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「え?アリス様が水を掛けられた?」
レイラの寮の部屋でミシェルが頷いて言う。
「ええ。シャロン様とその取り巻きが二階からバケツの水を窓から捨てたら、ちょうど下にアリス様が居られたんですって」
シャロン・ジェイスは二年生の伯爵令嬢で生徒会副会長のアンソニー・フォスターの婚約者だ。
「シャロン様は『たまたまだ』と仰られてるらしいけど、近くにいたアンソニー様とフレディ様がお怒りで、激しい言い争いになったらしいわ」
二階と中庭とで言い合いになったので、多くの生徒がその遣り取りを聞いたらしい。
「それでアリス様は?」
「濡れて泣くアリス様を…カイル殿下が救護室へお連れになったと…」
…ああ、覚えてるわ。このイベント。
ここで、濡れて泣いているアリスを攻略対象者の誰が救護室に連れて行くのか。それがこれまでのヒロインの好感度で決まり、ほぼそのままその攻略対象者とのルートに入って行く重要イベントなのだ。
カイルが、アリスを救護室へ連れて行ったのね。
この救護室で、泣きじゃくるアリスを慰めるカイル。そして二人はここで初めてのキスを……
レイラは思わず俯いて、自分の膝の上の手をギュッと握る。
「レイラ、良いの?」
真剣なミシェルの声に、レイラは顔を上げる。
「え?」
「このまま、カイル殿下がヒロインとくっつくのを指を咥えて見てるつもりなの?」
え?ミシェル、今「ヒロイン」って言った?
「ミシェル?まさか…」
まさかミシェルも、このゲームを知ってるの?
「…私じゃないのよ」
「え?」
「私じゃなくて、転生者はイアンとサイラス殿下よ」
-----
休日にミシェルの家、モーリス公爵家を訪れたレイラの目の前で執事服に身を包んだ黒髪の男性が頭を下げた。
「初めまして。イアン・マクラウドです」
「レイラ・ハミルトンです」
「座って。レイラ。あのね、イアンはご存知の通り、うちの執事の子供で、物心ついた頃からモーリス公爵家で父親と一緒に働いていて、学園を卒業したら嫡男である兄付きの執事になる予定なの。それが五年前位から変な事を言い出してね」
ミシェルがレイラをソファに促しながら言うと、ミシェルの後ろに立ったイアンが眉を顰めた。
「変な事ではないですが…ミシェル様が十二歳でサイラス殿下とご婚約された時に、私が転生者である事を打ち明けました」
イアンには随分幼い頃から前世の記憶があったらしい。だからと言ってモーリス公爵家に仕える身に不満がある訳でもなく、ただたまに「あースマホがあれば!ググればすぐわかるのに」とか「全自動洗濯乾燥機があれば便利だろうな」とか考える位のものだったと言う。
「確かにスマホは欲しいわね」
レイラが言うと、イアンは深く頷いた。
「ですよね」
「スマホって何?そんなに便利なの?」
「「そりゃあもう」」
ミシェルの問いに声を揃えて言うレイラとイアン。ミシェルは苦笑いする。
イアンはコホンと咳払いをすると、話を続けた。
「…前世の姉がスマホで恋愛シミュレーションゲームをしていたんです。それでよく『ちょっとお風呂行って来るから進めといて』などと渡されたりしてまして」
「お姉さんが『恋する生徒会2』をプレイしてたんだ…」
「ええ。それで、ミシェル様がサイラス殿下と婚約するとなった時、ミシェル様、サイラス殿下、弟王子の名前、自分の名前、そしてシチュエーション、聞いた覚えがあるなと気付きました」
「成程。私も前世の事とゲームの事、カイル殿下から婚約の申し出があって思い出したのよ」
「それでね、私もイアンからアリス様がヒロインで攻略対象者がみんなヒロインに恋をするって聞いていたの。もちろんサイラス殿下も」
イアンもヒロインに出会ったら、自分もヒロインに惹かれるんだと思っていた。が、実際出会うと、確かにアリスはかわいいとは思うが、特別な恋心は浮かばなかったのだ。
「つまり、私にはゲームの強制力が働いていないと考えます」
「強制力…」
ゲームの強制力で、攻略対象者たちはヒロインを好きになるのか。だからカイルももうレイラの事など見向きもせず、アリスに夢中なのかとレイラは納得する。
「私は、攻略対象者がヒロインを好きになる強制力と共に、攻略対象者が悪役令嬢を憎む、悪役令嬢がヒロインを憎むと言う強制力もあると推察しています」
と言う事は、今の私はカイルに…憎まれている?
「レイラ様にはヒロインを憎いと言う感情はないように思いますが…いかがですか?」
「そうね。憎くは…ないわ」
「サイモン殿下もヒロインを好きになってないのよ」
ミシェルが言うと、イアンは頷く。
それは、つまり?
「つまり、転生者にはゲームの強制力が働かない、と言う事だと」
「え?アリス様が水を掛けられた?」
レイラの寮の部屋でミシェルが頷いて言う。
「ええ。シャロン様とその取り巻きが二階からバケツの水を窓から捨てたら、ちょうど下にアリス様が居られたんですって」
シャロン・ジェイスは二年生の伯爵令嬢で生徒会副会長のアンソニー・フォスターの婚約者だ。
「シャロン様は『たまたまだ』と仰られてるらしいけど、近くにいたアンソニー様とフレディ様がお怒りで、激しい言い争いになったらしいわ」
二階と中庭とで言い合いになったので、多くの生徒がその遣り取りを聞いたらしい。
「それでアリス様は?」
「濡れて泣くアリス様を…カイル殿下が救護室へお連れになったと…」
…ああ、覚えてるわ。このイベント。
ここで、濡れて泣いているアリスを攻略対象者の誰が救護室に連れて行くのか。それがこれまでのヒロインの好感度で決まり、ほぼそのままその攻略対象者とのルートに入って行く重要イベントなのだ。
カイルが、アリスを救護室へ連れて行ったのね。
この救護室で、泣きじゃくるアリスを慰めるカイル。そして二人はここで初めてのキスを……
レイラは思わず俯いて、自分の膝の上の手をギュッと握る。
「レイラ、良いの?」
真剣なミシェルの声に、レイラは顔を上げる。
「え?」
「このまま、カイル殿下がヒロインとくっつくのを指を咥えて見てるつもりなの?」
え?ミシェル、今「ヒロイン」って言った?
「ミシェル?まさか…」
まさかミシェルも、このゲームを知ってるの?
「…私じゃないのよ」
「え?」
「私じゃなくて、転生者はイアンとサイラス殿下よ」
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「初めまして。イアン・マクラウドです」
「レイラ・ハミルトンです」
「座って。レイラ。あのね、イアンはご存知の通り、うちの執事の子供で、物心ついた頃からモーリス公爵家で父親と一緒に働いていて、学園を卒業したら嫡男である兄付きの執事になる予定なの。それが五年前位から変な事を言い出してね」
ミシェルがレイラをソファに促しながら言うと、ミシェルの後ろに立ったイアンが眉を顰めた。
「変な事ではないですが…ミシェル様が十二歳でサイラス殿下とご婚約された時に、私が転生者である事を打ち明けました」
イアンには随分幼い頃から前世の記憶があったらしい。だからと言ってモーリス公爵家に仕える身に不満がある訳でもなく、ただたまに「あースマホがあれば!ググればすぐわかるのに」とか「全自動洗濯乾燥機があれば便利だろうな」とか考える位のものだったと言う。
「確かにスマホは欲しいわね」
レイラが言うと、イアンは深く頷いた。
「ですよね」
「スマホって何?そんなに便利なの?」
「「そりゃあもう」」
ミシェルの問いに声を揃えて言うレイラとイアン。ミシェルは苦笑いする。
イアンはコホンと咳払いをすると、話を続けた。
「…前世の姉がスマホで恋愛シミュレーションゲームをしていたんです。それでよく『ちょっとお風呂行って来るから進めといて』などと渡されたりしてまして」
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「ええ。それで、ミシェル様がサイラス殿下と婚約するとなった時、ミシェル様、サイラス殿下、弟王子の名前、自分の名前、そしてシチュエーション、聞いた覚えがあるなと気付きました」
「成程。私も前世の事とゲームの事、カイル殿下から婚約の申し出があって思い出したのよ」
「それでね、私もイアンからアリス様がヒロインで攻略対象者がみんなヒロインに恋をするって聞いていたの。もちろんサイラス殿下も」
イアンもヒロインに出会ったら、自分もヒロインに惹かれるんだと思っていた。が、実際出会うと、確かにアリスはかわいいとは思うが、特別な恋心は浮かばなかったのだ。
「つまり、私にはゲームの強制力が働いていないと考えます」
「強制力…」
ゲームの強制力で、攻略対象者たちはヒロインを好きになるのか。だからカイルももうレイラの事など見向きもせず、アリスに夢中なのかとレイラは納得する。
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と言う事は、今の私はカイルに…憎まれている?
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「そうね。憎くは…ないわ」
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