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カイルが階段を駆け降り中庭に出ると、人集りができていて、その中にサイラスが膝をついている姿が見えた。
「レイラ…」
カイルが近寄ろうとすると
「来るな!」
と俯いたままのサイラスが叫んだ。
「…っ」
担架を持つ人が走って来る。
「頭を動かすな」
「足を持って」
色々な声がして、人集りがゆっくりと移動を始める。
少し離れた所に立ち尽くすカイル。人集りの隙間から担架から溢れた金の髪の毛が見えた。
「レイラ…」
人集りに着いて歩き出そうとしたカイルの手首をサイラスが掴んだ。
「…あに…うえ」
「お前にレイラを心配する資格などない」
サイラスはカイルを睨むと、カイルの手首を離し、人集りに着いて校舎へと入って行った。
レイラは生きているのか?
もし、レイラが死んでしまったら…
カイルはふらふらとさっきまで人集りのあった場所へと行く。
芝生にべっとりと血が付着していて小さな血溜まりがあった。
「レイラ…」
カイルは膝をつくと、そのまま上を見上げる。
三階建の校舎が、とてつもなく高く見えた。
あんな所から…
ああ、レイラ。どうか。どうか…
カイルは血溜まりにキスするように顔を埋めた。
-----
レイラは応急処置の後、王城の医療棟へと運ばれ、本格的な処置を受ける事となった。
処置室に近いベンチにサイラスと、たまたま王都にある妻の実家を訪れていたレイラの兄ライナスが座っている。
処置室のドアが見える一番遠いベンチにカイルが膝に顔を埋めるようにして座っていた。
「サイラス、兄上、レイラは…」
医療棟の入口からライアンが入って来てサイラスの前に立つ。
サイラスはライアンを睨んだ。
「…妹よりあんな女が大事なのか?」
「何を…」
「今ライナス兄さんに聞いた。あの女生徒と知り合ってからライアンはレイラと会っていなかったんだろう?領地には長期休暇にしか帰れないレイラを寮に一人放っておいた。今も、レイラの元へ駆け付けるより、あの女を宥める方が大事だったんだろう?」
「うっ…」
「そこで項垂れてる俺の弟もだ。そんなにあの女が大事ならこんな所へ居ないであの女の元へ行けば良い。お前たちにレイラを心配する資格などない。そうだろう?」
「サイラス殿下」
ライナスが静かにサイラスを嗜める。
「…っ」
サイラスは悔し気に唇を噛むと、俯いて言う。
「ライアン、カイルと一緒に座っていろ。そしてカイルの顔を拭け!」
「…顔?」
ライアンはカイルの所へ行くと隣に座る。
「カイル殿下、顔を上げてください」
「……」
膝に顔を埋めたまま、カイルは動かない。ライアンは小さくため息を吐くと
「…カイル、顔を上げろ」
と幼なじみの兄貴分として言った。
ピクリとカイルの肩が揺れる。
ライアンはカイルの肩を掴み、強引に顔を上げさせた。
「うわ!」
カイルの顔を見て驚きの声を上げる。カイルの顔と髪には血糊がべったりと付着していた。
「その顔のまま王城まで歩いて来たらしい」
サイラスが呆れたように言う。
「濡らした布を持って来る」
ライアンが立ち上がろうとすると、カイルがライアンの腕を掴む。
「…このままで」
「いや、そのままじゃカイルの方が怪我人だと思われるだろ?」
「だって…これもレイラだ」
小さな声で呟く。
この血もレイラの一部だから、自分の身から離したくないとカイルは言うのだ。
「そんなにレイラの事を好きな癖に、何故…」
サイラスがため息混じりに言う。
「それはカイル殿下のせいではありません」
女性の声がして、ライアンが勢い良く振り向く。
「キャロライン!」
キャロラインが医療棟の入口から入って来る。
「あら、ライアン。いたの?」
「…いるだろ。普通」
キャロラインはつかつかと廊下を進むと、サイラスの前で立ち止まり礼を取る。
「お久しぶりです。サイラス殿下、ライナス様」
「キャロライン嬢。久しいな」
「こんな夜中にどうしてここに?」
「私は、ライアンとは先日お別れしましたが、今日はただカイル殿下と、ついでにライアンに真実をお伝えしたくて…レイラちゃんも心配ですし、このような場に押し掛けて申し訳ありません」
「真実?」
サイラスが言うと、キャロラインは頷いた。
「…あの手紙か?」
訝し気なライアンを一瞥するとキャロラインはカイルの前に移動し、しゃがみ込むと、持っていた手巾をカイルの頬に当てる。
「…拭かなくて良い」
「いいえ。レイラちゃんはきっと助かります。カイル殿下、そんな顔ではレイラちゃんに会えませんよ」
「助かる…」
「そうです。カイル殿下はレイラちゃんの王子様なんですから、いつでも格好良い王子でいてください」
キャロラインはそう言ってニコリと笑う。
「…レイラ」
カイルは唇を震わせて涙を零した。
カイルが階段を駆け降り中庭に出ると、人集りができていて、その中にサイラスが膝をついている姿が見えた。
「レイラ…」
カイルが近寄ろうとすると
「来るな!」
と俯いたままのサイラスが叫んだ。
「…っ」
担架を持つ人が走って来る。
「頭を動かすな」
「足を持って」
色々な声がして、人集りがゆっくりと移動を始める。
少し離れた所に立ち尽くすカイル。人集りの隙間から担架から溢れた金の髪の毛が見えた。
「レイラ…」
人集りに着いて歩き出そうとしたカイルの手首をサイラスが掴んだ。
「…あに…うえ」
「お前にレイラを心配する資格などない」
サイラスはカイルを睨むと、カイルの手首を離し、人集りに着いて校舎へと入って行った。
レイラは生きているのか?
もし、レイラが死んでしまったら…
カイルはふらふらとさっきまで人集りのあった場所へと行く。
芝生にべっとりと血が付着していて小さな血溜まりがあった。
「レイラ…」
カイルは膝をつくと、そのまま上を見上げる。
三階建の校舎が、とてつもなく高く見えた。
あんな所から…
ああ、レイラ。どうか。どうか…
カイルは血溜まりにキスするように顔を埋めた。
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レイラは応急処置の後、王城の医療棟へと運ばれ、本格的な処置を受ける事となった。
処置室に近いベンチにサイラスと、たまたま王都にある妻の実家を訪れていたレイラの兄ライナスが座っている。
処置室のドアが見える一番遠いベンチにカイルが膝に顔を埋めるようにして座っていた。
「サイラス、兄上、レイラは…」
医療棟の入口からライアンが入って来てサイラスの前に立つ。
サイラスはライアンを睨んだ。
「…妹よりあんな女が大事なのか?」
「何を…」
「今ライナス兄さんに聞いた。あの女生徒と知り合ってからライアンはレイラと会っていなかったんだろう?領地には長期休暇にしか帰れないレイラを寮に一人放っておいた。今も、レイラの元へ駆け付けるより、あの女を宥める方が大事だったんだろう?」
「うっ…」
「そこで項垂れてる俺の弟もだ。そんなにあの女が大事ならこんな所へ居ないであの女の元へ行けば良い。お前たちにレイラを心配する資格などない。そうだろう?」
「サイラス殿下」
ライナスが静かにサイラスを嗜める。
「…っ」
サイラスは悔し気に唇を噛むと、俯いて言う。
「ライアン、カイルと一緒に座っていろ。そしてカイルの顔を拭け!」
「…顔?」
ライアンはカイルの所へ行くと隣に座る。
「カイル殿下、顔を上げてください」
「……」
膝に顔を埋めたまま、カイルは動かない。ライアンは小さくため息を吐くと
「…カイル、顔を上げろ」
と幼なじみの兄貴分として言った。
ピクリとカイルの肩が揺れる。
ライアンはカイルの肩を掴み、強引に顔を上げさせた。
「うわ!」
カイルの顔を見て驚きの声を上げる。カイルの顔と髪には血糊がべったりと付着していた。
「その顔のまま王城まで歩いて来たらしい」
サイラスが呆れたように言う。
「濡らした布を持って来る」
ライアンが立ち上がろうとすると、カイルがライアンの腕を掴む。
「…このままで」
「いや、そのままじゃカイルの方が怪我人だと思われるだろ?」
「だって…これもレイラだ」
小さな声で呟く。
この血もレイラの一部だから、自分の身から離したくないとカイルは言うのだ。
「そんなにレイラの事を好きな癖に、何故…」
サイラスがため息混じりに言う。
「それはカイル殿下のせいではありません」
女性の声がして、ライアンが勢い良く振り向く。
「キャロライン!」
キャロラインが医療棟の入口から入って来る。
「あら、ライアン。いたの?」
「…いるだろ。普通」
キャロラインはつかつかと廊下を進むと、サイラスの前で立ち止まり礼を取る。
「お久しぶりです。サイラス殿下、ライナス様」
「キャロライン嬢。久しいな」
「こんな夜中にどうしてここに?」
「私は、ライアンとは先日お別れしましたが、今日はただカイル殿下と、ついでにライアンに真実をお伝えしたくて…レイラちゃんも心配ですし、このような場に押し掛けて申し訳ありません」
「真実?」
サイラスが言うと、キャロラインは頷いた。
「…あの手紙か?」
訝し気なライアンを一瞥するとキャロラインはカイルの前に移動し、しゃがみ込むと、持っていた手巾をカイルの頬に当てる。
「…拭かなくて良い」
「いいえ。レイラちゃんはきっと助かります。カイル殿下、そんな顔ではレイラちゃんに会えませんよ」
「助かる…」
「そうです。カイル殿下はレイラちゃんの王子様なんですから、いつでも格好良い王子でいてください」
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