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「レイラ」
父ブライアンがいつものようにレイラの頬に触る。
「お父様…」
「…レイラ、良かったわ」
母スーザンもブライアンの後ろからレイラの顔を覗き込む。
「お母様」
「あれから今日で十六日経つのよ。ずっと横になっていたからまだ起き上がるのは無理ね」
「十六日も…」
「髪が短くなってて、鏡を見たら驚くかも知れないわね。でも切った髪の毛はちゃんと取ってあって、それで付け毛を作ってあるから心配しなくて大丈夫よ」
スーザンは明るい口調で言う。
「…お父様、お母様、私の左の手と足ってどうなってるんですか?感覚がないんですけど…」
レイラは不安そうな表情で言う。起き上がれないので目視で確認する事ができないのだ。
「左手は上腕と手首を骨折している。左足も大腿骨の解放骨折。だから今はガチガチに固めてあるから動かないんだよ」
ブライアンがレイラの頬を撫でながら言う。安心させるように優しい口調だ。
「後は頭に裂傷と、顔に少し切り傷があるの」
「眼は大丈夫なんですか?」
顔半分にガーゼを貼られているので、左目が見えるのか見えないのかもよく判らない。
「眼に近い所に傷があるからガーゼで覆われてるけど、眼は大丈夫よ」
「そっか…」
「内蔵には損傷がなかったようだから、手足は暫くは不自由だが、ちゃんと治る」
ブライアンがきっぱりと言い切る。スーザンが大きく頷く。
レイラもこくんと頷いた。
薄っすらと目が覚める度にカイルが居たような気がしたんだけど…夢だったのかなあ…
目が覚める度、カイルに「レイラ」と呼ばれて頬を撫でられた。でも今は視線で病室を見回してもカイルの姿はなかった。
私の願望が夢に現れたのかな…
レイラがそう思った時、スーザンが言う。
「カイル殿下も間が悪いわね。あんなにずっとレイラに付き添っていたのに、しっかり目が覚めた今は学園の行事でいないなんて」
「え?」
…カイル、やっぱりずっと付いててくれたの?
「学園の秋期の終了式なんだよ。今日」
ブライアンが言う。
カイルは生徒会長だから、挨拶があるのだ。
「あれからずっとカイル殿下も学園をお休みしてたから、今日はどうしても行かないといけなかったらしいわ」
「間が悪いと言えば、レイラにカイルの腫れた両頬を見せられなかったのも間が悪かったな」
「ええ?」
腫れた、両頬?カイルの?
「今回の事で、婚約者を蔑ろにし、他の女性にうつつを抜かしていたのを王太子殿下と妃殿下に知られて…な」
「そうなの。王太子殿下に平手で、妃殿下に拳固で殴られたそうよ」
スーザンが右手を広げ、左手を握り、それぞれ殴るような動きをする。
「王太子殿下と妃殿下が…てっきりお父様とお母様が殴ったのかと…あ、ごめんなさい」
「あら、もちろんあのお二方が殴ってなければ、私と旦那様が殴っていたわよ。ね、旦那様」
「もちろんだ。あの腫れた頬をレイラに見せられなかったのが心残りだがな」
-----
「レイラ!」
学園の制服姿のカイルが病室に飛び込んで来る。
「…カイル」
カイルは安堵の表情を浮かべた後、口元を引き締めて、レイラの寝ているベッドの傍らに跪いた。
そして、拳を床につける。
「俺はレイラを傷付けた。許してもらえなくて当然だと思うが、謝罪をさせてくれ。本当に申し訳ない…」
俯いて言うカイル。
「謝罪…」
「ああ。俺はレイラをこんな目に合わせた自分が許せない」
「…この怪我はカイルのせいじゃないわ」
カイルはどんな表情で話してるんだろう?
「いや、俺がちゃんとしていれば、レイラがあんな所に居る事はなかったんだ」
確かに、カイルを避けるために屋上の端っこにいたんだけど…
「カイル」
こっちを見て。
カイルは視線を上げてレイラを見つめた。
…優しい眼。
カイルは片手で自分の口元を覆う。
「済まない。謝罪をしているのに…レイラが俺を呼び捨ててくれるのが嬉しくて…」
「え?あ…」
心の中で呼んでいる通りに口から出てたわ。
「どうか、そのまま『カイル』と…俺を呼んでくれ。レイラ」
跪いたまま、カイルはレイラの右手を取ると、顔を寄せて甲に口付ける。
「許されなくても、嫌われていても、罵られても、レイラが生きていて、俺を見て、俺を呼んでくれれば、俺はそれだけで良いんだ」
右手の甲に唇を当てたまま、カイルはレイラを見つめる。
紫色の宝石のような瞳にレイラの姿が映っていた。
「レイラが大切なんだ。俺はレイラが…レイラだけが好きだ」
…これ、夢の続き?
レイラの眼に涙が浮かぶ。
「あ、痛っ」
「どうした!?」
カイルが慌てて立ち上がってレイラの顔を覗き込む。
「涙が…傷に沁みて…」
レイラは右手で顔のガーゼを押さえて思わず苦笑いを浮かべる。
何だか良い雰囲気だったのに、台無しなのが私らしいわ。
「泣かせてごめん」
カイルが包帯を避けながらレイラの頭を撫でた。
「…嬉し涙だから、良いの」
痛かったから、夢じゃないのが判ったしね…
「レイラ」
父ブライアンがいつものようにレイラの頬に触る。
「お父様…」
「…レイラ、良かったわ」
母スーザンもブライアンの後ろからレイラの顔を覗き込む。
「お母様」
「あれから今日で十六日経つのよ。ずっと横になっていたからまだ起き上がるのは無理ね」
「十六日も…」
「髪が短くなってて、鏡を見たら驚くかも知れないわね。でも切った髪の毛はちゃんと取ってあって、それで付け毛を作ってあるから心配しなくて大丈夫よ」
スーザンは明るい口調で言う。
「…お父様、お母様、私の左の手と足ってどうなってるんですか?感覚がないんですけど…」
レイラは不安そうな表情で言う。起き上がれないので目視で確認する事ができないのだ。
「左手は上腕と手首を骨折している。左足も大腿骨の解放骨折。だから今はガチガチに固めてあるから動かないんだよ」
ブライアンがレイラの頬を撫でながら言う。安心させるように優しい口調だ。
「後は頭に裂傷と、顔に少し切り傷があるの」
「眼は大丈夫なんですか?」
顔半分にガーゼを貼られているので、左目が見えるのか見えないのかもよく判らない。
「眼に近い所に傷があるからガーゼで覆われてるけど、眼は大丈夫よ」
「そっか…」
「内蔵には損傷がなかったようだから、手足は暫くは不自由だが、ちゃんと治る」
ブライアンがきっぱりと言い切る。スーザンが大きく頷く。
レイラもこくんと頷いた。
薄っすらと目が覚める度にカイルが居たような気がしたんだけど…夢だったのかなあ…
目が覚める度、カイルに「レイラ」と呼ばれて頬を撫でられた。でも今は視線で病室を見回してもカイルの姿はなかった。
私の願望が夢に現れたのかな…
レイラがそう思った時、スーザンが言う。
「カイル殿下も間が悪いわね。あんなにずっとレイラに付き添っていたのに、しっかり目が覚めた今は学園の行事でいないなんて」
「え?」
…カイル、やっぱりずっと付いててくれたの?
「学園の秋期の終了式なんだよ。今日」
ブライアンが言う。
カイルは生徒会長だから、挨拶があるのだ。
「あれからずっとカイル殿下も学園をお休みしてたから、今日はどうしても行かないといけなかったらしいわ」
「間が悪いと言えば、レイラにカイルの腫れた両頬を見せられなかったのも間が悪かったな」
「ええ?」
腫れた、両頬?カイルの?
「今回の事で、婚約者を蔑ろにし、他の女性にうつつを抜かしていたのを王太子殿下と妃殿下に知られて…な」
「そうなの。王太子殿下に平手で、妃殿下に拳固で殴られたそうよ」
スーザンが右手を広げ、左手を握り、それぞれ殴るような動きをする。
「王太子殿下と妃殿下が…てっきりお父様とお母様が殴ったのかと…あ、ごめんなさい」
「あら、もちろんあのお二方が殴ってなければ、私と旦那様が殴っていたわよ。ね、旦那様」
「もちろんだ。あの腫れた頬をレイラに見せられなかったのが心残りだがな」
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学園の制服姿のカイルが病室に飛び込んで来る。
「…カイル」
カイルは安堵の表情を浮かべた後、口元を引き締めて、レイラの寝ているベッドの傍らに跪いた。
そして、拳を床につける。
「俺はレイラを傷付けた。許してもらえなくて当然だと思うが、謝罪をさせてくれ。本当に申し訳ない…」
俯いて言うカイル。
「謝罪…」
「ああ。俺はレイラをこんな目に合わせた自分が許せない」
「…この怪我はカイルのせいじゃないわ」
カイルはどんな表情で話してるんだろう?
「いや、俺がちゃんとしていれば、レイラがあんな所に居る事はなかったんだ」
確かに、カイルを避けるために屋上の端っこにいたんだけど…
「カイル」
こっちを見て。
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…優しい眼。
カイルは片手で自分の口元を覆う。
「済まない。謝罪をしているのに…レイラが俺を呼び捨ててくれるのが嬉しくて…」
「え?あ…」
心の中で呼んでいる通りに口から出てたわ。
「どうか、そのまま『カイル』と…俺を呼んでくれ。レイラ」
跪いたまま、カイルはレイラの右手を取ると、顔を寄せて甲に口付ける。
「許されなくても、嫌われていても、罵られても、レイラが生きていて、俺を見て、俺を呼んでくれれば、俺はそれだけで良いんだ」
右手の甲に唇を当てたまま、カイルはレイラを見つめる。
紫色の宝石のような瞳にレイラの姿が映っていた。
「レイラが大切なんだ。俺はレイラが…レイラだけが好きだ」
…これ、夢の続き?
レイラの眼に涙が浮かぶ。
「あ、痛っ」
「どうした!?」
カイルが慌てて立ち上がってレイラの顔を覗き込む。
「涙が…傷に沁みて…」
レイラは右手で顔のガーゼを押さえて思わず苦笑いを浮かべる。
何だか良い雰囲気だったのに、台無しなのが私らしいわ。
「泣かせてごめん」
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