続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
上 下
22 / 57

21

しおりを挟む
21

「惚れ薬…?」
 教会の礼拝堂の長椅子で隣同士に座る女性二人。
 右に座る女性が小さな鞄から液体の入った小瓶を取り出すと、左に座る女性の手の平に乗せた。
「そうよ。隣国から仕入れた物よ。髪の毛を七日間漬け込んだ後、一、二滴飲み物に混ぜ込むと、それを飲んだ人が髪の主を好きになるんですって」
「効くの?」
 手の平に乗せられた小瓶をしげしげと眺める女性。
「効くって評判だけど、どうかしらね?身近ではまだ誰も試してないから判らないわ」
「試さないの?」
「…私はもう良いわ」
 女性は肩を竦める。
「もう良いの?」
「うん。この薬を仕入れる時は必死だったけど、段々馬鹿馬鹿しくしくなって来ちゃって。だからこれ、あげるわ」
「え?」
「貴女は…良くないんでしょう?だから、あげる」
「……」
 女性は手の平に乗った小瓶をギュッと握った。

-----

「天体観測?」
 放課後、教室を出たレイラとミシェルに駆け寄って来たアリス。アリスの後ろからモニカが「廊下を走らないで」と言いながら早足で着いて来る。
「そうなんです。レイラ様もミシェル様もぜひ来てください!」
 アリスが嬉しそうに言う。
 レイラとミシェルは顔を見合わせた。
 何でアリスは私に絡んで来るのかしら。やっぱりこっちからアリスを苛めに行かないから?これも強制力の一種?
「アリス様『来てください』じゃなくて『いらしてください』か『おいでください』でしょ!?いえ、そもそもこれは生徒会の主催でアリス様は参加者なんですから『おいでください』もおかしいんです」
「モニカ様、相変わらず細かいですね」
「貴女がいつまで経っても言葉使いを改められないから教えてあげてるんじゃないの」
「頼んでません」
 相変わらずねえ。この二人。
 モニカって何だかんだ言いつつ、もうアリスの「友達」なんじゃないの?
「生徒会が主催でどうして天体観測なの?」
 ミシェルが問うとアリスは言う。
「あ、それはサイラス殿下なんです」
「え?」
「ミシェル様は知ってますよね?サイラス殿下が星が好きな事」
「……」
 アリスの言葉にミシェルは言葉に詰まる。
「この間、ハミルトン先生に王宮に連れて行ってもらった時、サイラス殿下とカイル殿下とお茶会をしまして、そこでサイラス殿下が『星を眺めるのが好きだ』と言われたんで、秋期は学園でも行事があまりないし、寒い時期の方が星空も綺麗に見えますし、じゃあ希望者で天体観測会をやりましょうと話がまとまったんです」
 楽しそうにアリスは言う。
「そう。でも私は星には興味がないから行かないわ」
 にっこり笑ってミシェルが言うと、アリスは「ええ~」と言った。
「サイラス殿下も来られるんです!なのに婚約者のミシェル様がいないだなんて!」
「殿下はそんな事気にされないわよ」
「気にしますよ!婚約者ですよ?ね!来てください!ミシェル様!サイラス殿下は星座早見板も持ってて、神話とかも詳しくて色々説明してくださるんですから!」
 アリスが言い募る度、ミシェルは真顔になる。
 つまり、それはアリスがサイラスから色々説明を受けたと言う事か。
「分かったわ。行くから」
 ミシェルがため息混じりに言うと、アリスは目を輝かせてレイラを見た。
「レイラ様も!」
 ええ~生徒会主催でサイラス殿下も来られるならカイルがいない訳ないし、正直遠慮したいなぁ。
 そう思うレイラの手をミシェルが握って来る。
 あ、一緒に行ってって事ね。これ。
 
「ごめんね。レイラ。行きたくなかったのに」
 寮への帰り道、ミシェルはレイラに言う。
「いいのよ。私は端っこの方で星だけ楽しんでおくわ」
「…レイラは知ってたのよね?サイラス殿下が星が好きって事」
「まあ…私が知ってるのは星を見るのが好きって言う事だけで、星座板をお持ちで神話に詳しいだなんて初耳よ」
「そう…それにしてもアリス様がレイラを誘うのはどういう心理なのかしら?カイル殿下の婚約者なのに」
「…正直アリス様の事はよく分からないわ」
「理解不能ね…」
「そうね…」
 レイラとミシェルは同時にため息を吐いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

処理中です...