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「カイル殿下、私とライアンはもうお別れしてますから、今更失恋なんてしませんよ?」
休日、王城の図書館にいたキャロラインをお茶に誘ったレイラとカイルの前で、キャロラインはコロコロと笑いながら言った。
「キャロライン様、もうライアン兄様の事…好きじゃないの?」
「…ないわ」
レイラの問いに一瞬言い淀むキャロライン。
「それより、明後日は卒業パーティーでしょう?レイラちゃんどんなドレスなの?」
明るく言うキャロラインに、今度はレイラが言い淀む。
「…む、紫の」
「全体が薄紫で、フリルは白、後は濃紫の装飾だな」
レイラが恥ずかしそうに言うのに、カイルはサラリと言った。
「あら、カイル殿下から贈られたドレスなのね?そんなに恥ずかしがる事ないんじゃない?」
「ええまあ、約束だったので…でも恥ずかしいです」
カイルの卒業パーティーまでドレスを贈られる事を拒否していたのだ。そのカイルの卒業パーティーなのだから、受け取らない訳にはいかないレイラなのだった。
「どんなドレスか見たいな」
「見ますか?トルソーに着せて部屋にありますよ」
「本当?見たいわ!」
今はレイラの部屋として使っている王宮の客間は二階にある。
腕の固定は取れたレイラだが、左足はまだだ。松葉杖で廊下を歩くが、お茶をしていたテラスから二階への移動でカイルはレイラを抱き上げた。
「軽々ね」
キャロラインがカイルの後ろを歩きながら言う。
「レイラは軽い」
「やめてよ~」
階段を登りきった所でカイルはレイラを床へ降ろした。その時、廊下の向こうから三人の人影が近付いて来る。
「何故ですか!?サイラス殿下」
「こちらこそ『何故』だ。何故君を妃にしなくてはいけない?」
先を歩くサイラス、その後から小走りにアリスが付いて来ている。
「アリス、いい加減に…」
アリスの少し後ろを呆れ顔のライアンが追う。
「だって!子爵令嬢で良いなら、私でも良いじゃないですか!?」
「いや、その理屈が通じると本当に思ってるのか?」
アリスと、サイラス殿下とライアン兄様?
「兄上」
カイルが声を掛けるとサイラスはほっとした表情を見せた。
「カイルとレイラか。キャロライン嬢も」
「キャロライン?」
ライアンが驚いた顔でキャロラインを見る。
「何、サイラス殿下を困らせてるのよ?ライアン」
「いや、アリスがサイラス殿下に会いたいって言うから…」
「だからって素直に連れて来るかしら?普通」
キャロラインはジロリとライアンを睨む。
「急にアリスが『私を妃にしてください』なんてサイラスに言うとは思わないだろ?普通」
キャロラインとライアンの言い合いを苦笑いで眺めるサイラスとカイル。
レイラは少し離れた所でカイルの側近から松葉杖を受け取った。
「何よ…」
アリスは自身のスカートをぎゅっと握りしめる。
「何よ、何よ、何よ!サイラス殿下もカイル殿下も、ハミルトン先生も!どうして私じゃない女性が大切なの!?私が望めば誰とでも結ばれる筈なのに!」
アリスが叫ぶように言う。
「いや、アリス…」
「私は『ヒロイン』なんでしょう!?」
ライアンがアリスの肩に手を乗せようとする。
「触らないで!」
アリスはライアンの手を両手で掴むと大きく横に振った。
そして、バランスを崩したライアンは、階段の上に立つカイルとサイラスにぶつかる。
階段の上で膝をつくライアン。
カイルとサイラスは、もつれる様に階段を落ちた。
-----
「カイル!」
スローモーションのように階段を落ちるカイルとサイラスを見て、レイラが叫ぶ。
「サイラス殿下!」
「カイル殿下!」
側近や侍従、侍女やメイドが二階から、一階から沢山出てきてカイルとサイラスを取り囲んだ。
階段下に倒れたカイルは、ゆっくり起き上がると、一緒に落ちたサイラスを見る。
「お前…俺を庇っただろう?」
顔を上げたサイラスはカイルを軽く睨む。
「それは、まあ、兄上だからな」
カイルは少し笑う。
「サイラス殿下!お怪我は?」
「サイラス殿下」
あっと言う間にサイラスの周りに人垣が出来る。
「カイル殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
カイルの周りには、カイル付きの側近や侍従が数人いた。
いつかも、こんな光景を見たな。
そうカイルが思った時
「レイラ様!」
と焦った侍女の声が聞こえてきた。
レイラ?
カイルが階段の方を見ると、レイラが松葉杖で階段を降りていた。
「レイラ、危ない」
カイルは立ち上がるとレイラに向かって階段を登る。数段登った所でレイラと目が合った。
「カイル」
涙目のレイラ。
ああ…湖に落ちた時と同じだ。レイラが泣きながら真っ直ぐに俺に向かって来る。
「きゃっ!」
松葉杖が段を踏み外し、レイラがバランスを崩す。
「レイラ!」
カイルは両腕を伸ばして、落ちそうになったレイラを抱き止めた。
「レイラ、大丈夫か?」
「カイル、大丈夫?」
同時に言う。
レイラの頬を涙が伝う。
ああ、レイラ。愛しい。
カイルはレイラを強く抱きしめた。
「カイル殿下、私とライアンはもうお別れしてますから、今更失恋なんてしませんよ?」
休日、王城の図書館にいたキャロラインをお茶に誘ったレイラとカイルの前で、キャロラインはコロコロと笑いながら言った。
「キャロライン様、もうライアン兄様の事…好きじゃないの?」
「…ないわ」
レイラの問いに一瞬言い淀むキャロライン。
「それより、明後日は卒業パーティーでしょう?レイラちゃんどんなドレスなの?」
明るく言うキャロラインに、今度はレイラが言い淀む。
「…む、紫の」
「全体が薄紫で、フリルは白、後は濃紫の装飾だな」
レイラが恥ずかしそうに言うのに、カイルはサラリと言った。
「あら、カイル殿下から贈られたドレスなのね?そんなに恥ずかしがる事ないんじゃない?」
「ええまあ、約束だったので…でも恥ずかしいです」
カイルの卒業パーティーまでドレスを贈られる事を拒否していたのだ。そのカイルの卒業パーティーなのだから、受け取らない訳にはいかないレイラなのだった。
「どんなドレスか見たいな」
「見ますか?トルソーに着せて部屋にありますよ」
「本当?見たいわ!」
今はレイラの部屋として使っている王宮の客間は二階にある。
腕の固定は取れたレイラだが、左足はまだだ。松葉杖で廊下を歩くが、お茶をしていたテラスから二階への移動でカイルはレイラを抱き上げた。
「軽々ね」
キャロラインがカイルの後ろを歩きながら言う。
「レイラは軽い」
「やめてよ~」
階段を登りきった所でカイルはレイラを床へ降ろした。その時、廊下の向こうから三人の人影が近付いて来る。
「何故ですか!?サイラス殿下」
「こちらこそ『何故』だ。何故君を妃にしなくてはいけない?」
先を歩くサイラス、その後から小走りにアリスが付いて来ている。
「アリス、いい加減に…」
アリスの少し後ろを呆れ顔のライアンが追う。
「だって!子爵令嬢で良いなら、私でも良いじゃないですか!?」
「いや、その理屈が通じると本当に思ってるのか?」
アリスと、サイラス殿下とライアン兄様?
「兄上」
カイルが声を掛けるとサイラスはほっとした表情を見せた。
「カイルとレイラか。キャロライン嬢も」
「キャロライン?」
ライアンが驚いた顔でキャロラインを見る。
「何、サイラス殿下を困らせてるのよ?ライアン」
「いや、アリスがサイラス殿下に会いたいって言うから…」
「だからって素直に連れて来るかしら?普通」
キャロラインはジロリとライアンを睨む。
「急にアリスが『私を妃にしてください』なんてサイラスに言うとは思わないだろ?普通」
キャロラインとライアンの言い合いを苦笑いで眺めるサイラスとカイル。
レイラは少し離れた所でカイルの側近から松葉杖を受け取った。
「何よ…」
アリスは自身のスカートをぎゅっと握りしめる。
「何よ、何よ、何よ!サイラス殿下もカイル殿下も、ハミルトン先生も!どうして私じゃない女性が大切なの!?私が望めば誰とでも結ばれる筈なのに!」
アリスが叫ぶように言う。
「いや、アリス…」
「私は『ヒロイン』なんでしょう!?」
ライアンがアリスの肩に手を乗せようとする。
「触らないで!」
アリスはライアンの手を両手で掴むと大きく横に振った。
そして、バランスを崩したライアンは、階段の上に立つカイルとサイラスにぶつかる。
階段の上で膝をつくライアン。
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スローモーションのように階段を落ちるカイルとサイラスを見て、レイラが叫ぶ。
「サイラス殿下!」
「カイル殿下!」
側近や侍従、侍女やメイドが二階から、一階から沢山出てきてカイルとサイラスを取り囲んだ。
階段下に倒れたカイルは、ゆっくり起き上がると、一緒に落ちたサイラスを見る。
「お前…俺を庇っただろう?」
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「それは、まあ、兄上だからな」
カイルは少し笑う。
「サイラス殿下!お怪我は?」
「サイラス殿下」
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「カイル殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
カイルの周りには、カイル付きの側近や侍従が数人いた。
いつかも、こんな光景を見たな。
そうカイルが思った時
「レイラ様!」
と焦った侍女の声が聞こえてきた。
レイラ?
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「レイラ、危ない」
カイルは立ち上がるとレイラに向かって階段を登る。数段登った所でレイラと目が合った。
「カイル」
涙目のレイラ。
ああ…湖に落ちた時と同じだ。レイラが泣きながら真っ直ぐに俺に向かって来る。
「きゃっ!」
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「レイラ!」
カイルは両腕を伸ばして、落ちそうになったレイラを抱き止めた。
「レイラ、大丈夫か?」
「カイル、大丈夫?」
同時に言う。
レイラの頬を涙が伝う。
ああ、レイラ。愛しい。
カイルはレイラを強く抱きしめた。
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