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イライザの寝支度を整えて部屋を出て行こうとするアンリをイライザは呼び止めた。
「アンリ、あのね」
「はい」
「エドモンド殿下の事、アンリが本当に嫌なら私からお断りする事もできるから、あまり負担に思わないで。でもね、逆に少しでもエドモンド殿下に好意があるなら…色々なしがらみや障害は私が何とかするから、迷わず飛び込むのよ!」
イライザはベッドに座り、グッと握り拳を作る。
「イライザお嬢様…」
困ったように笑うアンリ。
「それと…ごめんね」
俯くイライザ。
「お嬢様?」
アンリは首を傾げた。
「…元のイライザ…もう話…できないって」
「え…?」
「元のイライザが表に出てきたの…相当無理したみたいで、夢の中で『もう死に掛けてもどうする事もできない。これが最後の会話よ』って…」
「最後…ですか?」
「うん。今こうしている限り、何かが変わった感じはしないんだけど…もう元のイライザが表に出て来る事はないと思う」
「そうなんですか…でも、消えてしまった訳ではないんですよね?」
「うん。でももう元のイライザと話せないから…お別れもさせてあげられなくてごめんなさい」
俯くイライザの前に膝をつくと、アンリはイライザを見上げた。
「元のイライザお嬢様も、生まれ変わったイライザお嬢様も、同じイライザお嬢様ではないですか。私はお嬢様が階段から転落した時と湖に落ちた時、助かってくださっただけで充分で、今目の前におられるお二方が一人になったお嬢様が大好きですよ」
アンリは両手でイライザの手を上下から挟むように握る。
「…アンリ、ありがとう。私もアンリが大好き」
イライザが涙ぐんで言うと、アンリは慰めるようにイライザの手の甲を摩った。
「光栄です」
「それとね、私…赤い糸、見えなくなったの」
「え?」
「イライザが消える前に『赤い糸が見える力は私が持って行くから』って…今日本当にブリジットの赤い糸が見えなかった。お父様とお母様のも」
「そうなんですか…でもそれで良かったような気がします」
イライザの手を摩りながらアンリは笑って言う。
「実は私も…そう思う」
グレイ殿下は「もし俺と他の女性が赤い糸で繋がったらイライザが切って」と言われたけど、本当に殿下の赤い糸が他の女性と繋がったら…多分私、切れない。
だって、赤い糸が繋がるって事は、その人と結ばれる方が幸せになれるんじゃないかと思うし。その可能性がある以上、悩むし嫌だし苦しいけど、やっぱり切る事はできないんじゃないかな。
それに。
「…他の人に繋がってるの…見たくないし」
イライザがそう呟くと、アンリは手を止めた。
「そう言えば、お嬢様、グレイ殿下と両想いになられた事、話してくれませんでしたね?」
上目遣いでジトッとイライザを睨む。
「だって…私がこの家を継がなきゃって、だから誰にも知られない内に殿下にお断りしなきゃって思ってたんだもん」
「それはわかりますけど…ブリジット様もお怒りでしたし、私も少し怒ってますよ」
ブリジットにはグレイ殿下とエドモンド殿下がお帰りになった後、エドモンド殿下が我が家か公爵家を継ぐと申し出られた件と併せてグレイ殿下の事を話したら、ブリジットはプンプンって擬音が聞こえそうなくらい怒ったのよね。
「あんなに好きだったグレイ殿下に『好き』って言っていただいたのに、どうして断るなんて選択肢を選ぶの!?ううん。むしろその選択肢だけはない。ないわよ!それに、姉様一人が犠牲になれば…なんて考え方、絶対に間違ってるわ!」
その時のブリジットの剣幕を思い出して、イライザはふふっと笑った。
「お嬢様?」
「ブリジットが怒りながら私の手を掴んで、二人でお兄様の部屋へ駆け込んで…と言うか、私はブリジットに引き摺られて行ったんだけど。ブリジットが怒りながら説明して…あの時のお兄様、驚いて困って、でも愛おしそうにブリジットを見てて…その後、私、お兄様にも叱られたわ」
お兄様はブリジットが一通り話して落ち着いた処で私に
「イライザの気持ちを押し殺して、その上に成り立つ私とブリジットの幸せなどないんだよ。父上と母上も言われたように、私たちは等しく幸福にならないといけないんだ」
と言われたの。穏やかな口調だったけど、少し怒ってた。
悪役令嬢のイライザもいつもお兄様やブリジットを怒らせていた。でもそれは今みたいに私の事を大切に思って、それで怒ってくれるのとは大違いだったもん。
「こんな風に皆んなに怒ってもらえるのって…怒られてるのに何だか嬉しいのね」
イライザがしみじみと言うと、アンリも笑って頷いた。
イライザの寝支度を整えて部屋を出て行こうとするアンリをイライザは呼び止めた。
「アンリ、あのね」
「はい」
「エドモンド殿下の事、アンリが本当に嫌なら私からお断りする事もできるから、あまり負担に思わないで。でもね、逆に少しでもエドモンド殿下に好意があるなら…色々なしがらみや障害は私が何とかするから、迷わず飛び込むのよ!」
イライザはベッドに座り、グッと握り拳を作る。
「イライザお嬢様…」
困ったように笑うアンリ。
「それと…ごめんね」
俯くイライザ。
「お嬢様?」
アンリは首を傾げた。
「…元のイライザ…もう話…できないって」
「え…?」
「元のイライザが表に出てきたの…相当無理したみたいで、夢の中で『もう死に掛けてもどうする事もできない。これが最後の会話よ』って…」
「最後…ですか?」
「うん。今こうしている限り、何かが変わった感じはしないんだけど…もう元のイライザが表に出て来る事はないと思う」
「そうなんですか…でも、消えてしまった訳ではないんですよね?」
「うん。でももう元のイライザと話せないから…お別れもさせてあげられなくてごめんなさい」
俯くイライザの前に膝をつくと、アンリはイライザを見上げた。
「元のイライザお嬢様も、生まれ変わったイライザお嬢様も、同じイライザお嬢様ではないですか。私はお嬢様が階段から転落した時と湖に落ちた時、助かってくださっただけで充分で、今目の前におられるお二方が一人になったお嬢様が大好きですよ」
アンリは両手でイライザの手を上下から挟むように握る。
「…アンリ、ありがとう。私もアンリが大好き」
イライザが涙ぐんで言うと、アンリは慰めるようにイライザの手の甲を摩った。
「光栄です」
「それとね、私…赤い糸、見えなくなったの」
「え?」
「イライザが消える前に『赤い糸が見える力は私が持って行くから』って…今日本当にブリジットの赤い糸が見えなかった。お父様とお母様のも」
「そうなんですか…でもそれで良かったような気がします」
イライザの手を摩りながらアンリは笑って言う。
「実は私も…そう思う」
グレイ殿下は「もし俺と他の女性が赤い糸で繋がったらイライザが切って」と言われたけど、本当に殿下の赤い糸が他の女性と繋がったら…多分私、切れない。
だって、赤い糸が繋がるって事は、その人と結ばれる方が幸せになれるんじゃないかと思うし。その可能性がある以上、悩むし嫌だし苦しいけど、やっぱり切る事はできないんじゃないかな。
それに。
「…他の人に繋がってるの…見たくないし」
イライザがそう呟くと、アンリは手を止めた。
「そう言えば、お嬢様、グレイ殿下と両想いになられた事、話してくれませんでしたね?」
上目遣いでジトッとイライザを睨む。
「だって…私がこの家を継がなきゃって、だから誰にも知られない内に殿下にお断りしなきゃって思ってたんだもん」
「それはわかりますけど…ブリジット様もお怒りでしたし、私も少し怒ってますよ」
ブリジットにはグレイ殿下とエドモンド殿下がお帰りになった後、エドモンド殿下が我が家か公爵家を継ぐと申し出られた件と併せてグレイ殿下の事を話したら、ブリジットはプンプンって擬音が聞こえそうなくらい怒ったのよね。
「あんなに好きだったグレイ殿下に『好き』って言っていただいたのに、どうして断るなんて選択肢を選ぶの!?ううん。むしろその選択肢だけはない。ないわよ!それに、姉様一人が犠牲になれば…なんて考え方、絶対に間違ってるわ!」
その時のブリジットの剣幕を思い出して、イライザはふふっと笑った。
「お嬢様?」
「ブリジットが怒りながら私の手を掴んで、二人でお兄様の部屋へ駆け込んで…と言うか、私はブリジットに引き摺られて行ったんだけど。ブリジットが怒りながら説明して…あの時のお兄様、驚いて困って、でも愛おしそうにブリジットを見てて…その後、私、お兄様にも叱られたわ」
お兄様はブリジットが一通り話して落ち着いた処で私に
「イライザの気持ちを押し殺して、その上に成り立つ私とブリジットの幸せなどないんだよ。父上と母上も言われたように、私たちは等しく幸福にならないといけないんだ」
と言われたの。穏やかな口調だったけど、少し怒ってた。
悪役令嬢のイライザもいつもお兄様やブリジットを怒らせていた。でもそれは今みたいに私の事を大切に思って、それで怒ってくれるのとは大違いだったもん。
「こんな風に皆んなに怒ってもらえるのって…怒られてるのに何だか嬉しいのね」
イライザがしみじみと言うと、アンリも笑って頷いた。
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