続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

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番外編2-2

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「ハミルトン先生」
 休み明けの学園で、教員室にいるライアンにレベッカが話し掛けて来た。
「何ですか?ハイアットさん」
「これ以上キャロライン様に付き纏うのはやめてください」
「…何でハイアットさんにそんな事を言われなくてはならないんでしょうか?」
 ライアンはにっこりと笑いながら言う。
「キャロライン様のように素晴らしい方のお相手がこんな学園の教師じゃ釣り合わないんですよ」
「…は?」
「キャロライン様にはもっと大人で、もっと背が高くて、もっと格好良くて…」
「…具体的ですが、誰か候補がいるんですか?」
「います!キャロライン様、その人の事…」
「え!?キャロラインもその人の事、好きなのか!?」
 思わずレベッカの手首を掴む。
 キャロラインに好きな人が…?
 俺に付き纏われて迷惑を…
「そっそうです!そのために薬だって手に入れようと…」
「薬?」
 そう言えば、この子、ミシェル嬢が飲まされた惚れ薬を仕入れた子じゃないか。
 まさかキャロラインがその相手に惚れ薬を飲ませようと?
 …そんなに、その人を好きなのか?
「先生?」
「……」
 ライアンはレベッカの手首を離すと、机に突っ伏した。
「先生?」
「…分かった。もう会いに行かないから…」

-----

「キャロライン様、手に入りましたよ」
 史学研究所の寮にやって来たレベッカは小瓶を掲げる。
「…ありがとう。でも良いのかな?」
「良いんですよ!効き目が永遠に続く訳じゃないんですし」
「……」
 キャロラインはじっと手の平の上の小瓶を見つめた。
「キャロライン様、あの~最近、ハミルトン先生って…」
「先週も今週も来てないけど…え?レベッカもしかしてライアンに何か言った?」
 キャロラインがバッと顔を上げる。
「え?」
「言ったの?」
「いっいいえ!何も!」
 レベッカはブンブンと首を横に振った。

 ああ、俺ってこんなに女々しい男だったのか。
 ライアンは王城の図書館の隅で本棚に隠れて席に座るキャロラインを見つめている。
「盗み見とか…格好悪…」
 小声で呟く。
 ああでもキャロラインが気になって、休みに何をしていても落ち着かない。
 キャロラインはいつものように本を読んでいるようで、ずっと見ていると図書館に人が入って来る度に少し視線を上げていた。
 誰かが来るのを待ってる?
「俺…じゃないよな…?」
 暫くすると、入り口から男女の二人連れが入って来る。
 入って来たのはトマスとレベッカで、視線を上げたキャロラインがすぐに二人に気付いた。
 トマスとレベッカは真っ直ぐにキャロラインの所へ行く。そしてキャロラインは席を立って三人で図書館を出て行った。
「あの男を…待ってたのか…」
 ライアンは本棚に寄り掛かると、そのままズルズルと床に座り込む。
 俺はやっぱり馬鹿なんだな。
 キャロラインは俺の事をそんなに好きじゃないと思っていた。そんな事にこだわって、キャロラインが折角くれた助言から目を逸らした。アリスだけが俺の気持ちを分かってくれる。強制力なんてない。俺の感情は俺の感情だと意地になった。
 キャロラインを好きになったのは、俺だったのに。
 キャロラインが俺を傍に置いてくれればそれで良いと思っていたのに。
 二人で指輪を贈り合った時には気持ちが重なっていると感じたじゃないか。その指輪をあんな風に跳ね除けたら、キャロラインが自分の気持ちも跳ね除けられたと感じて当然だ。
 
「ライアン?」
 床に座り膝に顔を埋めるライアンの前にいつの間にかキャロラインが立っていた。
「キャロライン…」
 少し顔を上げてキャロラインを見る。キャロラインは驚いたような表情をしていた。
「何でそんな泣きそうな顔をしてるの?」
「泣きそうだからだ」
 ライアンはまた膝に顔を埋めた。
「どうして?」
 キャロラインがライアンの隣に座り込む。
「……」
「ライアン?」
「こんな所で俺と二人で居ない方が良い。トマスに誤解されるだろ」
「トマス?何故?」
 ライアンが顔を上げると、キャロラインはきょとんとしてライアンを見ていた。
「…さっき、トマスが会いに来てたろう?」
「ええ。好きだって言われたわ」
 ケロリと言うキャロライン。
 ライアンはガンッと頭を殴られたような衝撃を感じた。
「すっ…だ、だから誤解を…」
「断ったもの」
「え?」
「トマスって史学の中でも史料の評価や検証が好きなのよ」
「は?」
「つまり、自分の見解とかを話すのが好きなの」
「はあ」
「私はただ静かに読むのが好きで、見解をまとめるなら文書派だから、合わないのよね」
「…じゃあなぜ呼び捨てなんだ…?キャロラインが男を呼び捨てで呼ぶなんて、余程親しいとしか思えない」
「ああ…それは、トマスも姓がアクランドだからよ」
「は?」
 キャロラインと同じ姓?
「親戚でも何でもないけど」
「それだけ?」
「それだけよ」
「…は」
 ライアンは思わず小さく息を吐いた。
「ライアン、レベッカから私に付き纏うなって言われたんですって?」
「え?」
「さっき、レベッカからライアンにそう言ったと謝られたの。たまたま私に謝りに来たレベッカと、たまたま私に会いに来たトマスが図書館の前で鉢合わせたらしいわ」
「あの子、キャロラインはトマスの事を好き、みたいに言ってたぞ?」
「あら。トマスを好きなのはレベッカなのに」
「は?」
「レベッカはトマスを好きなの。でもトマスが私を好きだから、トマスのために私とくっつけようとしていたみたいね」
「はあ…」
 そういう事なのか…
「ねえライアン」
 キャロラインがポケットから小瓶を取り出して、指で上下を挟んでライアンの方へ示す。
「…それ」
 惚れ薬!?
「これ、飲んでくれない?」
 キャロラインは眼鏡を取ると、にっこりと笑った。


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