続編の悪役令嬢にはヒロインをいじめられない事情(わけ)がある。

ねーさん

文字の大きさ
上 下
5 / 57

4

しおりを挟む
4

「いよいよ始まるわね」
 学園の三年生になった新学期の朝、レイラは鏡を見ながら気合いを入れた。
 今日からカイルは四年生、生徒会長となる。入学式での挨拶が初仕事だ。
 生徒会のメンバーはやはりと言うか、当然、レイラの記憶の中のゲームの攻略対象者で間違いなかった。
「早速、今日、この後、ヒロインは攻略対象者たちと出会うんだわ…」
 俯きかけた頭を、レイラはグッと持ち上げた。
「とにかく、私はハミルトン家の娘として、何があってもヒロインを苛めたりする訳にはいかないの!気を引き締めて行くわよ!」
 パンッと両手で自分の頬を叩いて、レイラは寮の部屋を出て行った。

「レイラ」
 寮から出た所でカイルが待っていた。
「おはようございます。カイル殿下。…迎えに来るって言ってましたっけ?」
「いや、言ってないな」
 カイルは真顔で言うと、レイラの手を取り、指を絡めると並んで歩き出した。
 朝から手を繋いで歩くとか…どんだけ甘々なの。
 …でもそれも今日が最後なのかも。
「入学式の挨拶はもう考えたんですか?」
「もちろん」
「入学式の前に生徒会役員が門の所で新入生を出迎えるんでしたっけ?」
「ああ」
 そう、そこでほとんどの新入生を迎え終えて、そろそろ引き上げようかという処に駆け込んで来るのがヒロインだ。
「……」
「どうした?レイラ」
 カイルがレイラの顔を覗き込んで来る。
 …ああ、カッコいい。
 画面で見たのと同じ顔だわ…
「いえ、何でも」
「具合でも悪いのか?」
「そんな事ないです。大丈夫です」
「そうか?無理はするなよ」
「はい殿下。ご心配おかけして…」
「…敬称も敬語もいらないって言うのに」
 不満そうなカイルの表情にレイラは苦笑いする。
「人前で敬称も敬語もなしと言う訳にいきませんし、二人の時と上手く使い分ける自信がないんです」
「俺は人前で敬称敬語なしでも構わないのにな」
「そうはいきませんよ!」

 レイラの教室の近くまで来て、カイルは繋いでいた手を離した。最後かもしれない温もりが名残惜しい。
「…そんな淋しそうな顔をするな。また後でな」
 カイルはレイラの頬を撫でて小さく手を振って生徒会室へと向かった。
 私、淋しそうな顔してた?
「…顔に出るようじゃこの先思いやられるわね」
 レイラは小さく呟いた。

-----

 もう入学式始まってるわね。
 …って事は、カイルはもうヒロインと出逢ったのね…
 レイラは教室の外を見ながら考えた。
「アリス・ヴィーナス男爵令嬢か…」
 レイラはヒロインの名前を呟いた。

 ヒロイン、アリス・ヴィーナスはつい一年前までは王都の下町で暮らしていた市井の娘だった。
 アリスの母は昔メイドとして勤めていた男爵家で当主である男爵に見初められた。愛人として囲われ、生まれたのがアリスとその弟だ。
 一年前、アリスの母が亡くなり、身寄りのないアリスと弟は男爵家に引き取られたのだ。
 天真爛漫でかわいいアリス。
 アリスを優しい眼で見つめるカイルの画を思い出して胸がきゅうっと痛んだ。
「どうしたの?レイラ、難しい顔して」
 レイラの友人ミシェルが横からレイラの顔を覗き込む。
 ミシェルはカイルの兄、第一王子サイラスの婚約者だ。
「入学式始まったな~と思って」
「それで難しい顔になるの?」
 きょとんとしてレイラを見るミシェル。
 ミシェル・モーリスは公爵家の令嬢で、ストレートの黒髪に緑の瞳のたおやかな美人だ。
 ミシェルの婚約者、サイラス殿下も攻略対象者だからなあ。サイラス殿下とアリスが出会ったら、こんなにかわいいミシェルも「悪役令嬢化」するのかしら?
「ちょっとね」
 レイラが言うと、ミシェルは「ふうん?」と言う。そしてミシェルもレイラと同じ様に窓の外に視線を向けた。
「…いよいよね」
 ミシェルが小声で呟く。
「ん?」
「ううん」
 よく聴こえなくてレイラが聞き返すと、ミシェルは小さく首を横に振った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...