上 下
79 / 79

エピローグ

しおりを挟む
エピローグ

 その日、自身の卒業パーティーを迎えたイライザは紫のドレスを身に纏い、寮の部屋の鏡の前に立っていた。
「イライザ様、とっても綺麗です」
 イライザの傍で青いドレス姿のアンリが眼を潤ませている。
「アンリ姉様も綺麗よ。エドモンド殿下の瞳の色のドレス、とても似合ってるわ」
「そ、そうですか?私、とっくに卒業したのにまた学園の卒業パーティーに出る事になるとは思ってもなくて…場違いで変に緊張します」
 アンリは自分の着ているドレスを見下ろしながら言う。
「アンリはエドモンド殿下の婚約者なんだから、場違いなんて事はないわ。堂々としてれば良いの」
 エドモンド殿下が卒業パーティーに出たいからと卒業前にまた短期留学されたのには少し驚いたけど。
 隣国の学園では卒業パーティーのパートナーとして婚約者や恋人を校外から呼ぶ事はできない…と言うか、パートナーはクラス内でのくじ引きで決める、完全なる学校行事で社交界デビューの予行演習みたいな感じらしいから、どうしてもアンリと卒業パーティーに出たかったエドモンド殿下の気持ちもわからなくもないし。

 コンコンと部屋の扉がノックされ、イライザが返事をすると、扉が開き、グレイが姿を現した。
 グレイの紺の夜会服は、もちろんイライザをエスコートするためだ。
「イライザ、とても、とても綺麗だ」
「ありがとうございます。グレイ様も素敵です」
 イライザはこの一年間受けた妃教育の成果を見せ、グレイに優雅な礼を見せる。
 夏にエドモンドが帰国し、グレイとイライザの婚約話は本格的に前進し始めた。議会や教会に承認され、正式に婚約が整ったのはついこの間だ。
 今日の卒業パーティーを終え、明日には第一王子の婚約が全国に公表される事になっている。
「やっとイライザは俺のだと憚らずに言えるようになるから嬉しいよ」
 グレイは嬉しそうに笑った。

「アンリ」
 扉の外からエドモンドが顔を覗かせて、アンリに手招きをする。
「エドモンド殿下」
 アンリがエドモンドの方へ歩み寄ると、エドモンドはアンリの腰に手を回し廊下へと導き出した。
「少し二人きりにしてやろう」
「はい」
 エドモンドは扉を閉めると、アンリの全身を眺める。
「ドレスを…贈っていただきありがとうございます」
 アンリが恥ずかしそうに首を傾げると、エドモンドはニッコリと笑った。
「うん。似合う。とても綺麗だ。俺もアンリを婚約者だとお披露目できて嬉しいよ」

 部屋に残ったグレイはイライザの額に軽くキスをする。
「唇にキスしたいが、口紅が移るから今はお預けか」
「そうですね」
 イライザがクスクスと笑いながら言うと、グレイはイライザを緩く抱きしめた。
「婚儀の日が早く決まると良いのにな」
「はい」
「慣例から言うと早くて一年後くらいか。婚礼の儀の後は妃の顔見せと主要な領主への挨拶を兼ねて国内を巡るんだ。公務でもあるが、実質は新婚旅行だな。イライザが、どこか寄りたい所があるなら融通する。考えておいて」
「新婚旅行…でしたら、私、行きたい所があります」
 イライザがグレイを見上げながら言うと、グレイはふっと微笑んだ。
「ミアの修道院ところだろう?」
「はい!」

 ミアからは時々手紙が届く。
 ミアも去年の卒業パーティーの日に光を感じてゲームの終わりを悟ったそうだ。
「周りが女性ばかりで私の『ヒロイン力』が役立たない場面も多いけど、修道院を仕切るボスになる計画は着々と進行中よ!ただ、最初は余暇にする事もなくて、暇潰しに学園の教科書とかを読んでたら、最近は勉強も面白くなって来ちゃって。どうせなら修道院に併設の診療所で働けるように医師か看護師の資格を取ろうかと思ってるの」
 と手紙に書いてあったから、何か役立ちそうな本とかを差し入れしたいし、会って話したいな。

「ミアが俺たちの赤い糸をゲーム内の適切な時期に切っていれば、イライザは今こうして俺の腕の中にはいなかったのだな…」
 グレイがイライザの額に自分の額をつけながら言った。
「そうですね」
 私はゲームのシナリオ通りだった時の悪役令嬢イライザがどう断罪されて、その後どうなるのかは知らないけど、少なくとも幸せにはならない筈だもん。
「…イライザを思い切り抱きしめたいが、髪も化粧も崩れてしまうから、やはり我慢か」
「ふふふ。そうですね」

 笑顔のイライザを少し見つめた後、グレイはイライザの唇に軽く自分のそれで触れる。
「!」
「イライザとミアが転生者であった事が俺にとっての幸運だ。赤い糸を他人に切られ、繋がれて作られた運命ではなく、イライザが俺の運命だからな」
 グレイはそう言うと、唇にほんの少し着いた赤い紅をペロリと舐め取った。
 うわあ。何と言うか…やらしいわ。この仕草。
「ん?」
 頬を赤くしたイライザの顔を覗き込むグレイ。
「やらしい~でもカッコいい~好き~」
「ははは」
 思わず言うイライザに、グレイは笑う。

「そろそろ行こうか」
「はい」
 グレイが笑顔でイライザに手を差し出すと、イライザも笑顔でその手を取った。



        ー 了 ー
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

あんころ
2023.04.20 あんころ

最新話まで一気に拝読しました
グレイが最初ずいぶん拗らせてるなーとヤキモキしましたが
赤い糸の説明を呼んで納得しました!
これからは悲しませたぶんイライザを大事にしてあげてほしいです
グレイとイライザがどんな風に幸せになっていくか
最終回まで更新を楽しみにしてます!

ねーさん
2023.04.21 ねーさん

感想ありがとうございます。すごく嬉しいです!
最終回までイライザとグレイを見守ってくださいますようお願いしますm(_ _)m

解除

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。