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「イライザ!」
紫色の視界にぼんやりと人影が浮かび上がり、イライザが目を凝らすと、人影は段々と鮮明になって行き…心配そうな表情のグレイが見えた。
「……グレイ様」
「イライザ…良かった…」
グレイは両手で握っていたイライザの手に額をつけて呟く。
「ここは学園の救護室だ。医師が控えているから診てもらおう」
顔を上げたグレイが言う。
「はい…」
すごく頭が痛かったけど、今は何ともない。
あの頭痛は何だったんだろう?
それにグレイ様にものすごく心配掛けたみたいで申し訳ないな。
ベッドの横の椅子から立ち上がるグレイ。
イライザの眼に、赤い物が写った。
「!」
グレイの手首に赤いリボン状の物が巻き付いている。
赤い糸!!
え?どうして?また見えるようになったの?
イライザは恐る恐る視線を自分の両手へと向けた。
「繋がってる…」
イライザの手首に巻き付いた赤いリボンは、医師を呼びに廊下へと出て行ったグレイと繋がっている。
繋がってる。
グレイ様と。
ちゃんと。
ボロボロボロッと、大粒の涙が溢れた。
「イライザ、医師を……!?なっ、何で泣いているんだ!?」
救護室の扉を開けて入って来たグレイが、大粒の涙をボロボロと流しているイライザに気付いて目を丸くする。
慌ててベッドに近付いて来るグレイと、イライザの手首の赤い糸は確かに繋がっていた。
「どこか痛むのか!?」
イライザの顔を覗き込むグレイに、イライザはぶんぶんと首を横に振る。
「…ありがとう。イライザ」
誰にも聞こえないように呟くと、イライザはグレイに抱きついた。
-----
「それで、今までの条件では見えない筈の人の赤い糸も、全部見えたんですか?」
部屋着のワンピースを着たアンリが、イライザの部屋のソファに座って言う。先日無事にフォスター侯爵家の養女となったアンリは今は「お嬢様修行中」なのだ。
アンリの向かい側に座ったイライザは紅茶を飲みながら頷いた。
「そうなの。あの後救護室に入って来た医師のも見えたし、パーティーの会場に戻ったら、その場に居た生徒たちの赤い糸が全部見えて…赤い糸だらけで着てるドレスの色が見えない位だったわよ」
「それはすごいですね…」
「でも一時間くらい経ったら、一瞬何かパッと光ったような感じがして、それで眩しくて目を閉じて、開けたらもう見えなくなってたの」
「光ったんですか?」
イライザはカップをソーサーに置くと、口元に手を当てる。
「多分…あれはゲームが終わったサインだったんじゃないかな?ゲームのクライマックスが卒業パーティーだったし」
「ゲーム…そう言えばそうでしたね」
「そう。ヒロインがいなくなって、赤い糸も見えなくなったし、ゲームの展開と色々変わり過ぎたから『そう言えばここってゲームの世界だったっけ』って感じなんだけどね。私も」
うんうんと頷きながらイライザが言った。
「あの、イライザお嬢……様」
「『お嬢』まで言っちゃったらもうアウトじゃない?」
「アウト?外ですか?」
アンリがきょとんとして言う。
「あ、これ前世の言葉だった。えっと…不成功とか、違反とかって意味で…つまり駄目って事よ」
アウトって野球用語だからここで通じる訳なかったわ。
「なかなか『イライザ様』とお呼びするのに慣れなくて…」
「わかるわ」
「あの、でもそうじゃなくて、赤い糸が見える前に頭が痛くなって倒れたと言うのはもう大丈夫なんですか?」
アンリがイライザの方へ身を乗り出す。
こうして私の身体を心配してくれるアンリ。やっぱり大好きだわ。
「あのね、倒れた時に、イライザを感じたのよ」
「え?元々のイライザお嬢様ですか?」
「そう。やっぱりもう声は聞こえなかったんだけど…イライザがゲームが終わる前に、私とグレイ殿下の赤い糸がちゃんと繋がってるのを見せてくれたんだと思うの」
頭が痛かったのは、生命力みたいな物が弱まってるイライザが、私に赤い糸が見えるように頑張ってくれた副作用みたいなものだったんじゃないのかな。
「でも赤い糸が見えて良かったわ。ディアナ様やロイ殿下の事、気になってたから」
ディアナ様とアレックス様の赤い糸も前より色濃く繋がってたし、ロイ殿下とマリアンヌ様のも相変わらずちゃんと繋がってた。ブリジットとお兄様も、ナタリア様とジェフリー様も。ワイゼル様が幼なじみの女の子と繋がってるのもわかったし。まあシェリー様が学園の教師と繋がってたのには少し驚いたけど。
「あ、の…」
アンリが言い辛そうに上目遣いでイライザを見た。
「なあに?」
ニッコリ笑って首を傾げるイライザ。
「わっ、私の…いえ、あの…」
不安そうなアンリに、イライザは思わず吹き出した。
「大丈夫。アンリ姉様の赤い糸、ちゃんとエドモンド殿下に繋がっていたわ」
「イライザ!」
紫色の視界にぼんやりと人影が浮かび上がり、イライザが目を凝らすと、人影は段々と鮮明になって行き…心配そうな表情のグレイが見えた。
「……グレイ様」
「イライザ…良かった…」
グレイは両手で握っていたイライザの手に額をつけて呟く。
「ここは学園の救護室だ。医師が控えているから診てもらおう」
顔を上げたグレイが言う。
「はい…」
すごく頭が痛かったけど、今は何ともない。
あの頭痛は何だったんだろう?
それにグレイ様にものすごく心配掛けたみたいで申し訳ないな。
ベッドの横の椅子から立ち上がるグレイ。
イライザの眼に、赤い物が写った。
「!」
グレイの手首に赤いリボン状の物が巻き付いている。
赤い糸!!
え?どうして?また見えるようになったの?
イライザは恐る恐る視線を自分の両手へと向けた。
「繋がってる…」
イライザの手首に巻き付いた赤いリボンは、医師を呼びに廊下へと出て行ったグレイと繋がっている。
繋がってる。
グレイ様と。
ちゃんと。
ボロボロボロッと、大粒の涙が溢れた。
「イライザ、医師を……!?なっ、何で泣いているんだ!?」
救護室の扉を開けて入って来たグレイが、大粒の涙をボロボロと流しているイライザに気付いて目を丸くする。
慌ててベッドに近付いて来るグレイと、イライザの手首の赤い糸は確かに繋がっていた。
「どこか痛むのか!?」
イライザの顔を覗き込むグレイに、イライザはぶんぶんと首を横に振る。
「…ありがとう。イライザ」
誰にも聞こえないように呟くと、イライザはグレイに抱きついた。
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「それで、今までの条件では見えない筈の人の赤い糸も、全部見えたんですか?」
部屋着のワンピースを着たアンリが、イライザの部屋のソファに座って言う。先日無事にフォスター侯爵家の養女となったアンリは今は「お嬢様修行中」なのだ。
アンリの向かい側に座ったイライザは紅茶を飲みながら頷いた。
「そうなの。あの後救護室に入って来た医師のも見えたし、パーティーの会場に戻ったら、その場に居た生徒たちの赤い糸が全部見えて…赤い糸だらけで着てるドレスの色が見えない位だったわよ」
「それはすごいですね…」
「でも一時間くらい経ったら、一瞬何かパッと光ったような感じがして、それで眩しくて目を閉じて、開けたらもう見えなくなってたの」
「光ったんですか?」
イライザはカップをソーサーに置くと、口元に手を当てる。
「多分…あれはゲームが終わったサインだったんじゃないかな?ゲームのクライマックスが卒業パーティーだったし」
「ゲーム…そう言えばそうでしたね」
「そう。ヒロインがいなくなって、赤い糸も見えなくなったし、ゲームの展開と色々変わり過ぎたから『そう言えばここってゲームの世界だったっけ』って感じなんだけどね。私も」
うんうんと頷きながらイライザが言った。
「あの、イライザお嬢……様」
「『お嬢』まで言っちゃったらもうアウトじゃない?」
「アウト?外ですか?」
アンリがきょとんとして言う。
「あ、これ前世の言葉だった。えっと…不成功とか、違反とかって意味で…つまり駄目って事よ」
アウトって野球用語だからここで通じる訳なかったわ。
「なかなか『イライザ様』とお呼びするのに慣れなくて…」
「わかるわ」
「あの、でもそうじゃなくて、赤い糸が見える前に頭が痛くなって倒れたと言うのはもう大丈夫なんですか?」
アンリがイライザの方へ身を乗り出す。
こうして私の身体を心配してくれるアンリ。やっぱり大好きだわ。
「あのね、倒れた時に、イライザを感じたのよ」
「え?元々のイライザお嬢様ですか?」
「そう。やっぱりもう声は聞こえなかったんだけど…イライザがゲームが終わる前に、私とグレイ殿下の赤い糸がちゃんと繋がってるのを見せてくれたんだと思うの」
頭が痛かったのは、生命力みたいな物が弱まってるイライザが、私に赤い糸が見えるように頑張ってくれた副作用みたいなものだったんじゃないのかな。
「でも赤い糸が見えて良かったわ。ディアナ様やロイ殿下の事、気になってたから」
ディアナ様とアレックス様の赤い糸も前より色濃く繋がってたし、ロイ殿下とマリアンヌ様のも相変わらずちゃんと繋がってた。ブリジットとお兄様も、ナタリア様とジェフリー様も。ワイゼル様が幼なじみの女の子と繋がってるのもわかったし。まあシェリー様が学園の教師と繋がってたのには少し驚いたけど。
「あ、の…」
アンリが言い辛そうに上目遣いでイライザを見た。
「なあに?」
ニッコリ笑って首を傾げるイライザ。
「わっ、私の…いえ、あの…」
不安そうなアンリに、イライザは思わず吹き出した。
「大丈夫。アンリ姉様の赤い糸、ちゃんとエドモンド殿下に繋がっていたわ」
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