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「イライザには王宮からグレイ殿下との婚約の打診が来ている。もちろん実際に議会に掛けられるのはエドモンド殿下が帰国した後にはなるが。イライザ、これは受けて良いな?」
 家族会議でアドルフの話が終わると、父がイライザにそう言った。
「はい!是非!」
 背筋を伸ばしてそう返事をするイライザに、父は困ったように微笑む。
「…イライザがグレイ殿下を慕っていたのは知っていたが、まさか本当に第一王子に輿入れする事になるとはな。隣国に行くよりは国内なだけ良いが…アドルフは公爵家へ行き、ブリジットも嫁に行く…少し淋しくはあるが、子供たちが皆幸せになる道筋が決まり、親としては嬉しく思わなくてはならないな」
 父がしみじみと言うと、母が父の膝の上の手を握った。
「そうね。でもアンリと言う娘が増えて、隣国の第三王子なんて立派な方がお婿さんに来てくださるの。その内孫もできたりして…きっと賑やかで楽しくなるわ」
「そうだな。楽しみだ」

 父と母は見つめ合ってニッコリと笑い合う。
「そこでアンリ」
「はっ、はい!」
 父がアンリの方を見て、今度はアンリが背筋を伸ばした。
「今日から私たちの事は父、母と、アドルフは兄、イライザとブリジットの事は名前で呼びなさい」
「…え?」
「アンリのお家へもご挨拶したし、書類関係も整って、養子縁組はもういつでもできるのよ。春からはイライザのお妃教育も内々に始まるの。ブリジットも公爵家へ嫁ぐのだし、イライザと一緒に教育を受けるのよ。だからアンリも一緒に、と考えているの」
 母がの前で両手を合わせて言う。
「イライザお嬢様とブリジットお嬢様と一緒に…ですか?」
 アンリがおずおずと言うと、母は嬉しそうに笑った。
「うちの娘たちは皆んな生家より格上の家に嫁ぐ事になったのだから必要な事よ。それにまだ内々の話だからと、通常、王子の婚約者は教育を受けるために王城へ通わなければならないのに、我が家に講師の方を派遣してくださるの。王城での教育を姉妹が共に受ける事はできないけれど、この家に来てくださるなら一緒に教育を受けられる。もちろん許可はいただいているわ。そのためにも春までにアンリの養子縁組の手続きを済ませて正式に『フォスター家の娘』にしておきたいのよ」
「娘に…」
「だからアンリも我が家の娘、アドルフの妹、イライザとブリジットの姉である事に早く慣れて欲しい」
 父もニコリと笑って言う。

「アンリお姉様、一緒に教育を受けられて嬉しいわ」
 イライザは隣に座るアンリの手を両手でぎゅっと握った。
「イライザお嬢様…」
「お嬢様はいらないわ。姉なら妹は呼び捨てだけど、さすがに呼び辛いでしょうから『イライザ様』で」
「イライザおじょ…イライザ様…?」
 アンリが首を傾げながら言うと、イライザは握った手を上下にブンブンと振る。
「そうそう」
「じゃあ私は『ブリジット様』ね。アンリお姉様」
 ブリジットが自分を指差すと、アンリは
「ブリジット様…」
 と呟くように言った。

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 お茶の準備が整った東屋で、イライザが手紙を読んでいると、グレイが屋敷の方から歩いて来た。
「グレイ様」
 手紙を畳んでテーブルに置くと、イライザは立ち上がってグレイを迎える。
 軽くハグをするとグレイはイライザの額にキスをする。二人きりの時の最近の挨拶だ。
 椅子に座りながらグレイが置いてある手紙に視線をやった。
「あ、ミアからです。修道院から初めて手紙をくれたんです」
 視線に気付いたイライザが言うと、グレイは頷く。
「そうか。ミアは元気そうか?」
「はい。元気は元気ですけど…新入り虐めのような事があったみたいで」
「虐め?」
 グレイが驚いた様子でイライザを見る。
 イライザは首を捻った。
「それが、虐めてきた相手を返り討ちにしたらしく『私、この修道院のボスになるわ!』って書いてありまして…」
 ミアらしい。でもヒロインのやる事じゃないような…いや「ヒロインに転生したのに何故か断罪されたので修道院を仕切ります」ってラノベ風でやっぱりミアらしいのかな?
「それは…まあ元気そうで良かった」
「そうですね」
 グレイが苦笑いしながら言い、イライザも笑った。

 イライザはテーブルの端に置いてあるポットからカップに紅茶を注ぐ。
 学園の休みの日、エドモンドとグレイがフォスター家を訪れた短い時間にしか二人でいられないため、イライザは本来侍女が担うお茶を注ぐ役目を自ら買って出ているのだ。

「…イライザにお茶を注いでもらうたびに昔の事を思い出すな」
 グレイが笑みを浮かべて言う。
「もう溢しませんよ?」
 イライザも笑いながらグレイの前にソーサーに乗ったカップを置いた。



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