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番外編1-1
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1
ああ、かわいいな。
そう思ったのは、婚約者のミシェルが体調を崩したと聞き、モーリス公爵家へ見舞いに訪れた時だ。
ミシェル付きの侍女エマが申し訳なさそうな表情で俺の待つ応接室へ入って来た。
「サイラス殿下、申し訳ありません。ミシェル様は今日はお会い出来ないと…」
「そうか」
そうだろうな。と思う。
レイラが学園の校舎ノ屋上から転落してから今日で七日。転生の事を聞くためにイアンを俺の元に呼び出したのが昨日。イアンから「ミシェル様はとてもショックを受けている」と聞いていたからだ。
「旦那様も今日はおられませんし、折角おいで頂いたのに本当に申し訳ありません」
「ああ、気にする事はない。それで…ミシェルはどんな具合なんだ?」
「…お目覚めになられて、イアンと話をされて、それからは殆ど話されず、食欲もないし、あまり眠られていないようで…」
そこまで言って、エマはハッとした様子で話を止めた。
「……」
無言で視線を落とすエマ。
きっとミシェルからあまり心配を掛ける様な事を俺に伝えるなと言われていたんだろう。でもミシェルが心配でつい言ってしまった、と。
「聞いたのは俺だ。俺に聞かれて嘘は言えないだろう?だからエマは悪くない」
そう言うと、エマは視線を上げた。ほっとした様子がかわいい、と思った。
それから一日置きにモーリス公爵邸を訪れたが、ミシェルはなかなか会ってくれない。
エマにミシェルの様子を聞いて、レイラの状況を伝えてから帰る日が続いた。
日毎、段々と申し訳なさそうな表情になるエマが、不謹慎ながらかわいく見えた。
それでもまだこの時のエマは俺の中では「ミシェルの侍女」に過ぎない存在だったんだ。
「…イアンが公爵家を出た後、サイラス殿下に目通りしていたって…本当ですか?」
モーリス公爵家を訪れた回数が片手を超えた頃、エマが深刻な様子で言った。
「ああ。もう十日は前だが」
「十日前…」
「イアンが、どうかしたのか?」
実は、今イアンは俺の元にいる。イアンを呼び出して話した時、モーリス公爵家を解雇になったと聞き、行く先が決まっていないならとりあえず俺の側近としてここにいろと言った。
キャロライン嬢の話と、転生と、ゲームの事、レイラの容体が安定したら皆で状況を整理したい。その時イアンに連絡を取るにも近くに置いた方が良いと思ったからだ。
「イアンがその後どこに行ったか、今どこにいるか、ご存知ではありませんか?」
イアンは自分が俺の所にいるの事は内緒にして欲しいと言っていた。特にモーリス公爵家には知られたくないと。
「イアンの行方が知りたいのか?」
「はい」
「何故?」
「…会いたい…と」
苦しげな表情でエマが言う。
その表情に、俺の心臓がぎゅっと絞られた気がした。
…エマが?
イアンに?
会いたい?
もしかして、エマとイアンには特別な関係が…?
ドッドッドッと心臓が鳴った。
「ミシェル様がイアンに会いたがっておられて…」
…ミシェル?
イアンに会いたいのはエマじゃなく、ミシェル?
「申し訳ございません!」
エマが急に頭を下げる。
「どうした?」
「ご婚約者さまが他の男性に会いたがっているなんて、誤解を招く事を申しました」
「あ…ああ」
そうか。ここはそちらを気にするのが正しい場面か。
「あの。会いたいと言っても、そういう意味ではなく、ミシェル様はイアンにあの時の事を聞きたいと思われているだけで…」
青い顔をして、必死に言うエマ。
ああ、かわいいな。
「誤解していないから、大丈夫だ。エマ」
「…サイラス殿下」
安心した表情。かわいい。
ああでもこの娘はミシェルと結婚したら共に王宮へ上がる予定の侍女だ。
…俺の恋はいつも不毛だな。
-----
「ミシェル…」
次にモーリス公爵家へ行くと、ミシェルが応接室にやって来た。やつれて、目の下に隈が出来ている。
「サイラス殿下、何度もおいで頂いていたのにお会いしなくて申し訳ありません」
「いや、具合が悪そうだが、寝ていなくて良いのか?」
「…殿下」
ミシェルの瞳が潤む。
「どうした?」
ミシェルは力が抜けたように床に跪く。
「ミシェル様!」
部屋の隅に控えていたエマがミシェルに取り縋る。
「殿下…私…レイラと一緒に屋上から落ちようとしたんです…」
ミシェルは消えそうな声でそう言った。
「は…?」
「なのに私だけイアンに助けられて…そう言うのに、誰も私の話を聞いてくれなくて…」
ミシェルが、レイラと一緒に屋上から落ちようとした?
「何故そんな事を?」
「分かりません…ただ、あの時、レイラが憎くて…そんな事を思う自分が嫌で…だから二人ともいなくなれと…」
まさか。
これも強制力…?
「だから…私は咎人なんです。王子妃になる資格などありません…」
「ミシェル様!」
エマがミシェルを止めるように言う。
ああ、きっとミシェルもエマも、モーリス公爵から口止めされているんだろうな。
王子妃になる資格はない、か。
俺と結婚する資格じゃなく、王子妃になる資格。
ミシェルが部屋に下がって、エマが一人で応接室に戻って来る。
「サイラス殿下、申し訳ございませんでした」
「…エマ、モーリス公爵へ取次いでくれるか?」
「え?」
エマが不安そうな顔で俺を見る。
「大丈夫だ。ミシェルのためになる話だから」
俺はエマに笑い掛けた。
ああ、かわいいな。
そう思ったのは、婚約者のミシェルが体調を崩したと聞き、モーリス公爵家へ見舞いに訪れた時だ。
ミシェル付きの侍女エマが申し訳なさそうな表情で俺の待つ応接室へ入って来た。
「サイラス殿下、申し訳ありません。ミシェル様は今日はお会い出来ないと…」
「そうか」
そうだろうな。と思う。
レイラが学園の校舎ノ屋上から転落してから今日で七日。転生の事を聞くためにイアンを俺の元に呼び出したのが昨日。イアンから「ミシェル様はとてもショックを受けている」と聞いていたからだ。
「旦那様も今日はおられませんし、折角おいで頂いたのに本当に申し訳ありません」
「ああ、気にする事はない。それで…ミシェルはどんな具合なんだ?」
「…お目覚めになられて、イアンと話をされて、それからは殆ど話されず、食欲もないし、あまり眠られていないようで…」
そこまで言って、エマはハッとした様子で話を止めた。
「……」
無言で視線を落とすエマ。
きっとミシェルからあまり心配を掛ける様な事を俺に伝えるなと言われていたんだろう。でもミシェルが心配でつい言ってしまった、と。
「聞いたのは俺だ。俺に聞かれて嘘は言えないだろう?だからエマは悪くない」
そう言うと、エマは視線を上げた。ほっとした様子がかわいい、と思った。
それから一日置きにモーリス公爵邸を訪れたが、ミシェルはなかなか会ってくれない。
エマにミシェルの様子を聞いて、レイラの状況を伝えてから帰る日が続いた。
日毎、段々と申し訳なさそうな表情になるエマが、不謹慎ながらかわいく見えた。
それでもまだこの時のエマは俺の中では「ミシェルの侍女」に過ぎない存在だったんだ。
「…イアンが公爵家を出た後、サイラス殿下に目通りしていたって…本当ですか?」
モーリス公爵家を訪れた回数が片手を超えた頃、エマが深刻な様子で言った。
「ああ。もう十日は前だが」
「十日前…」
「イアンが、どうかしたのか?」
実は、今イアンは俺の元にいる。イアンを呼び出して話した時、モーリス公爵家を解雇になったと聞き、行く先が決まっていないならとりあえず俺の側近としてここにいろと言った。
キャロライン嬢の話と、転生と、ゲームの事、レイラの容体が安定したら皆で状況を整理したい。その時イアンに連絡を取るにも近くに置いた方が良いと思ったからだ。
「イアンがその後どこに行ったか、今どこにいるか、ご存知ではありませんか?」
イアンは自分が俺の所にいるの事は内緒にして欲しいと言っていた。特にモーリス公爵家には知られたくないと。
「イアンの行方が知りたいのか?」
「はい」
「何故?」
「…会いたい…と」
苦しげな表情でエマが言う。
その表情に、俺の心臓がぎゅっと絞られた気がした。
…エマが?
イアンに?
会いたい?
もしかして、エマとイアンには特別な関係が…?
ドッドッドッと心臓が鳴った。
「ミシェル様がイアンに会いたがっておられて…」
…ミシェル?
イアンに会いたいのはエマじゃなく、ミシェル?
「申し訳ございません!」
エマが急に頭を下げる。
「どうした?」
「ご婚約者さまが他の男性に会いたがっているなんて、誤解を招く事を申しました」
「あ…ああ」
そうか。ここはそちらを気にするのが正しい場面か。
「あの。会いたいと言っても、そういう意味ではなく、ミシェル様はイアンにあの時の事を聞きたいと思われているだけで…」
青い顔をして、必死に言うエマ。
ああ、かわいいな。
「誤解していないから、大丈夫だ。エマ」
「…サイラス殿下」
安心した表情。かわいい。
ああでもこの娘はミシェルと結婚したら共に王宮へ上がる予定の侍女だ。
…俺の恋はいつも不毛だな。
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「ミシェル…」
次にモーリス公爵家へ行くと、ミシェルが応接室にやって来た。やつれて、目の下に隈が出来ている。
「サイラス殿下、何度もおいで頂いていたのにお会いしなくて申し訳ありません」
「いや、具合が悪そうだが、寝ていなくて良いのか?」
「…殿下」
ミシェルの瞳が潤む。
「どうした?」
ミシェルは力が抜けたように床に跪く。
「ミシェル様!」
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「殿下…私…レイラと一緒に屋上から落ちようとしたんです…」
ミシェルは消えそうな声でそう言った。
「は…?」
「なのに私だけイアンに助けられて…そう言うのに、誰も私の話を聞いてくれなくて…」
ミシェルが、レイラと一緒に屋上から落ちようとした?
「何故そんな事を?」
「分かりません…ただ、あの時、レイラが憎くて…そんな事を思う自分が嫌で…だから二人ともいなくなれと…」
まさか。
これも強制力…?
「だから…私は咎人なんです。王子妃になる資格などありません…」
「ミシェル様!」
エマがミシェルを止めるように言う。
ああ、きっとミシェルもエマも、モーリス公爵から口止めされているんだろうな。
王子妃になる資格はない、か。
俺と結婚する資格じゃなく、王子妃になる資格。
ミシェルが部屋に下がって、エマが一人で応接室に戻って来る。
「サイラス殿下、申し訳ございませんでした」
「…エマ、モーリス公爵へ取次いでくれるか?」
「え?」
エマが不安そうな顔で俺を見る。
「大丈夫だ。ミシェルのためになる話だから」
俺はエマに笑い掛けた。
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