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「人が落ちたぞ!」
男子生徒の声に、周囲が騒めき始めた。
「…え?」
ライアンは思わずその場に立ち竦んだ。
「何?カイル殿下はどこへ行ったの?」
転んで膝をついたまま、アリスが言う。カイルは一足先に走り出して、すでに姿は見えなくなっていた。
「今『レイラ』って…サイラスの声が…したような…?」
「え?レイラ様!?どこ!?」
アリスは慌てて立ち上がろうとするが
「痛っ!」
と言ってまた膝をついた。
「どうしました?アリス」
「足を挫いたわ!レイラ様のせいよ!」
「は?」
かわいいアリス。でも今、アリスの言う事がさっぱり分からない。いや、それどころじゃないんじゃないか?
「アリス、ちょっと今…」
「ハミルトン先生!レイラ様はどこですか!?私どうしても聞きたい事があるのに」
「それどころじゃない」
「それどころじゃないって何ですか!?先生!」
アリスはライアンの言葉に被せる様に言ってライアンの服の袖を掴む。
「だから…あ、フォスターくん!セイモアくん!」
ライアンは、横を通り過ぎようとしていた生徒会副会長のアンソニー・フォスターと会計のサミュエル・セイモアを呼び止める。
「先生」
「…状況は分からないけど、役員とサポートメンバーで会場に明かりをつけて。それからあまり騒ぎにならないように閉会と解散を。フォスターくんに任せるから」
「はい。分かりました」
アンソニーは踵を返、そうとして、ライアンを見る。
「先生は…早く行かれた方が良いですよ」
「……」
やっぱりそうか。人が落ちたと言うのは…
「ほら、アリス、足が痛いなら救護室へ行こう」
アンソニーはそのまま去って行き、サミュエルがアリスに手を差し出すが、アリスはプイッとそっぽを向いた。
「私はハミルトン先生の手紙についてレイラ様に聞きたい事があるんです」
「アリス、それは今は無理だ」
サミュエルが言うと
「何で?」
アリスはライアンの服の袖を掴んだままきょとんとして言った。
-----
「カイルに会ったら絶対に殴ってやろうと思っていたんだ」
「私もです。絶対に拳固で」
王宮の客間でレイラの父ブライアンが憮然として言うと、スーザンも握り拳で頷いた。
「父上、母上、王宮で物騒な事を言うのはやめてください」
ライナスは苦笑いを浮かべる。
ブライアンとスーザンはレイラが大怪我をしたとの知らせを受け、領地から馬車を不休で走らせ、二日かかる行程を一日半で王都に到着した。それでもすでに翌々日の夜だ。
「まあ、王太子殿下と妃殿下がもう先に殴ったと聞いたから、今は勘弁してやるがな」
「王太子殿下は平手で、妃殿下は拳固でって聞いたから少しスッキリしたわ。それにしても、レイラを放って他の女にうつつを抜かしてた癖に、今は『レイラから離れたくない』なんて、カイル殿下もよく判らない子ねぇ」
まあ…カイルにとっては本当に、アリス嬢に惹かれたのも、レイラを失いそうなのも「夢か現か」って状態だろうからな。
強制力とか転生者とか、あの場で聞いていた俺さえ俄に信じられないくらいだし。
ライナスは不思議そうな表情のスーザンを見ながら思う。
カイルは、レイラが医療棟の二階の病室に移されてから、ずっと病室に篭っている。王太子である父と妃の母に左右それぞれの頬を殴られ、赤く腫れたままだ。
「まだまだ予断を許さないのよね…」
ソファに座って俯くスーザン。
「ええ。強い鎮痛剤が投与されている関係もあってまだ意識も戻りませんし、内臓損傷もまだ経過観察ですし、感染症の心配もあります」
ライナスが言うと、ブライアンとスーザンは揃ってため息を吐く。
「どうしてレイラがこんな目に合わないといけないのかしら」
「スーザン」
「母上…」
「助かってくれるなら…顔に傷が残っても、例え歩けなくなっても、記憶がなくなったって、何でも良いのよ…」
「そうだな。スーザン」
ブライアンはスーザンの肩を抱き、手を握った。
「人が落ちたぞ!」
男子生徒の声に、周囲が騒めき始めた。
「…え?」
ライアンは思わずその場に立ち竦んだ。
「何?カイル殿下はどこへ行ったの?」
転んで膝をついたまま、アリスが言う。カイルは一足先に走り出して、すでに姿は見えなくなっていた。
「今『レイラ』って…サイラスの声が…したような…?」
「え?レイラ様!?どこ!?」
アリスは慌てて立ち上がろうとするが
「痛っ!」
と言ってまた膝をついた。
「どうしました?アリス」
「足を挫いたわ!レイラ様のせいよ!」
「は?」
かわいいアリス。でも今、アリスの言う事がさっぱり分からない。いや、それどころじゃないんじゃないか?
「アリス、ちょっと今…」
「ハミルトン先生!レイラ様はどこですか!?私どうしても聞きたい事があるのに」
「それどころじゃない」
「それどころじゃないって何ですか!?先生!」
アリスはライアンの言葉に被せる様に言ってライアンの服の袖を掴む。
「だから…あ、フォスターくん!セイモアくん!」
ライアンは、横を通り過ぎようとしていた生徒会副会長のアンソニー・フォスターと会計のサミュエル・セイモアを呼び止める。
「先生」
「…状況は分からないけど、役員とサポートメンバーで会場に明かりをつけて。それからあまり騒ぎにならないように閉会と解散を。フォスターくんに任せるから」
「はい。分かりました」
アンソニーは踵を返、そうとして、ライアンを見る。
「先生は…早く行かれた方が良いですよ」
「……」
やっぱりそうか。人が落ちたと言うのは…
「ほら、アリス、足が痛いなら救護室へ行こう」
アンソニーはそのまま去って行き、サミュエルがアリスに手を差し出すが、アリスはプイッとそっぽを向いた。
「私はハミルトン先生の手紙についてレイラ様に聞きたい事があるんです」
「アリス、それは今は無理だ」
サミュエルが言うと
「何で?」
アリスはライアンの服の袖を掴んだままきょとんとして言った。
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「カイルに会ったら絶対に殴ってやろうと思っていたんだ」
「私もです。絶対に拳固で」
王宮の客間でレイラの父ブライアンが憮然として言うと、スーザンも握り拳で頷いた。
「父上、母上、王宮で物騒な事を言うのはやめてください」
ライナスは苦笑いを浮かべる。
ブライアンとスーザンはレイラが大怪我をしたとの知らせを受け、領地から馬車を不休で走らせ、二日かかる行程を一日半で王都に到着した。それでもすでに翌々日の夜だ。
「まあ、王太子殿下と妃殿下がもう先に殴ったと聞いたから、今は勘弁してやるがな」
「王太子殿下は平手で、妃殿下は拳固でって聞いたから少しスッキリしたわ。それにしても、レイラを放って他の女にうつつを抜かしてた癖に、今は『レイラから離れたくない』なんて、カイル殿下もよく判らない子ねぇ」
まあ…カイルにとっては本当に、アリス嬢に惹かれたのも、レイラを失いそうなのも「夢か現か」って状態だろうからな。
強制力とか転生者とか、あの場で聞いていた俺さえ俄に信じられないくらいだし。
ライナスは不思議そうな表情のスーザンを見ながら思う。
カイルは、レイラが医療棟の二階の病室に移されてから、ずっと病室に篭っている。王太子である父と妃の母に左右それぞれの頬を殴られ、赤く腫れたままだ。
「まだまだ予断を許さないのよね…」
ソファに座って俯くスーザン。
「ええ。強い鎮痛剤が投与されている関係もあってまだ意識も戻りませんし、内臓損傷もまだ経過観察ですし、感染症の心配もあります」
ライナスが言うと、ブライアンとスーザンは揃ってため息を吐く。
「どうしてレイラがこんな目に合わないといけないのかしら」
「スーザン」
「母上…」
「助かってくれるなら…顔に傷が残っても、例え歩けなくなっても、記憶がなくなったって、何でも良いのよ…」
「そうだな。スーザン」
ブライアンはスーザンの肩を抱き、手を握った。
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