続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
上 下
51 / 57

エピローグ

しおりを挟む
エピローグ

 攻略対象者であった生徒会副会長のアンソニーは、アリスに水を掛けた事件で婚約者のシャロンと口論をしてから距離を置いていたが、親や友人などに説得され卒業パーティーにはシャロンをエスコートした。強制力が失くなった今はアンソニーが謝り、少しずつ歩み寄っている。

 同じく副会長のフレディは、婚約者のモニカがアリスと喧嘩をしながらも段々友達のようになっていったので、フレディとモニカも口喧嘩をしつつ、遠慮のない仲になっていく。
 最近フレディの態度や言葉に甘さが増して、モニカは少し戸惑い、照れつつも、嬉しそうだ。
 アリスが学園を辞めてモーリス公爵家で働き始めてからも、モニカとアリスは時々会って、喧嘩をしつつも友情を深めている。

 会計のサミュエルは恋人レベッカと別れ、アリスに似た女の子と付き合っている。
 後年の話だが、何人かの女性と付き合った結果のサミュエルの結婚相手はレベッカに似ていたそうだ。
 レベッカは惚れ薬をどうにか輸入できないかと考えるが、恋人が薬のせいで心変わりしたらと考えると、サミュエルの心変わりを思い出し、いい気はしなかったので取り止めた。
 最近は史学研究会のOBの歳上の男性に思いを寄せているらしい。

 ウィルマはモーリス公爵家を解雇になった後、レベッカの父が経営する商会へ事務員として就職。
 同じ事務所で働くレベッカの十五歳上の兄に気に入られ、外国語などを教えてもらったりとかわいがられている。レベッカの兄には離婚歴があり、元妻は不倫相手と出奔した。その心の傷を素直なウィルマに癒され、数年後にはウィルマに求婚。仲の良い年の差夫婦になったと言う。

-----

「もうすぐ卒業パーティーね」
 寮のレイラの部屋でミシェルが呟いた。
「そうね…ミシェルは卒業したらすぐ領地へ行くの?」
「エマお義姉様とサイラス殿下の婚儀が発表されて、少し落ち着くまでは王都にいる予定よ」
「エマ様もある事ない事言われて大変よね」
「まあでも、エマお義姉様が気弱になったり落ち込んだりするとすぐアリスが喝入れてるわ」
 意外と良いコンビになったわよね。あの二人。
 ミシェルとサイラスの婚約解消が公表されてすぐエマがモーリス公爵家の養女となったので、世間的にはエマがサイラスの結婚相手であろう事は公然の秘密のようになっている。
 ミシェルとの婚約解消から一年が経ち、もうすぐサイラスとエマの婚約と婚儀の日が同時に公表されるのだ。
「レイラとカイル殿下は卒業後すぐ結婚するのかと思ってたけど、サイラス殿下の方が先なのね」
「うん。やっぱりカイルと私が先に結婚したら『ハミルトン家が王家に入り込もうとしてる』って思われるから…第一王子に先に結婚して足場を固めてもらって、第二王子は結婚と同時に臣籍降下って形が良いんじゃないかって事になって」
「ああ…なるほどね」
 ミシェルは深く頷く。
 カイルは早く結婚したいってごねてたけどね…王太子殿下と妃殿下、お父様とお母様に説得されて渋々納得してたけど。

「レイラは早く結婚したくないのか?」
 学園の休みの日に王宮を訪れたレイラを自室のソファの隣に座らせてカイルは言う。
「え?」
「さっき父上と母上から兄上の方が先に結婚する方が良いって言われた時、何も言わなかったから…」
「…うん」
「え?したくないのか!?」
 カイルが慌てた様子で言う。レイラは手を横に振った。
「あ、違うの。早く結婚したくないんじゃなくて、最終的に結婚できるならいつでも良いって思ってるだけで…」
「いつでも?」
「うん…あのね。私、前世の事を思い出してからずっとカイルはアリスと結ばれて、私は婚約破棄されるんだって思ってたの」
「…うん」
 カイルは手を伸ばして、レイラを抱き寄せると、肩まで伸びたレイラの髪を撫でた。
「だから…カイルと結婚できるなんて…カイルに『好き』ってまた言ってもらえるなんて思ってなくて」
 レイラはカイルの背中に手を回すと、頭をカイルの胸に預ける。
「レイラ…」
 カイルの手がレイラの髪を撫でる。愛おしそうに。大切そうに。
「今はカイルが心変わりするなんて全然思わないし、だったら結婚は何年後になっても良いかな…って」
「……そうか」
 カイルはぎゅっとレイラを抱きしめる。
「でも、俺はやっぱり早く結婚したいな」
 レイラの髪に指を差し入れる。
「早くレイラの何もかもを独り占めしたい」
 額に、頬に、鼻に、口付けが落ちる。
 蕩ける瞳に自分が写って、レイラはゆっくりと眼を閉じた。



          -了-
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

処理中です...