へ…」
 女生徒が顔を上げると、二人から少し離れた位置で取り囲んでいる生徒たちの中から嫌そうな顔をした男子生徒が一人歩み出て来た。
 黒髪に黒い瞳に眼鏡。細身で長身の男子生徒はニーナと「ゴールドバーグ様」と呼ばれていた女生徒の傍にしゃがみ込む。
「俺は頭脳労働が担当の筈だろう…」
 うんざりとしながらニーナの腕を引き、脇の下に肩を入れる。
「ギブソン様のお知り合いの方ですか?」
 女生徒も立ち上がりながら反対側の腕を持った。
「まあ…知り合いと言うか…」

「私が連れて行こう」
「「え?」」
 男性の声が聞こえて、ニーナの身体がふわりと宙に浮く。
「リ…リオン殿下!?」
 ニーナを抱き抱えたのは壇上から降りて来た生徒会長だ。
 眼鏡の男子生徒と「ゴールドバーグ様」と呼ばれていた女生徒が、ニーナを抱いてスタスタと講堂の出入口に向かって歩き出した生徒会長の後を追った。



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