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「生徒会役員五名中四名が、一人の男爵令嬢に好意を抱いていたと。当時の第二王子は生徒会役員の中でただ一人、その男爵令嬢に好意を抱いていなかったと言う結論に達しました。あ、生徒会顧問の教師を含めれば、生徒会の役員関係者六名中五名ですね」
「それは…」
キャロラインの言葉にカイルは呆然と呟く。
生徒会役員と顧問の教師が揃って一人の令嬢に好意を持つ。
この、状況は。
「今の状況に酷似してますよね?」
キャロラインは口角を上げる。眼鏡がキラリと光った気がした。
「私は、この状況を引き起こしたのが『強制力』だと考えております」
「キャロライン嬢、その『強制力』とは何だ?何故そんな物が働く?」
サイラスが言うと、キャロラインは小首を傾げた。
「強制力とは、人物の感情や物事の情勢などが、当人の真意や状況に関わらず、ある方向へと動く事、と私は定義しております。強制力が働く理由については未だ解明できておりませんが…」
「当人の真意や状況に関わらず、か」
サイラスが顎に手を当てて言うと、キャロラインは
「そうです。当人の感情さえも強制的に動く…動かされるんです」
そう、強く言った。
「感情さえも?」
カイルが呟く。
「ええ。カイル殿下は、アリス・ヴィーナス本人に惹かれたのではなく、強制力により彼女を好きだと思い込まされている状態である。と考えます」
「そんな…」
アリスを好きだと思ったのも、かわいい、愛しいと思ったのも、強制力?
感情が何かによって動かされる…
カイルの背筋に悪寒が走る。
もし、本当にそんな事があるなら、自分の感情でさえ信じられないと言う事か。
「…カイル殿下、今現在アリス・ヴィーナスをどうお思いですか?」
キャロラインが上目遣いにカイルを見つめる。
「……」
カイルは目を瞑り、アリスの事を考える。
笑顔も、泣き顔も、上手く思い出せなかった。
それよりも…
「…今は…レイラの事しか考えられない」
膝の上の手をギュッと握る。
「ええ。今現在、カイル殿下への強制力は排除されていると私は考えます」
「……」
「ただ今はレイラちゃんが…こんな状況なので、カイル殿下の本来の感情が強く出ているだけなのかも知れません。次に彼女に会った時どうなるのかは、その時でないと判らないと思います」
「…判らない…のか…」
レイラ以外の事など考えたくもないのに。
「もしも、次に彼女に会って、彼女を好きだと思ったら…」
キャロラインはポケットから小さなメモ用紙とペンを取り出してサラサラと文字を書いた。
「この言葉を思い出してください」
カイルにメモ用紙を差し出す。
「分かった」
【自身の感情を疑え】と記された紙を、カイルは大事そうに胸ポケットへと入れた。
-----
「先程、状況が酷似していると言いましたが、相違点としては『その令嬢に好意を持たなかった人物』が第二王子ではない、と言う処なんですけど」
何故、第二王子…俺ではなかったんだ?
カイルは膝の上の手をますます強く握る。
「…それは、もしかしてイアンか?」
カイルはイアンの様子を思い出す。イアンはアリスに特別な感情は持っていなさそうだったし、夏期休暇にアリスと共に生徒会役員を王家の領地に招待したが、イアンだけは来なかったのだ。
そうカイルが言うと、キャロラインは
「そうです。イアン・マクラウドは、本来は他の役員と同じように彼女を好きになる筈だったんだと思います。それが、そうはなっていない」
と言った。
「何故イアンには強制力が働いていないと?」
カイルがそう言うとキャロラインは肩を竦めた。
「ここからは本人に確認しないと確信が持てない、所謂推測になるのですが…」
キャロラインは、令嬢に好意を持たなかった第二王子が、婚約者と結婚する前、王籍に残るか、臣籍降下するかが議題となった議会での発言を取り上げる。
「私とリザには宿縁がある」
宿縁とは前世からの因縁という事だ。
そして「リザに前世の記憶がある」と言う事は、キャロラインの高祖母の日記で確認している。
キャロラインは第二王子は前世の記憶がある「生まれ変わり」「転生者」であろうと言った。
そして、その「生まれ変わり」や「転生者」と呼ばれる者には強制力が働かないのではないか、と。
「議会の議事録まで読んだのか?」
ライアンが言うと、キャロラインはライアンを見ながら笑う。
「文字があれば何でも。ライアンはよく知ってるでしょ?」
「…キャロライン嬢、その『転生者』とはそんなに存在する物なのか?」
サイラスが驚愕の表情で言った。
「生徒会役員五名中四名が、一人の男爵令嬢に好意を抱いていたと。当時の第二王子は生徒会役員の中でただ一人、その男爵令嬢に好意を抱いていなかったと言う結論に達しました。あ、生徒会顧問の教師を含めれば、生徒会の役員関係者六名中五名ですね」
「それは…」
キャロラインの言葉にカイルは呆然と呟く。
生徒会役員と顧問の教師が揃って一人の令嬢に好意を持つ。
この、状況は。
「今の状況に酷似してますよね?」
キャロラインは口角を上げる。眼鏡がキラリと光った気がした。
「私は、この状況を引き起こしたのが『強制力』だと考えております」
「キャロライン嬢、その『強制力』とは何だ?何故そんな物が働く?」
サイラスが言うと、キャロラインは小首を傾げた。
「強制力とは、人物の感情や物事の情勢などが、当人の真意や状況に関わらず、ある方向へと動く事、と私は定義しております。強制力が働く理由については未だ解明できておりませんが…」
「当人の真意や状況に関わらず、か」
サイラスが顎に手を当てて言うと、キャロラインは
「そうです。当人の感情さえも強制的に動く…動かされるんです」
そう、強く言った。
「感情さえも?」
カイルが呟く。
「ええ。カイル殿下は、アリス・ヴィーナス本人に惹かれたのではなく、強制力により彼女を好きだと思い込まされている状態である。と考えます」
「そんな…」
アリスを好きだと思ったのも、かわいい、愛しいと思ったのも、強制力?
感情が何かによって動かされる…
カイルの背筋に悪寒が走る。
もし、本当にそんな事があるなら、自分の感情でさえ信じられないと言う事か。
「…カイル殿下、今現在アリス・ヴィーナスをどうお思いですか?」
キャロラインが上目遣いにカイルを見つめる。
「……」
カイルは目を瞑り、アリスの事を考える。
笑顔も、泣き顔も、上手く思い出せなかった。
それよりも…
「…今は…レイラの事しか考えられない」
膝の上の手をギュッと握る。
「ええ。今現在、カイル殿下への強制力は排除されていると私は考えます」
「……」
「ただ今はレイラちゃんが…こんな状況なので、カイル殿下の本来の感情が強く出ているだけなのかも知れません。次に彼女に会った時どうなるのかは、その時でないと判らないと思います」
「…判らない…のか…」
レイラ以外の事など考えたくもないのに。
「もしも、次に彼女に会って、彼女を好きだと思ったら…」
キャロラインはポケットから小さなメモ用紙とペンを取り出してサラサラと文字を書いた。
「この言葉を思い出してください」
カイルにメモ用紙を差し出す。
「分かった」
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「先程、状況が酷似していると言いましたが、相違点としては『その令嬢に好意を持たなかった人物』が第二王子ではない、と言う処なんですけど」
何故、第二王子…俺ではなかったんだ?
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「…それは、もしかしてイアンか?」
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そうカイルが言うと、キャロラインは
「そうです。イアン・マクラウドは、本来は他の役員と同じように彼女を好きになる筈だったんだと思います。それが、そうはなっていない」
と言った。
「何故イアンには強制力が働いていないと?」
カイルがそう言うとキャロラインは肩を竦めた。
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キャロラインは、令嬢に好意を持たなかった第二王子が、婚約者と結婚する前、王籍に残るか、臣籍降下するかが議題となった議会での発言を取り上げる。
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そして、その「生まれ変わり」や「転生者」と呼ばれる者には強制力が働かないのではないか、と。
「議会の議事録まで読んだのか?」
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「文字があれば何でも。ライアンはよく知ってるでしょ?」
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