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「じゃあその惚れ薬は俺が貰い受けよう」
「どうするんですか?そんな物」
執務机についたサイラスが手を差し出すと、机の前に立つイアンはその手の平に小瓶を乗せた。
「意中の令嬢ができたら使うに決まってるだろ?」
サイラスは口角を上げる。
「サイラス殿下がそんな薬に頼るとは思えませんが」
「そう言うが、俺は二十歳も過ぎてから婚約者を失うんだぞ?第一王子の婚約者になりそうな歳周りの上位貴族の令嬢はすでに結婚したり婚約したりしてるじゃないか」
「…それは」
複雑な表情のイアンを見て、サイラスはニヤリと笑う。
「なんてな。こんな薬で一時的に気持ちを向けても仕方がない。ただ効き目はあるようだから市中に広まる様だと厄介な薬だな」
「そうですね」
「個人使用のために仕入れたと言う話だからそんなに数は入ってきていないんだろう?」
「ウィルマが言うには、レベッカ・ハイアット嬢はこれを二本仕入れて、二本共ウィルマにくれたそうです」
「では、ハイアット商会にこの薬は輸入禁止だと申し伝えるか」
サイラスは立ち上がると、小瓶の蓋を開ける。そして窓からその小瓶を投げた。
小さくポチャッと音がして、小瓶は中庭の噴水の水盤へと沈んで行く。
「コントロール良いですね。サイラス殿下」
「実は前世のリトルリーグでピッチャーやってたんだ」
憔悴するミシェルを見かねた侍女エマは、イアンを探すと同時に、実家に戻っていたウィルマに会いに行き、ミシェルに真実を教えてくれと頼んだ。ミシェルの前でウィルマは惚れ薬の事を告白し、そして残っていた一本がミシェルの手に渡る。
ミシェルは父モーリス公爵からは何も言うなと言われていたが、見舞いに来たサイラスにレイラと一緒に落ちようとして自分だけが助けられた事を告げた。
ミシェルの気持ちを知ったサイラスはミシェルとの婚約を解消すると決めたのだ。
「サイラス殿下、俺がモーリス公爵家を解雇されてからサイラス殿下にお仕えしている事、エマにバラしましたね?」
「ミシェル本人には言わなかったんだから良いだろ?それに俺の側にいればミシェルにバレるのも時間の問題だ」
「ミシェル様にバレる前には王都を出ようと思ってましたよ」
「いやあ、俺としては同じ元日本人の感覚が似ているイアンが側にいてくれるのが居心地良くてありがたいからこのままずっと側近として居て欲しいんだが」
「まあ、元日本の庶民が『王子』とか『執事』とかになるの、何となく気恥ずかしいのは分かりますが」
「だろう?」
「しかし俺はずっとサイラス殿下の側に仕える事はできませんよ?」
「何故?」
「ミシェル様が、学園を卒業後に領地へ幽閉される事になったからです」
「幽閉?」
サイラスは目を見開く。ゲームで婚約破棄されたミシェルは領地へ幽閉され、一生家族にも友人にも会えなかったのでは…と思い出す。
「一応、表向きはレイラ様の件と、第一王子から婚約解消された罰と言うか…実際には幽閉ではなく、旦那様…モーリス公爵の温情で『領地で自由にしろ』と言う事らしいです」
「あ、そう言う事か…」
サイラスはほっと息を吐く。
「と、言う事は、イアンはミシェルが学園を卒業したら領地へ一緒に行く、と」
「はい。結婚という形は取れませんが、傍にいるという俺の希望は叶います」
モーリス公爵はミシェルに「領地屋敷の人事はあちらに任せている。誰を雇おうと関与しない」と言ったという。つまり、公爵家を解雇されたイアンを領地屋敷でまた雇う、と言っているのだ。
「…モーリス公爵は良い人だな」
「はい。娘を第一王子に嫁がせる事ができなくなって色々思う処もおありな筈なのに…本当に感謝しています」
「では、ゲームに倣い、俺の妃候補を公爵家の養女にする、と言うのはどうだ?」
サイラスは椅子に寄り掛かり口角を上げると、前に立つイアンを見上げる。
「…は?」
「元庶民の男爵令嬢を養女にして、王子妃にできたなら、生まれながらの子爵令嬢ならもっと簡単だろう?」
「子爵令嬢?…誰の事なんですか?」
サイラスはニッコリと笑って言った。
「エマだ」
「じゃあその惚れ薬は俺が貰い受けよう」
「どうするんですか?そんな物」
執務机についたサイラスが手を差し出すと、机の前に立つイアンはその手の平に小瓶を乗せた。
「意中の令嬢ができたら使うに決まってるだろ?」
サイラスは口角を上げる。
「サイラス殿下がそんな薬に頼るとは思えませんが」
「そう言うが、俺は二十歳も過ぎてから婚約者を失うんだぞ?第一王子の婚約者になりそうな歳周りの上位貴族の令嬢はすでに結婚したり婚約したりしてるじゃないか」
「…それは」
複雑な表情のイアンを見て、サイラスはニヤリと笑う。
「なんてな。こんな薬で一時的に気持ちを向けても仕方がない。ただ効き目はあるようだから市中に広まる様だと厄介な薬だな」
「そうですね」
「個人使用のために仕入れたと言う話だからそんなに数は入ってきていないんだろう?」
「ウィルマが言うには、レベッカ・ハイアット嬢はこれを二本仕入れて、二本共ウィルマにくれたそうです」
「では、ハイアット商会にこの薬は輸入禁止だと申し伝えるか」
サイラスは立ち上がると、小瓶の蓋を開ける。そして窓からその小瓶を投げた。
小さくポチャッと音がして、小瓶は中庭の噴水の水盤へと沈んで行く。
「コントロール良いですね。サイラス殿下」
「実は前世のリトルリーグでピッチャーやってたんだ」
憔悴するミシェルを見かねた侍女エマは、イアンを探すと同時に、実家に戻っていたウィルマに会いに行き、ミシェルに真実を教えてくれと頼んだ。ミシェルの前でウィルマは惚れ薬の事を告白し、そして残っていた一本がミシェルの手に渡る。
ミシェルは父モーリス公爵からは何も言うなと言われていたが、見舞いに来たサイラスにレイラと一緒に落ちようとして自分だけが助けられた事を告げた。
ミシェルの気持ちを知ったサイラスはミシェルとの婚約を解消すると決めたのだ。
「サイラス殿下、俺がモーリス公爵家を解雇されてからサイラス殿下にお仕えしている事、エマにバラしましたね?」
「ミシェル本人には言わなかったんだから良いだろ?それに俺の側にいればミシェルにバレるのも時間の問題だ」
「ミシェル様にバレる前には王都を出ようと思ってましたよ」
「いやあ、俺としては同じ元日本人の感覚が似ているイアンが側にいてくれるのが居心地良くてありがたいからこのままずっと側近として居て欲しいんだが」
「まあ、元日本の庶民が『王子』とか『執事』とかになるの、何となく気恥ずかしいのは分かりますが」
「だろう?」
「しかし俺はずっとサイラス殿下の側に仕える事はできませんよ?」
「何故?」
「ミシェル様が、学園を卒業後に領地へ幽閉される事になったからです」
「幽閉?」
サイラスは目を見開く。ゲームで婚約破棄されたミシェルは領地へ幽閉され、一生家族にも友人にも会えなかったのでは…と思い出す。
「一応、表向きはレイラ様の件と、第一王子から婚約解消された罰と言うか…実際には幽閉ではなく、旦那様…モーリス公爵の温情で『領地で自由にしろ』と言う事らしいです」
「あ、そう言う事か…」
サイラスはほっと息を吐く。
「と、言う事は、イアンはミシェルが学園を卒業したら領地へ一緒に行く、と」
「はい。結婚という形は取れませんが、傍にいるという俺の希望は叶います」
モーリス公爵はミシェルに「領地屋敷の人事はあちらに任せている。誰を雇おうと関与しない」と言ったという。つまり、公爵家を解雇されたイアンを領地屋敷でまた雇う、と言っているのだ。
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「元庶民の男爵令嬢を養女にして、王子妃にできたなら、生まれながらの子爵令嬢ならもっと簡単だろう?」
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「エマだ」
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