74 / 79
73
しおりを挟む
73
エドモンドは素早くソファから立ち上がりながら、首に巻き付いたアンリの腕を解き、脇に手を入れると、アンリの身体を持ち上げて自分の方へと引く。
「きゃあ!」
アンリはソファの背を越えて、座面へと倒れ込み…気が付くとソファの前にしゃがんだエドモンドと抱き合う形になっていた。
「で、殿下!?」
アンリが慌てて少し顔を離す。
エドモンドは眉を顰めて口角を上げて…泣き笑いの表情でアンリを見ていた。
「…ご無礼を…お許しください」
アンリは震える両手でエドモンドの頬に触れる。
エドモンドは片方の手で頬に触れたアンリの手を握ると、自分の頬に押し付けた。
「あの…わ…私…怖くて。王子様を好きになるなんて…怖くて…」
「うん。わかるよ」
「…でも…エドモンド殿下が他の令嬢と結婚されるんだと思うと…それも…嫌で……」
「うん。そう思ってくれるなら、俺は嬉しい」
アンリの掌へ頬擦りをする。
「アンリは俺の事、少しは好きなんだと思っていいかな?」
「…あの…少しではないです」
アンリは小声で言うと、俯いた。
「ん?」
上目遣いにエドモンドを見るアンリの頬が真っ赤に染まっている。
「か、かなり……好き…です」
「……!」
エドモンドは目を丸くすると、感極まったようにアンリを抱きしめた。
「ひゃあ!」
小さく悲鳴を上げるアンリ。
「嬉しい。アンリ、好きだ」
「……私も」
聞こえるか聞こえないかの声で言うアンリをエドモンドは強く抱きしめた。
-----
「それで、エドモンド殿下が『少しづつ怖さを失くして行こう』と仰いまして…」
イライザの髪を梳きながらアンリが言うと、イライザはうんうんと頷く。
「ええ。それで?」
「『兎にも角にも、慣れる事だ』と。『次に来た時には向かいに座ってお茶を飲んで欲しい』と…緊張するなら無理に喋ろうとしなくても良いと仰っていただきました」
少し頬を赤くして言うアンリを見て、嬉しそうで良かったとイライザは思った。
「そうね。少しづつ慣れていくしかないわ」
「でも、本当にいいのでしょうか?私なんかが…」
「アンリ、そんな言い方しては駄目。エドモンド殿下に失礼よ」
イライザは鏡越しにアンリを見る。
「…そうですね。気を付けます」
しゅんとした顔をするアンリ。
「アンリの『怖い』って気持ちはわかるわ。だって『王子様』だもん。自分が雲の上の人と恋愛するだなんて想像もしてないものね」
イライザがそう言うと、アンリは勢い良く頷いた。
「そう。そうなんです」
「でも好きになっちゃったんだから仕方ないわ。エドモンド殿下が地上に降りて来ようとしてくださってるんだから、アンリも塔の上まで頑張って登って出迎えなきゃ」
「な…成程」
聳え立つ塔を想像するようにアンリは視線を上にあげた。
「イライザお嬢様が眠られている間には、あまり王子殿下だと意識もせずに話していたんです。それなのに恋愛とか結婚とか意識すると…途端に怖くなるなんて…不思議ですよね」
アンリは上を見上げたままで言う。
「アンリの場合は色々付随する物事が多いんだから、多少怖気付いたとしても仕方ないし、何の不思議もないわ」
「そう…ですかね?」
「そうよ。だって相手は隣国の王子で、その王子が他国の貴族の家を継ぐと言ってて、自分も侯爵家の養女…つまり私とブリジットの姉になるのよ?それでいずれは侯爵家か公爵家の女主人だもの。怖気付かない方がおかしいわ」
イライザが人差し指を立てて言うと、アンリは自分の両腕を抱いて身震いした。
「…改めてそう並べられると余計に怖くなって来ました」
「あ。脅すつもりじゃないのよ」
「はい。もちろん。私にとっては世界が一変するに等しいので、怖いと思うのが当たり前って事ですよね?でも…イライザお嬢様と姉妹になれるのは嬉しいです」
アンリは少し微笑みながら言う。
「本当?」
イライザがアンリの方に振り向くと、アンリはニコリと笑った。
「僭越ながら、これまでも私はイライザお嬢様に、姉のような気持ちでお仕えして来ました」
「そうね」
「それが、義理ではありますが名実共にイライザお嬢様が『私の妹』ですよ?誰憚る事なく『私の義妹、かわいい!』って言えるんですよ!?」
アンリが握り拳をぐっと握るのを、イライザはポカンとして眺める。
「かわ…いい?」
「そうです!ミア様が現れてから…悪役令嬢とやらになっていたイライザお嬢様は…まあアレでしたけど、基本的にお嬢様は一途でかわいいと私はずっと思っていました」
アレって…まあアレだけども…
「グレイ殿下にお嬢様のかわいらしさに気付いていただけないのが本当に歯痒くて。でも今なら殿下とイライザお嬢様のかわいさについて語り合えそうな気がします」
真顔で言うアンリ。
「かかか語り合うならエドモンド殿下との将来にしてちょうだい!」
イライザは頬を真っ赤にして思わず叫んだ。
エドモンドは素早くソファから立ち上がりながら、首に巻き付いたアンリの腕を解き、脇に手を入れると、アンリの身体を持ち上げて自分の方へと引く。
「きゃあ!」
アンリはソファの背を越えて、座面へと倒れ込み…気が付くとソファの前にしゃがんだエドモンドと抱き合う形になっていた。
「で、殿下!?」
アンリが慌てて少し顔を離す。
エドモンドは眉を顰めて口角を上げて…泣き笑いの表情でアンリを見ていた。
「…ご無礼を…お許しください」
アンリは震える両手でエドモンドの頬に触れる。
エドモンドは片方の手で頬に触れたアンリの手を握ると、自分の頬に押し付けた。
「あの…わ…私…怖くて。王子様を好きになるなんて…怖くて…」
「うん。わかるよ」
「…でも…エドモンド殿下が他の令嬢と結婚されるんだと思うと…それも…嫌で……」
「うん。そう思ってくれるなら、俺は嬉しい」
アンリの掌へ頬擦りをする。
「アンリは俺の事、少しは好きなんだと思っていいかな?」
「…あの…少しではないです」
アンリは小声で言うと、俯いた。
「ん?」
上目遣いにエドモンドを見るアンリの頬が真っ赤に染まっている。
「か、かなり……好き…です」
「……!」
エドモンドは目を丸くすると、感極まったようにアンリを抱きしめた。
「ひゃあ!」
小さく悲鳴を上げるアンリ。
「嬉しい。アンリ、好きだ」
「……私も」
聞こえるか聞こえないかの声で言うアンリをエドモンドは強く抱きしめた。
-----
「それで、エドモンド殿下が『少しづつ怖さを失くして行こう』と仰いまして…」
イライザの髪を梳きながらアンリが言うと、イライザはうんうんと頷く。
「ええ。それで?」
「『兎にも角にも、慣れる事だ』と。『次に来た時には向かいに座ってお茶を飲んで欲しい』と…緊張するなら無理に喋ろうとしなくても良いと仰っていただきました」
少し頬を赤くして言うアンリを見て、嬉しそうで良かったとイライザは思った。
「そうね。少しづつ慣れていくしかないわ」
「でも、本当にいいのでしょうか?私なんかが…」
「アンリ、そんな言い方しては駄目。エドモンド殿下に失礼よ」
イライザは鏡越しにアンリを見る。
「…そうですね。気を付けます」
しゅんとした顔をするアンリ。
「アンリの『怖い』って気持ちはわかるわ。だって『王子様』だもん。自分が雲の上の人と恋愛するだなんて想像もしてないものね」
イライザがそう言うと、アンリは勢い良く頷いた。
「そう。そうなんです」
「でも好きになっちゃったんだから仕方ないわ。エドモンド殿下が地上に降りて来ようとしてくださってるんだから、アンリも塔の上まで頑張って登って出迎えなきゃ」
「な…成程」
聳え立つ塔を想像するようにアンリは視線を上にあげた。
「イライザお嬢様が眠られている間には、あまり王子殿下だと意識もせずに話していたんです。それなのに恋愛とか結婚とか意識すると…途端に怖くなるなんて…不思議ですよね」
アンリは上を見上げたままで言う。
「アンリの場合は色々付随する物事が多いんだから、多少怖気付いたとしても仕方ないし、何の不思議もないわ」
「そう…ですかね?」
「そうよ。だって相手は隣国の王子で、その王子が他国の貴族の家を継ぐと言ってて、自分も侯爵家の養女…つまり私とブリジットの姉になるのよ?それでいずれは侯爵家か公爵家の女主人だもの。怖気付かない方がおかしいわ」
イライザが人差し指を立てて言うと、アンリは自分の両腕を抱いて身震いした。
「…改めてそう並べられると余計に怖くなって来ました」
「あ。脅すつもりじゃないのよ」
「はい。もちろん。私にとっては世界が一変するに等しいので、怖いと思うのが当たり前って事ですよね?でも…イライザお嬢様と姉妹になれるのは嬉しいです」
アンリは少し微笑みながら言う。
「本当?」
イライザがアンリの方に振り向くと、アンリはニコリと笑った。
「僭越ながら、これまでも私はイライザお嬢様に、姉のような気持ちでお仕えして来ました」
「そうね」
「それが、義理ではありますが名実共にイライザお嬢様が『私の妹』ですよ?誰憚る事なく『私の義妹、かわいい!』って言えるんですよ!?」
アンリが握り拳をぐっと握るのを、イライザはポカンとして眺める。
「かわ…いい?」
「そうです!ミア様が現れてから…悪役令嬢とやらになっていたイライザお嬢様は…まあアレでしたけど、基本的にお嬢様は一途でかわいいと私はずっと思っていました」
アレって…まあアレだけども…
「グレイ殿下にお嬢様のかわいらしさに気付いていただけないのが本当に歯痒くて。でも今なら殿下とイライザお嬢様のかわいさについて語り合えそうな気がします」
真顔で言うアンリ。
「かかか語り合うならエドモンド殿下との将来にしてちょうだい!」
イライザは頬を真っ赤にして思わず叫んだ。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる