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卒業パーティーでの一瞬の光は、攻略対象者と悪役令嬢、そしてヒロインだけが感じていた、と後に分かった。
卒業パーティーが終わって、レイラとカイルが王宮に戻るとライアンがサイラスの執務室のソファで項垂れていた。
「ライアン兄様?」
「ああ、おかえりレイラ。もう着替えちゃったのか?」
ライアンは顔を上げるとレイラに向かって微笑んだ。何となく弱々しい笑顔だ。
「どうしたの?」
「『憑き物が落ちた感じ』らしい」
ライアンの向かいに座ったサイラスがお茶を飲みながら言う。
レイラはライアンの隣に、カイルはサイラスの隣の一人掛けソファに座った。
「…もしかして、アリスの事?」
また項垂れたライアンはこくんと頷く。
「本当に強制力が失くなるとそんな感じになるんだな」
サイラスが感心したように言う。
「何だろうね?確かにかわいいけど、あんな『女の子』恋愛対象には見れないよ。ましてや生徒だし。何であんなに好きだってなったのか、自分でもよく分からん」
ライアンは自分の頭をグシャグシャと掻きむしる。
「それが強制力って事か…」
「強制力の強さも、抗い難さも、それが失くなった喪失感も、俺には分かる」
カイルが頷く。
強制力が失くなると、喪失感があるんだ…
レイラがそう思った時、カイルがレイラを見ながら
「まあ俺はその喪失感はすぐレイラで満たされたから一瞬だったが」
と言う。
「…そ、そう」
レイラは指輪の光る手で頬を押さえながら言った。
「いいなあカイルは。すぐ満たされて」
ライアンが言う。
「でもライアンがキャロライン嬢に見限られたのは、ライアンがキャロライン嬢の忠告を無視したからだろう?」
そう言うサイラスの言葉にライアンは勢い良く顔を上げた。
「は…?」
「キャロライン嬢はわざわざ『自分の感情を疑え』と示唆してくれたじゃないか。それでライアンは少しでもアリス嬢を好きな自分の感情を疑ってみたのか?」
「……」
ライアンは視線をうろうろと彷徨わせた後、膝の上の自分の手に落とす。
「だろ?カイルはレイラが怪我をして、その存在の大きさに気付いていた時機だったというのもあったが、ちゃんとキャロライン嬢の忠告を受け止めた。その違いだ」
「そうね。そもそもキャロライン様がこの強制力について調べ始めたのはライアン兄様のためだったのにね」
「…俺のため?」
「私がこの事に興味を持ったのは、生涯女生徒に好意を持ち続けた人物が、学園の生徒会の顧問だったから、なのよね」
レイラはいつかのキャロラインの台詞を思い出す。
「…俺、キャロラインは俺のこと好きじゃないんじゃないかとずっと思ってたんだ」
「ライアン兄様、キャロライン様が好きでもない人のために本を読む時間を止めて、お出掛けしたりお話ししたりすると本当に思ってるの?」
「思って、ない」
ライアンはそう言うと、またガクリと項垂れた。
「俺、馬鹿なんだな…」
「とりあえず、謝ってみたらどうだ?許してもらえなくても区切りにはなるだろう?」
サイラスの言葉にライアンは無言で頷いた。
「あ、そうだ。アリスは男爵令嬢を辞める事になったから」
暫く項垂れたままだったライアンが顔を上げて言う。
「男爵令嬢を辞める?」
サイラスが言うと、ライアンは頷いた。
「ヴィーナス男爵家の籍を抜けて、実母の籍に戻る。つまり貴族ではなくなる。その上でモーリス公爵家で雇ってもらう事になった」
「はあ!?」
サイラスが驚愕の声を上げる
モーリス公爵家とはミシェルの家で、サイラスの婚約者になるエマが養女になる予定の家でもある。
「優秀な侍女が一人退職するからな。アリスは市井の娘に戻るから侍女じゃなくてメイドになるだろうが、急に貴族令嬢になった経験のある娘だから、急に公爵令嬢と第一王子の婚約者になるエマ嬢の話し相手くらいにはなれると思って。以前もエマ嬢の背中を押してたし」
ああ…確かに、立場が変わって不安だろうエマの側にあんなにハッキリと言ってくれる娘がいてくれるのは、良いかも知れないわ。
エマの方が五つくらい歳上だけど、アリスは気にせず何でも言いそうだし。
「アリス嬢が…エマの側に…」
「ああ、心配しなくてもアリスも『憑き物が落ちてる』から、もう王子を狙ったりしない。今日卒業パーティーの間一緒にいたから俺にはゲームが終わる前と後との違いがよく分かった」
「そうなのか?」
「むしろ王子より公爵家のフットマンとか従僕とかを狙うかもな」
ライアンの言葉に複雑な表情を浮かべるサイラスだった。
卒業パーティーでの一瞬の光は、攻略対象者と悪役令嬢、そしてヒロインだけが感じていた、と後に分かった。
卒業パーティーが終わって、レイラとカイルが王宮に戻るとライアンがサイラスの執務室のソファで項垂れていた。
「ライアン兄様?」
「ああ、おかえりレイラ。もう着替えちゃったのか?」
ライアンは顔を上げるとレイラに向かって微笑んだ。何となく弱々しい笑顔だ。
「どうしたの?」
「『憑き物が落ちた感じ』らしい」
ライアンの向かいに座ったサイラスがお茶を飲みながら言う。
レイラはライアンの隣に、カイルはサイラスの隣の一人掛けソファに座った。
「…もしかして、アリスの事?」
また項垂れたライアンはこくんと頷く。
「本当に強制力が失くなるとそんな感じになるんだな」
サイラスが感心したように言う。
「何だろうね?確かにかわいいけど、あんな『女の子』恋愛対象には見れないよ。ましてや生徒だし。何であんなに好きだってなったのか、自分でもよく分からん」
ライアンは自分の頭をグシャグシャと掻きむしる。
「それが強制力って事か…」
「強制力の強さも、抗い難さも、それが失くなった喪失感も、俺には分かる」
カイルが頷く。
強制力が失くなると、喪失感があるんだ…
レイラがそう思った時、カイルがレイラを見ながら
「まあ俺はその喪失感はすぐレイラで満たされたから一瞬だったが」
と言う。
「…そ、そう」
レイラは指輪の光る手で頬を押さえながら言った。
「いいなあカイルは。すぐ満たされて」
ライアンが言う。
「でもライアンがキャロライン嬢に見限られたのは、ライアンがキャロライン嬢の忠告を無視したからだろう?」
そう言うサイラスの言葉にライアンは勢い良く顔を上げた。
「は…?」
「キャロライン嬢はわざわざ『自分の感情を疑え』と示唆してくれたじゃないか。それでライアンは少しでもアリス嬢を好きな自分の感情を疑ってみたのか?」
「……」
ライアンは視線をうろうろと彷徨わせた後、膝の上の自分の手に落とす。
「だろ?カイルはレイラが怪我をして、その存在の大きさに気付いていた時機だったというのもあったが、ちゃんとキャロライン嬢の忠告を受け止めた。その違いだ」
「そうね。そもそもキャロライン様がこの強制力について調べ始めたのはライアン兄様のためだったのにね」
「…俺のため?」
「私がこの事に興味を持ったのは、生涯女生徒に好意を持ち続けた人物が、学園の生徒会の顧問だったから、なのよね」
レイラはいつかのキャロラインの台詞を思い出す。
「…俺、キャロラインは俺のこと好きじゃないんじゃないかとずっと思ってたんだ」
「ライアン兄様、キャロライン様が好きでもない人のために本を読む時間を止めて、お出掛けしたりお話ししたりすると本当に思ってるの?」
「思って、ない」
ライアンはそう言うと、またガクリと項垂れた。
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サイラスが驚愕の声を上げる
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