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イアンは、ミシェルがウィルマに惚れ薬を飲まされたせいでレイラを道連れに屋上から飛び降りようとした事をミシェルの父であり、自らの主人であるモーリス公爵に内密に告白した。
「…ミシェルがハミルトン伯爵令嬢を殺害しようとした、と言う事か?」
モーリス公爵は苦渋の表情で言う。
「はい。しかしそれは私以外はミシェル様ご本人のみが知る事です」
「つまり、イアンとミシェルが黙っていればハミルトン伯爵令嬢の件はただの事故にできると?」
「はい」
「確かにミシェルが故意にそのような事をしたとなると、第一王子の婚約者の座も追われる事になるだろうが…」
「はい。ですから旦那様、私を解雇してください」
「イアンを解雇とは?」
「私はミシェル様の不利になる事は誰にも申しません。ミシェル様がいくらご自分がレイラ様と共に…死のうとしたと言っても、精神的に混乱した故の妄想だと言う事で押し通せると思います」
「それは分かるが、解雇までしなくて良いのではないか?」
イアンは「いいえ」と言うと、モーリス公爵を真っ直ぐに見る。
「私がいなければ、ミシェル様はあの時の状況を確認する事はできません。それに、この度の件は私の落ち度です。私はミシェル様のお側に居てはならない者と存じます。ここまで旦那様には過分な処遇を頂いていたのに、仇で返す事となり、本当に申し訳ありません」
そう言うと、深々と頭を下げた。
-----
「単刀直入に聞く。イアン・マクラウド」
「はい」
王宮のサイラスの執務室で、サイラスの正面に立ったイアンは背筋を伸ばした。
「イアンが『転生者』だと言うのは本当なのか?」
「…それは、ミシェル様がそうサイラス殿下に話されたと聞いていますが」
「ああ。聞いているが、俺が直接聞いた訳ではないから、念の為の確認だ。イアンも俺がそうだと聞いているんだろう?」
「はい」
「では、イアンにキャロライン嬢の仮説を話すから、諸々確認と、意見を聞かせてくれ」
「キャロライン嬢とは?」
「ライアン・ハミルトンの学園の頃からの恋人だ。史学研究所に勤めている」
「ハミルトン先生の…」
ああ、ライアンルートの悪役令嬢…そんな名前だったか。眼鏡を取ったら超美人ってキャラだったよな。
「ああ、キャロライン嬢は『転生者には強制力が働かない』と言うんだが」
「…は…?」
サイラスの言葉に、イアンは目を大きく見開いた。
二時間後。
「キャロライン嬢って凄いですね。それだけの文献を一人で読んで一人でそこまで辿り着くとは…」
「ああ。確かに凄いが…俺は今混乱中だ」
ソファの向かい側でイアンは腕を組み、サイラスは頭を抱えている。
「…この世界が恋愛シミュレーションゲーム?」
「はい」
「俺も攻略対象者?」
「はい」
サイラスの言葉に、イアンは淡々と答える。
「…だからライアンは頻繁にアリス嬢を王宮に連れて来て俺に会わせていたのか。カイルに会いに来ていただけではなかったと言う事か」
「そうですね」
「俺は恋愛シミュレーションゲームはした事がないんだが、もしキャロライン嬢が強制力に気付く事なく、そのまま時が過ぎたとすると、そのゲームの結末はどうなるんだ?」
「ヒロインが誰のルートに入るかによりますが、基本的には、攻略対象者は卒業パーティーで婚約者や恋人である『悪役令嬢』を断罪し、ヒロインと結ばれます」
「結ばれる…もし、俺がヒロインに攻略されたとして…ゾッとする想像だが、第一王子と男爵令嬢では結ばれるのは無理だろう?」
「サイラス殿下が攻略されたとすると、まずはミシェル様を断罪し、婚約破棄をします。そして、ヒロインアリスはモーリス公爵家の養女になり、サイラス殿下と婚約します」
「…モーリス公爵家の?」
「ええ。モーリス公爵は婚約破棄されたミシェル様を領地へ幽閉します。その後、ヒロインを養女にし、サイラス殿下と婚約させますので、モーリス公爵家にとっては『娘を第一王子に嫁がせる』事に何ら変わりないと」
「幽閉?」
「ゲームでのミシェル様は、領地の隅の小さな館へたった一人の使用人と共に幽閉され、一生家族にも友人にも会えないまま…早逝されます」
「……」
たった一人の使用人はミシェルの乳母で、優しく明るい女性だったので、それだけがただ一つの救いだ。
「どの攻略対象者を選んでも『悪役令嬢』は不幸になるのか?」
「そうです。必ず」
「つまり、キャロライン嬢の仮説はほぼ正しく、強制力が働いたのは『ゲーム』が始まったから…?」
「はい」
「ゲームのシナリオ通りになるよう、人の気持ちも状況も強制的に変えられる、と言う事か」
「そうです」
イアンは深く頷いた。
イアンは、ミシェルがウィルマに惚れ薬を飲まされたせいでレイラを道連れに屋上から飛び降りようとした事をミシェルの父であり、自らの主人であるモーリス公爵に内密に告白した。
「…ミシェルがハミルトン伯爵令嬢を殺害しようとした、と言う事か?」
モーリス公爵は苦渋の表情で言う。
「はい。しかしそれは私以外はミシェル様ご本人のみが知る事です」
「つまり、イアンとミシェルが黙っていればハミルトン伯爵令嬢の件はただの事故にできると?」
「はい」
「確かにミシェルが故意にそのような事をしたとなると、第一王子の婚約者の座も追われる事になるだろうが…」
「はい。ですから旦那様、私を解雇してください」
「イアンを解雇とは?」
「私はミシェル様の不利になる事は誰にも申しません。ミシェル様がいくらご自分がレイラ様と共に…死のうとしたと言っても、精神的に混乱した故の妄想だと言う事で押し通せると思います」
「それは分かるが、解雇までしなくて良いのではないか?」
イアンは「いいえ」と言うと、モーリス公爵を真っ直ぐに見る。
「私がいなければ、ミシェル様はあの時の状況を確認する事はできません。それに、この度の件は私の落ち度です。私はミシェル様のお側に居てはならない者と存じます。ここまで旦那様には過分な処遇を頂いていたのに、仇で返す事となり、本当に申し訳ありません」
そう言うと、深々と頭を下げた。
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「はい」
王宮のサイラスの執務室で、サイラスの正面に立ったイアンは背筋を伸ばした。
「イアンが『転生者』だと言うのは本当なのか?」
「…それは、ミシェル様がそうサイラス殿下に話されたと聞いていますが」
「ああ。聞いているが、俺が直接聞いた訳ではないから、念の為の確認だ。イアンも俺がそうだと聞いているんだろう?」
「はい」
「では、イアンにキャロライン嬢の仮説を話すから、諸々確認と、意見を聞かせてくれ」
「キャロライン嬢とは?」
「ライアン・ハミルトンの学園の頃からの恋人だ。史学研究所に勤めている」
「ハミルトン先生の…」
ああ、ライアンルートの悪役令嬢…そんな名前だったか。眼鏡を取ったら超美人ってキャラだったよな。
「ああ、キャロライン嬢は『転生者には強制力が働かない』と言うんだが」
「…は…?」
サイラスの言葉に、イアンは目を大きく見開いた。
二時間後。
「キャロライン嬢って凄いですね。それだけの文献を一人で読んで一人でそこまで辿り着くとは…」
「ああ。確かに凄いが…俺は今混乱中だ」
ソファの向かい側でイアンは腕を組み、サイラスは頭を抱えている。
「…この世界が恋愛シミュレーションゲーム?」
「はい」
「俺も攻略対象者?」
「はい」
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「…だからライアンは頻繁にアリス嬢を王宮に連れて来て俺に会わせていたのか。カイルに会いに来ていただけではなかったと言う事か」
「そうですね」
「俺は恋愛シミュレーションゲームはした事がないんだが、もしキャロライン嬢が強制力に気付く事なく、そのまま時が過ぎたとすると、そのゲームの結末はどうなるんだ?」
「ヒロインが誰のルートに入るかによりますが、基本的には、攻略対象者は卒業パーティーで婚約者や恋人である『悪役令嬢』を断罪し、ヒロインと結ばれます」
「結ばれる…もし、俺がヒロインに攻略されたとして…ゾッとする想像だが、第一王子と男爵令嬢では結ばれるのは無理だろう?」
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「…モーリス公爵家の?」
「ええ。モーリス公爵は婚約破棄されたミシェル様を領地へ幽閉します。その後、ヒロインを養女にし、サイラス殿下と婚約させますので、モーリス公爵家にとっては『娘を第一王子に嫁がせる』事に何ら変わりないと」
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「……」
たった一人の使用人はミシェルの乳母で、優しく明るい女性だったので、それだけがただ一つの救いだ。
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「そうです。必ず」
「つまり、キャロライン嬢の仮説はほぼ正しく、強制力が働いたのは『ゲーム』が始まったから…?」
「はい」
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