13 / 57
12
しおりを挟む
12
「レイラ…泣いているのか?」
中庭のベンチに座るレイラを見つけ、第一王子サイラスがレイラに駆け寄って来る。
「サ…サイラス殿下。どうしてここに?」
レイラは慌てて手で涙を拭う。
「擦るな。赤くなるぞ」
サイラスはレイラの隣に座りながらレイラの手を押さえた。
ポケットからハンカチを取り出すと、レイラの手に持たせる。
「…ありがとうございます」
レイラはそのハンカチを目に押し当てた。
「今日はエスコートは要らないとミシェルに言われたが、やはり婚約者だから…少し様子を見に来たんだ」
「そうなんですね」
「レイラは?」
「え?」
「こんな所で一人で泣いているだなんて…」
「…いえ、あの…頭で理解できても、感情は別なんだなと改めて実感していただけです」
「カイルと、アリス嬢の事か?」
「……」
「そうなんだな?」
サイラスはレイラの両方の二の腕を押さえ、レイラの顔を覗き込んだ。
「サイラス殿下?」
「…カイルとの婚約、解消してはどうだ?」
「え?」
「カイルはアリス嬢に傾注している。アリス嬢を妃に、といつか言い出すかも知れない」
傾注…一つのことに精神などを集中する事、だっけ。そうね、その通りだわ。
「伯爵家のこちらから王子に婚約解消を申し出るなんてできません」
「そんなもの。父上や母上が事情を知ればどうにでもしてくれる。俺も口添えするし」
真剣な表情のサイラスに、レイラは戸惑う。
「…何故そんなに言ってくださるんですか?」
目を瞬かせるレイラに、サイラスは俯いた。
「レイラが苦しそうなのは見たくない。…好きだから」
「え?」
「俺は昔からレイラが好きなんだ。ああ、もちろんだからと言ってどうこうするつもりはない。俺にも婚約者がいるし。ただ…俺はレイラに笑っていて欲しいだけだ。レイラを泣かせる者がいるなら、目の前から取り除いてやりたい」
サイラス殿下が、私を?
ガサッと草を踏む音がして、レイラの視線の先にカイルの姿が映る。
「…何をしている?」
「カイル殿下」
「カイル」
「兄上と何をしているのかと聞いている。レイラ」
カイルの目には明らかな怒りが浮かんでいた。ゆっくりカイルはレイラたちに近付いて来る。
こんな時にはちゃんと名前を呼ぶんだ…
レイラは困惑しながらカイルを見る。
「…カイルにレイラを責める資格があるか?」
サイラスはレイラを庇うようにレイラの前に立った。
「アリス嬢に傾倒し、レイラを蔑ろにしているのはお前だろう?カイル」
「やはりレイラが兄上を誑かしているのか?」
カイルはサイラス越しにレイラを見ている。冷たい怒りが浮かんだ青紫の瞳。
「なっ。そんな事しないわ!」
「どうだか。ハミルトンの娘はやはり王太子妃を目指して第二王子から第一王子に乗り換えようと画策しているんじゃないのか?」
ぷつん。
カイルの物言いに、レイラの中の何かが切れた。
ハミルトン家が王家に近付くのを良しとしない貴族を慮って、やはりハミルトン家はと言われないように、万一にでもヒロインを苛めているような誤解を与えないように…カイルの心変わりもゲームの強制力だから仕方ないと責めないようにして来たのに!
「…カイルの馬鹿」
呟くように言う。
「何?」
「レイラ?」
レイラはキッとカイルを睨んだ。
「カイルの馬鹿!カイルなんか嫌い!そんなに私が嫌いでアリスが好きなら卒業パーティーなんて待たずにさっさと婚約破棄すれば良いじゃない!」
「…嫌い?」
カイルが驚愕の表情でレイラを見ている。
「カイルなんか大嫌いよ!」
レイラはそう言い捨てると、寮に向かって駆け出した。
-----
「ふっ。あはははは」
レイラが走り去った中庭で暫く呆然とレイラの去った方向を見ていたカイルとサイラス。
すると、サイラスが急に笑い出した。
「何がおかしい?兄上」
カイルが憮然としてサイラスを見る。
「良かったじゃないか。最後にレイラに呼び捨てで名を呼んで貰えて。以前『レイラが昔みたいにカイルと呼んでくれない』と愚痴を言っていたよな?」
確かに俺はレイラに敬称も敬語も要らないと言い続けていた。さっきのレイラは敬称も敬語もなかったが…
…最後に?
「カイルお前は、アリス嬢を好きだと言いながらも、レイラに『嫌い』と言われるのもショックなんだな」
「は?」
「失恋した男みたいな表情してるぞ、お前」
「レイラ…泣いているのか?」
中庭のベンチに座るレイラを見つけ、第一王子サイラスがレイラに駆け寄って来る。
「サ…サイラス殿下。どうしてここに?」
レイラは慌てて手で涙を拭う。
「擦るな。赤くなるぞ」
サイラスはレイラの隣に座りながらレイラの手を押さえた。
ポケットからハンカチを取り出すと、レイラの手に持たせる。
「…ありがとうございます」
レイラはそのハンカチを目に押し当てた。
「今日はエスコートは要らないとミシェルに言われたが、やはり婚約者だから…少し様子を見に来たんだ」
「そうなんですね」
「レイラは?」
「え?」
「こんな所で一人で泣いているだなんて…」
「…いえ、あの…頭で理解できても、感情は別なんだなと改めて実感していただけです」
「カイルと、アリス嬢の事か?」
「……」
「そうなんだな?」
サイラスはレイラの両方の二の腕を押さえ、レイラの顔を覗き込んだ。
「サイラス殿下?」
「…カイルとの婚約、解消してはどうだ?」
「え?」
「カイルはアリス嬢に傾注している。アリス嬢を妃に、といつか言い出すかも知れない」
傾注…一つのことに精神などを集中する事、だっけ。そうね、その通りだわ。
「伯爵家のこちらから王子に婚約解消を申し出るなんてできません」
「そんなもの。父上や母上が事情を知ればどうにでもしてくれる。俺も口添えするし」
真剣な表情のサイラスに、レイラは戸惑う。
「…何故そんなに言ってくださるんですか?」
目を瞬かせるレイラに、サイラスは俯いた。
「レイラが苦しそうなのは見たくない。…好きだから」
「え?」
「俺は昔からレイラが好きなんだ。ああ、もちろんだからと言ってどうこうするつもりはない。俺にも婚約者がいるし。ただ…俺はレイラに笑っていて欲しいだけだ。レイラを泣かせる者がいるなら、目の前から取り除いてやりたい」
サイラス殿下が、私を?
ガサッと草を踏む音がして、レイラの視線の先にカイルの姿が映る。
「…何をしている?」
「カイル殿下」
「カイル」
「兄上と何をしているのかと聞いている。レイラ」
カイルの目には明らかな怒りが浮かんでいた。ゆっくりカイルはレイラたちに近付いて来る。
こんな時にはちゃんと名前を呼ぶんだ…
レイラは困惑しながらカイルを見る。
「…カイルにレイラを責める資格があるか?」
サイラスはレイラを庇うようにレイラの前に立った。
「アリス嬢に傾倒し、レイラを蔑ろにしているのはお前だろう?カイル」
「やはりレイラが兄上を誑かしているのか?」
カイルはサイラス越しにレイラを見ている。冷たい怒りが浮かんだ青紫の瞳。
「なっ。そんな事しないわ!」
「どうだか。ハミルトンの娘はやはり王太子妃を目指して第二王子から第一王子に乗り換えようと画策しているんじゃないのか?」
ぷつん。
カイルの物言いに、レイラの中の何かが切れた。
ハミルトン家が王家に近付くのを良しとしない貴族を慮って、やはりハミルトン家はと言われないように、万一にでもヒロインを苛めているような誤解を与えないように…カイルの心変わりもゲームの強制力だから仕方ないと責めないようにして来たのに!
「…カイルの馬鹿」
呟くように言う。
「何?」
「レイラ?」
レイラはキッとカイルを睨んだ。
「カイルの馬鹿!カイルなんか嫌い!そんなに私が嫌いでアリスが好きなら卒業パーティーなんて待たずにさっさと婚約破棄すれば良いじゃない!」
「…嫌い?」
カイルが驚愕の表情でレイラを見ている。
「カイルなんか大嫌いよ!」
レイラはそう言い捨てると、寮に向かって駆け出した。
-----
「ふっ。あはははは」
レイラが走り去った中庭で暫く呆然とレイラの去った方向を見ていたカイルとサイラス。
すると、サイラスが急に笑い出した。
「何がおかしい?兄上」
カイルが憮然としてサイラスを見る。
「良かったじゃないか。最後にレイラに呼び捨てで名を呼んで貰えて。以前『レイラが昔みたいにカイルと呼んでくれない』と愚痴を言っていたよな?」
確かに俺はレイラに敬称も敬語も要らないと言い続けていた。さっきのレイラは敬称も敬語もなかったが…
…最後に?
「カイルお前は、アリス嬢を好きだと言いながらも、レイラに『嫌い』と言われるのもショックなんだな」
「は?」
「失恋した男みたいな表情してるぞ、お前」
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる