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痛い。苦しい。
身体が重い。動かない…
私、このまま死ぬのかな…
神様。もし時間を戻せるなら、カイルと婚約する前に戻りたいです。
そうしたら今度は絶対に婚約なんてしないんだ。
好きな人が自分を好きになってくれる幸せを知った後、それを奪われちゃうなら、始めからそんな幸せ知らない方が良いもん。
それとももっと戻れるなら、生まれる前まで遡る。そして、今度は男の子として生まれたい。
そうしたらカイルとも幼なじみの親友に…ライアン兄様とサイラス殿下みたいになれるもの。
ああ、でも本当は、死ぬ前に、もう一度カイルに宝物みたいに抱きしめられて「レイラ」って名前を呼ばれたいな。
カイルが全身から発する「レイラが好き」ってオーラにすっぽり包まれて…そのまま息絶えてしまいたい…
「……ラ」
「レイラ」
レイラが薄っすらと目を開けると、カイルの紫色の瞳が視界に飛び込んで来た。
…カイル?
「レイラ…俺が判るか?」
カイルでしょ?と言いたかったが、声が出ない。
腕も足も動かせない。
「……」
「…良かった…このままもう目覚めないのかと…」
泣いてるの?どうして?
紫色の瞳がゆらゆら揺れて、頬を雫が伝う。
涙に触れてみたい。
レイラはカイルの顔に手を伸ばそうとするが、手は重くて上がらない。
レイラが右手を動かそうとした事に気付いて、カイルはレイラの手を両手で握った。
暖かい。
「…カ……」
カイルを呼ぼうとして、自分の声じゃないみたいに掠れた声が出た。
「レイラ」
眉を寄せて、心配そうな表情のカイル。
私の事を心配してくれてるの?…カイルがこんなに真っ直ぐ私を見るの、すごく久しぶり。
カイルの左手がレイラの手から離れる。
あ、離れちゃうの?
残念に思っていたら、その手がレイラの右頬に触れた。包み込むようにゆっくりと撫でられる。
…愛しいって、言われてるみたい。
夢かなあ。これ。
夢でも、幸せな気持ちになれたから、息絶えるなら今がいいな…
レイラはそう思いながらまた眠りに落ちて行った。
-----
「カイル殿下~」
王宮の廊下の向こうから、アリスが小走りに駆けて来る。
「アリス」
アリスの顔を見た途端、カイルは胸が沸き立つような高揚感を覚えた。
「アリス、王宮の廊下を走ってはいけません」
アリスの後をライアンが着いて来る。
「だって、早くカイル殿下にお会いしたかったんだもの」
カイルは自分の胸のポケットの上をそっと押さえる。
「ねぇカイル殿下どうして学園をお休みされているんですか?もう十日ですよ?」
「だからそれは俺が説明しましたよね?」
ライアンが言うと、アリスは首を横に振る。
「ハミルトン先生からは『殿下はレイラに付き添っている』って聞きましたけど、何でカイル殿下がレイラ様に付き添わなくちゃいけないんですか?」
「レイラは殿下の婚約者だから…」
「でも!レイラ様まだ目が覚めないんでしょ?学園を休んでまで付き添う必要ないじゃないですか」
必要ない、か。まあ確かにそうだ。だが。
「…俺がそうしたいから、している」
カイルは胸を押さえたまま言う。
アリスは驚いた顔で
「どうして?…カイル殿下は私の事を好きなんじゃなかったんですか?」
と言う。
「アリス」
咎めるように言うライアンに、アリスは
「だって殿下、私にそう言いましたよ。それにキスだって…」
と言い募る。
カイルは、学園の救護室でアリスと口付けを交わした事を思い出す。
途端にあの時の圧倒的な幸福感が胸に蘇った。
…ああ、アリスが好きだ。
その気持ちが胸の奥から湧き水の様に溢れて来る。
これは、本当に「俺の感情」なのか?
カイルは胸ポケットを掴む。カサッとポケットの中の紙が音を立てた。
薄っすらと目を開けたレイラ。
右手を動かそうとしていた。あれは俺に手を伸ばそうとしたのか、それとも追い払おうとしたのか…
どちらでも良い。
レイラが生きていて、俺を見た。それだけで。
「アリスには申し訳ないが、俺は…レイラが大切なんだ」
カイルは真っ直ぐにアリスを見ながらそう言った。
痛い。苦しい。
身体が重い。動かない…
私、このまま死ぬのかな…
神様。もし時間を戻せるなら、カイルと婚約する前に戻りたいです。
そうしたら今度は絶対に婚約なんてしないんだ。
好きな人が自分を好きになってくれる幸せを知った後、それを奪われちゃうなら、始めからそんな幸せ知らない方が良いもん。
それとももっと戻れるなら、生まれる前まで遡る。そして、今度は男の子として生まれたい。
そうしたらカイルとも幼なじみの親友に…ライアン兄様とサイラス殿下みたいになれるもの。
ああ、でも本当は、死ぬ前に、もう一度カイルに宝物みたいに抱きしめられて「レイラ」って名前を呼ばれたいな。
カイルが全身から発する「レイラが好き」ってオーラにすっぽり包まれて…そのまま息絶えてしまいたい…
「……ラ」
「レイラ」
レイラが薄っすらと目を開けると、カイルの紫色の瞳が視界に飛び込んで来た。
…カイル?
「レイラ…俺が判るか?」
カイルでしょ?と言いたかったが、声が出ない。
腕も足も動かせない。
「……」
「…良かった…このままもう目覚めないのかと…」
泣いてるの?どうして?
紫色の瞳がゆらゆら揺れて、頬を雫が伝う。
涙に触れてみたい。
レイラはカイルの顔に手を伸ばそうとするが、手は重くて上がらない。
レイラが右手を動かそうとした事に気付いて、カイルはレイラの手を両手で握った。
暖かい。
「…カ……」
カイルを呼ぼうとして、自分の声じゃないみたいに掠れた声が出た。
「レイラ」
眉を寄せて、心配そうな表情のカイル。
私の事を心配してくれてるの?…カイルがこんなに真っ直ぐ私を見るの、すごく久しぶり。
カイルの左手がレイラの手から離れる。
あ、離れちゃうの?
残念に思っていたら、その手がレイラの右頬に触れた。包み込むようにゆっくりと撫でられる。
…愛しいって、言われてるみたい。
夢かなあ。これ。
夢でも、幸せな気持ちになれたから、息絶えるなら今がいいな…
レイラはそう思いながらまた眠りに落ちて行った。
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王宮の廊下の向こうから、アリスが小走りに駆けて来る。
「アリス」
アリスの顔を見た途端、カイルは胸が沸き立つような高揚感を覚えた。
「アリス、王宮の廊下を走ってはいけません」
アリスの後をライアンが着いて来る。
「だって、早くカイル殿下にお会いしたかったんだもの」
カイルは自分の胸のポケットの上をそっと押さえる。
「ねぇカイル殿下どうして学園をお休みされているんですか?もう十日ですよ?」
「だからそれは俺が説明しましたよね?」
ライアンが言うと、アリスは首を横に振る。
「ハミルトン先生からは『殿下はレイラに付き添っている』って聞きましたけど、何でカイル殿下がレイラ様に付き添わなくちゃいけないんですか?」
「レイラは殿下の婚約者だから…」
「でも!レイラ様まだ目が覚めないんでしょ?学園を休んでまで付き添う必要ないじゃないですか」
必要ない、か。まあ確かにそうだ。だが。
「…俺がそうしたいから、している」
カイルは胸を押さえたまま言う。
アリスは驚いた顔で
「どうして?…カイル殿下は私の事を好きなんじゃなかったんですか?」
と言う。
「アリス」
咎めるように言うライアンに、アリスは
「だって殿下、私にそう言いましたよ。それにキスだって…」
と言い募る。
カイルは、学園の救護室でアリスと口付けを交わした事を思い出す。
途端にあの時の圧倒的な幸福感が胸に蘇った。
…ああ、アリスが好きだ。
その気持ちが胸の奥から湧き水の様に溢れて来る。
これは、本当に「俺の感情」なのか?
カイルは胸ポケットを掴む。カサッとポケットの中の紙が音を立てた。
薄っすらと目を開けたレイラ。
右手を動かそうとしていた。あれは俺に手を伸ばそうとしたのか、それとも追い払おうとしたのか…
どちらでも良い。
レイラが生きていて、俺を見た。それだけで。
「アリスには申し訳ないが、俺は…レイラが大切なんだ」
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