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「弟だけでも良かったのに、貴女も貴族令嬢にしてあげたんだから、貴女にはヴィーナス男爵家の役に立ってもらわなくちゃね」
ヴィーナス男爵の愛人だったアリスの母が亡くなり、弟と共に父の元に引き取られたアリス。初めて会った男爵の妻は、義理の娘であるアリスにそう言った。
「役に立つ…?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。貴女は『ヒロイン』なんだから」
義母は楽しそうに笑う。
「ヒロイン?」
「やっぱり第一王子が良いかしらね。公爵家の養女になって、後の王太子妃、王妃だもの。ヴィーナス男爵家も公爵家からも王家からも引き立ててもらえるものね」
「王太子妃?何を…」
「第二王子も良いわ。王妃はさすがに庶民育ちの娘じゃあ国民が受け入れないかも知れないけれど、第二王子妃ならそんなに表に出る事はないし。男爵家が王家との縁を得られるのは大きな利点だもの」
義理の娘に与えた豪奢な部屋で義母は歌うように言う。
「侯爵家の次男は、次男だから侯爵は継げないけれど、後には宰相になるから安泰だし、子爵家の長男も近衛騎士になればエリートコースだものね。公爵家の執事は使用人だけど貴女の弟の相談役としてヴィーナス男爵家を盛り立ててくれるし、宝石販売店の息子は何しろ大金持ちよ。顧問の教師はハミルトン伯爵家の次男だもの。ハミルトン家は表向きは一線引いていても、実はどの貴族より王家に近い存在なのよ」
「……」
アリスは呆然として義母を見る。
…この人は何を言ってるんだろう?
「あら、不安気な顔ね」
「あの…」
「大丈夫よ。貴女、ヒロインだから。あの女の存在を知った時にはもう貴女が生まれていたけど、貴女のそのピンクの髪と青い瞳を見て、そして名前を聞いて、判ったの」
あの女って母さんの事?
「その時、私には子が生まれない事も、あの女が次に男子を生む事も判ったわ。正確には、思い出したの」
「思い出した?」
「そう。ここが『恋する生徒会2』の世界で、貴女がヒロインだと」
「恋する…?」
義母はソファから立ち上がると、アリスの前に立つ。
そして、扇をアリスの顎の下に当て、アリスを上に向かせた。
「見れば見るほどあの女にそっくりね」
憎しみの篭った眼でアリスを見る義母。
アリスの背筋にゾクリと寒感が走った。
「旦那様から愛人と子供の存在を告げられた時、私は初めて知った風に物凄く驚いてそして嘆いたわ。あの女が病で長くないと言われて、もしもの時は貴女と弟を男爵家に引き取りましょうと提案したのは私なの。これで私は『旦那様を愛する寛容で理解のある健気な妻』の座を手に入れたわ」
「……」
「でもね。私、知っていたの。あの女が病で亡くなる事。だから愛人の存在を知らぬ振りをしていたのよ」
義母はニコリと笑う。
-----
「貴女がその中の誰かを選べば、必ずその人に愛されて、結ばれるわ」
「かな、らず?」
「そう。必ず。まあその前にその人の婚約者や恋人に苛められるけど」
「婚約者や恋人…?」
婚約者や恋人がいる人なのに、私が必ず愛されて、結ばれるの?
「そうよ。どんな女にどんなに苛められても大丈夫。むしろ積極的に苛められて男性たちの好感度を手に入れなさい。どんな事をされても最後には貴女と結ばれるんだから、スパイスのような物よ。…それに他人の男を奪うのは得意でしょう?あの女の娘ですものね」
義母は扇でアリスの頬をピタピタと叩いた。
「誰を選んでも男爵家に利はあるけど、やはり第一王子を狙いなさいな。第一王子が駄目なら第二王子よ。庶民出の愛人の娘が王族の仲間入りするなんて、最高に皮肉で、最高に楽しいじゃないの」
義母は紙を取り出し「第一王子サイラス・ルーセント」と書く。続けて「生徒会長カイル・ルーセント」から副会長、会計…と、攻略対象者全員の名前を書くと、アリスへ差し出した。
「……」
アリスは小さく震える手で義母の差し出した紙を受け取る。
「愛人の娘にこんな豪華な部屋を与えて、着飾らせて、学園にも通わせて、更に高貴な男性と結ばれる事をわざわざ教えてあげるなんて…私って『優しくて子供思いな母親』よね?」
扇を広げて口元を隠しながら、義母は艶やかに笑った。
「弟だけでも良かったのに、貴女も貴族令嬢にしてあげたんだから、貴女にはヴィーナス男爵家の役に立ってもらわなくちゃね」
ヴィーナス男爵の愛人だったアリスの母が亡くなり、弟と共に父の元に引き取られたアリス。初めて会った男爵の妻は、義理の娘であるアリスにそう言った。
「役に立つ…?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。貴女は『ヒロイン』なんだから」
義母は楽しそうに笑う。
「ヒロイン?」
「やっぱり第一王子が良いかしらね。公爵家の養女になって、後の王太子妃、王妃だもの。ヴィーナス男爵家も公爵家からも王家からも引き立ててもらえるものね」
「王太子妃?何を…」
「第二王子も良いわ。王妃はさすがに庶民育ちの娘じゃあ国民が受け入れないかも知れないけれど、第二王子妃ならそんなに表に出る事はないし。男爵家が王家との縁を得られるのは大きな利点だもの」
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「侯爵家の次男は、次男だから侯爵は継げないけれど、後には宰相になるから安泰だし、子爵家の長男も近衛騎士になればエリートコースだものね。公爵家の執事は使用人だけど貴女の弟の相談役としてヴィーナス男爵家を盛り立ててくれるし、宝石販売店の息子は何しろ大金持ちよ。顧問の教師はハミルトン伯爵家の次男だもの。ハミルトン家は表向きは一線引いていても、実はどの貴族より王家に近い存在なのよ」
「……」
アリスは呆然として義母を見る。
…この人は何を言ってるんだろう?
「あら、不安気な顔ね」
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あの女って母さんの事?
「その時、私には子が生まれない事も、あの女が次に男子を生む事も判ったわ。正確には、思い出したの」
「思い出した?」
「そう。ここが『恋する生徒会2』の世界で、貴女がヒロインだと」
「恋する…?」
義母はソファから立ち上がると、アリスの前に立つ。
そして、扇をアリスの顎の下に当て、アリスを上に向かせた。
「見れば見るほどあの女にそっくりね」
憎しみの篭った眼でアリスを見る義母。
アリスの背筋にゾクリと寒感が走った。
「旦那様から愛人と子供の存在を告げられた時、私は初めて知った風に物凄く驚いてそして嘆いたわ。あの女が病で長くないと言われて、もしもの時は貴女と弟を男爵家に引き取りましょうと提案したのは私なの。これで私は『旦那様を愛する寛容で理解のある健気な妻』の座を手に入れたわ」
「……」
「でもね。私、知っていたの。あの女が病で亡くなる事。だから愛人の存在を知らぬ振りをしていたのよ」
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