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「何があったの?」
レイラとミシェルがモニカをソファに座らせてから問うと、モニカは顰めた顔に涙を浮かべながら言う。
「フレディ様が、会ってくれなくなりました。手紙もなくなって、そもそもそうマメな人ではなかったけれど、あの女と知り合ってからは全くです」
「あら、そう言えば私もだわ」
ミシェルがふと思い付いたように言う。
「この間のお休みの日、ハミルトン先生がアリス様を連れて王宮を訪れてサイラス殿下とお会いしたらしいの。そう言えばあれからサイラス殿下から連絡がないわ」
特に深刻な様子でもなく、ミシェルが言うと、モニカはバッとレイラの方を見た。
「ほら!サイラス殿下もです!レイラ様、カイル殿下はどうなんですか?」
「…ないわね」
「やっぱり!」
レイラが小さな声で言うと、モニカは大きな声で言う。
入学式から一カ月。
レイラがカイルを見掛ける事はあっても、カイルがレイラに気付く様子はない。いつでもアリスを見つめている。
「あんなにレイラ様をお好きだったカイル殿下でさえこうだなんて…ハミルトン先生も!あの女に夢中ですよ!」
ライアン・ハミルトンはレイラのすぐ上の兄で、学園の教師であり、生徒会の顧問だ。そして第一王子サイラスの幼なじみであり、友人でもある。
「ライアン兄様にもそういえば新学期になってから会ってないわね」
ハミルトン家は王都に家屋敷を持っていないので、馬車で二日かかる領地には長期休暇にしか帰れない。
休日にも寮にいるレイラを気遣い、王都で一人暮らしをしているライアンが食事に誘ってくれたり、カイルが王宮に招いてくれたりしていたのだが、最近はそれもまったくなかった。
…そうよね。ライアン兄様も攻略対象者だものね。
「ハミルトン先生の恋人はどうされているんですか?」
モニカが言う。
ライアンには学園生の頃からお付き合いをしている恋人がいる。キャロライン・アクランドと言うライアンより一つ歳下、二十歳の史学研究者だ。
「…キャロライン様は、昔の史料さえ読めれば寝食忘れても満足な人だから、兄様から連絡がなくても気付かないかも知れないわ」
「…ハミルトン先生の事好きなんですよね?」
「多分ね」
「……」
キャロライン様でもライアン兄様がアリスに夢中だと知ったら悪役令嬢化してアリスを苛めるのかしら?
ライアンルートはあまりやってないから記憶が薄いけど、部活の後輩を使っていやがらせとかしてたような…でも実際のキャロライン様を知ってると、他の女に夢中な兄様なんてスッパリ切り捨てそうな気がするけどな。
…いいなあ。切り捨てられて。
「でも、男性陣が勝手にアリス様に夢中になっているだけで、アリス様のせいではないのでは?」
ミシェルが言うと、モニカは「うっ」と言葉に詰まる。
「で…でも、婚約者や恋人のいる男性に不用意に近付くなんて、貴族令嬢にあるまじき振る舞いです」
「だけど、一年前までは庶民だった子だから貴族としての振る舞いは身に付いてないでしょうし…」
「だったら!」
モニカはソファから立ち上がると
「だったら!にわか男爵令嬢に貴族令嬢としての振る舞いを教えて差し上げるわ!」
そう叫ぶと、レイラの部屋を出て行った。
-----
休みの日、人が少なくなった寮の食堂でレイラは目の前に座るアリスを見つめていた。
「レイラ様、私、モニカ・カーランド様に呼び出されて『フレディ様に近付かないで』と言われちゃいました…」
眉を下げるアリス。かわいい。ベタにかわいい。
でもアリスにこんなに簡単に話し掛けられる程仲良くなった覚えはないんだけど?と、言うか、まともに喋ったの初めてじゃない?
「私、フレディ様に婚約者がおられるなんて知らなかったし、そんなにフレディ様にだけ特別に近付いたりしてないんですぅ」
「…そう」
私はアリスに何を言えば良いの?ここで変な事言えば私がヒロインを苛めてる事になるんじゃない?
「それに私、特にフレディ様が好きな訳じゃないですし…この間はサミュエル様の恋人のレベッカ様にも『立場を弁えろ』って言われたんですよ。サミュエル様にもこちらから近付いたりしてないのに…酷くないですか?」
「……」
「貴族なんだから弁えろって言われても、私…わからないし…」
俯いて涙ぐむアリス。本人そのつもりはないのかも知れないけど、あざとい。あざとかわいい。
「……」
レイラが黙ってアリスを見つめていると、アリスは顔を上げて軽くレイラを睨んだ。
「私、真剣にレイラ様に相談してるのに、ちっとも聞いてくれないんですね」
「え?」
レイラが瞠目すると、後ろから
「アリス!」
と男性の声がした。
カイルの声だ。
思わず固まるレイラ。アリスは満面の笑みで立ち上がった。
「カイル殿下!」
レイラの横をアリスが小走りに駆け抜ける。
食堂の入口にカイルがいるらしい。
ドッドッドッとレイラの心臓が音を立てた。
…アリスを迎えに来たの?私が寮にいるのを知っててわざわざ?
「レイラ様ったら、私が相談してるのに聞き流すんですよ?」
アリスの声が聞こえる。
カイルが何か言っているが、何を言っているかはレイラには聞こえない。いや、聞きたくなくてレイラは両手で耳を塞いだ。
「行きましょ!」
アリスの声だけがやけに明るく響いた。
「何があったの?」
レイラとミシェルがモニカをソファに座らせてから問うと、モニカは顰めた顔に涙を浮かべながら言う。
「フレディ様が、会ってくれなくなりました。手紙もなくなって、そもそもそうマメな人ではなかったけれど、あの女と知り合ってからは全くです」
「あら、そう言えば私もだわ」
ミシェルがふと思い付いたように言う。
「この間のお休みの日、ハミルトン先生がアリス様を連れて王宮を訪れてサイラス殿下とお会いしたらしいの。そう言えばあれからサイラス殿下から連絡がないわ」
特に深刻な様子でもなく、ミシェルが言うと、モニカはバッとレイラの方を見た。
「ほら!サイラス殿下もです!レイラ様、カイル殿下はどうなんですか?」
「…ないわね」
「やっぱり!」
レイラが小さな声で言うと、モニカは大きな声で言う。
入学式から一カ月。
レイラがカイルを見掛ける事はあっても、カイルがレイラに気付く様子はない。いつでもアリスを見つめている。
「あんなにレイラ様をお好きだったカイル殿下でさえこうだなんて…ハミルトン先生も!あの女に夢中ですよ!」
ライアン・ハミルトンはレイラのすぐ上の兄で、学園の教師であり、生徒会の顧問だ。そして第一王子サイラスの幼なじみであり、友人でもある。
「ライアン兄様にもそういえば新学期になってから会ってないわね」
ハミルトン家は王都に家屋敷を持っていないので、馬車で二日かかる領地には長期休暇にしか帰れない。
休日にも寮にいるレイラを気遣い、王都で一人暮らしをしているライアンが食事に誘ってくれたり、カイルが王宮に招いてくれたりしていたのだが、最近はそれもまったくなかった。
…そうよね。ライアン兄様も攻略対象者だものね。
「ハミルトン先生の恋人はどうされているんですか?」
モニカが言う。
ライアンには学園生の頃からお付き合いをしている恋人がいる。キャロライン・アクランドと言うライアンより一つ歳下、二十歳の史学研究者だ。
「…キャロライン様は、昔の史料さえ読めれば寝食忘れても満足な人だから、兄様から連絡がなくても気付かないかも知れないわ」
「…ハミルトン先生の事好きなんですよね?」
「多分ね」
「……」
キャロライン様でもライアン兄様がアリスに夢中だと知ったら悪役令嬢化してアリスを苛めるのかしら?
ライアンルートはあまりやってないから記憶が薄いけど、部活の後輩を使っていやがらせとかしてたような…でも実際のキャロライン様を知ってると、他の女に夢中な兄様なんてスッパリ切り捨てそうな気がするけどな。
…いいなあ。切り捨てられて。
「でも、男性陣が勝手にアリス様に夢中になっているだけで、アリス様のせいではないのでは?」
ミシェルが言うと、モニカは「うっ」と言葉に詰まる。
「で…でも、婚約者や恋人のいる男性に不用意に近付くなんて、貴族令嬢にあるまじき振る舞いです」
「だけど、一年前までは庶民だった子だから貴族としての振る舞いは身に付いてないでしょうし…」
「だったら!」
モニカはソファから立ち上がると
「だったら!にわか男爵令嬢に貴族令嬢としての振る舞いを教えて差し上げるわ!」
そう叫ぶと、レイラの部屋を出て行った。
-----
休みの日、人が少なくなった寮の食堂でレイラは目の前に座るアリスを見つめていた。
「レイラ様、私、モニカ・カーランド様に呼び出されて『フレディ様に近付かないで』と言われちゃいました…」
眉を下げるアリス。かわいい。ベタにかわいい。
でもアリスにこんなに簡単に話し掛けられる程仲良くなった覚えはないんだけど?と、言うか、まともに喋ったの初めてじゃない?
「私、フレディ様に婚約者がおられるなんて知らなかったし、そんなにフレディ様にだけ特別に近付いたりしてないんですぅ」
「…そう」
私はアリスに何を言えば良いの?ここで変な事言えば私がヒロインを苛めてる事になるんじゃない?
「それに私、特にフレディ様が好きな訳じゃないですし…この間はサミュエル様の恋人のレベッカ様にも『立場を弁えろ』って言われたんですよ。サミュエル様にもこちらから近付いたりしてないのに…酷くないですか?」
「……」
「貴族なんだから弁えろって言われても、私…わからないし…」
俯いて涙ぐむアリス。本人そのつもりはないのかも知れないけど、あざとい。あざとかわいい。
「……」
レイラが黙ってアリスを見つめていると、アリスは顔を上げて軽くレイラを睨んだ。
「私、真剣にレイラ様に相談してるのに、ちっとも聞いてくれないんですね」
「え?」
レイラが瞠目すると、後ろから
「アリス!」
と男性の声がした。
カイルの声だ。
思わず固まるレイラ。アリスは満面の笑みで立ち上がった。
「カイル殿下!」
レイラの横をアリスが小走りに駆け抜ける。
食堂の入口にカイルがいるらしい。
ドッドッドッとレイラの心臓が音を立てた。
…アリスを迎えに来たの?私が寮にいるのを知っててわざわざ?
「レイラ様ったら、私が相談してるのに聞き流すんですよ?」
アリスの声が聞こえる。
カイルが何か言っているが、何を言っているかはレイラには聞こえない。いや、聞きたくなくてレイラは両手で耳を塞いだ。
「行きましょ!」
アリスの声だけがやけに明るく響いた。
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